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優しいオジチャン。 Ⅳ

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 俺はテーブルの石神さんに呼ばれた。

 「大丈夫だったか?」
 石神さんは、笑って俺に聞いた。

 「はい! 可愛らしいお子さん二人に助けてもらいました!」
 「そうか。あいつらが食事で他人を守るなんて、滅多にないんだ。数人だけよな」
 「そうなんですか!」
 「大好きな人間だけ。それが世界に数人しかいねぇ。アハハハハハ!」

 俺の火山がまた噴火した。

 「灰寺さんが、ちょっと事故に遭ったと聞いてな。うちの仕事で無理してないか心配だったんだ」
 「いえ! ひき逃げだそうですが、どこも異常はなかったんです」
 「そうか、安心したよ」

 「僕に体力がなくって。東雲さんや石神さんたちに、御心配をおかけしました」
 「いや、そうじゃないんだ。まあ、実はな、あの事故はうちの子どもたちのせいだって分かってな」
 「え?」
 「だから申し訳なくて、お詫びをしたかったんだ」
 「じゃあ、昨日のお金は」
 「ああ。あんなものじゃ全然だけどなぁ」
 
 「あの、石神さん」
 「うん?」
 「よくは分からないんですが、ルーさんとハーさんのために事故に遭ったということなら、それは僕の誇りです!」
 「なんだって?」

 「お二人を守って事故に遭ったんなら、僕は嬉しいです!」
 「いや、そういうわけじゃないんだけどなぁ。でも、灰寺さんがそう言ってくれるなら俺も嬉しいよ」
 「僕はお二人が大好きですから!」
 「そうか。まあ、ありがたいな。灰寺さんはいい人だな」
 「いいえ!」

 石神さんが、俺の気持ちを受け入れてくれた!
 あらためて、天使ちゃんたちの名前「瑠璃」と「玻璃」を教えてくれた。
 どちらがルーちゃんで、どちらがハーちゃんかも分かった。

 「良かったら今後もうちの仕事を頼むよ」
 「はい、是非!」
 「灰寺さんはお仕事は?」
 「はい! 親の経営するアパートの管理です」
 「そうなんだ」
 「正直に言えば、ただのニートです。何にもしないで、ただブラブラしているだけなんです」
 「へぇ」

 「でも! 石神さんのお宅で働かせてもらって! 僕は初めて本当に仕事をする嬉しさが分かりました!」
 「そうか。でも今まで何もやってこなかったのなら、きつい仕事だろう」
 「申し訳ありません! 毎日倒れてばっかで、全然お役に立てなくて」
 「いいや、倒れるまでやるなんて、スゴイことだと思うぞ?」
 「ほんとですか!」

 石神さんは俺のことを一杯褒めてくれ、俺に引き続きやって欲しいと言ってくれた。

 「東雲! 灰寺さんをもう倒れるまでやらせるな!」
 「はい! 必ずそのようにします!」

 コーヒーとデザートのプリンまで頂いた。
 こんな食事は初めてだった。




 翌日。
 俺はずっと東雲さんの傍に置かれた。
 東雲さんから、直接仕事を指示された。
 身体はそれほど疲れていない。
 軽い仕事が多かったせいもあるが、昨日の食事だと思った。
 あんなに豪華で、しかも温かい食卓が、俺に力を与えていた。

 三時の休憩で、また天使ちゃんたちが来た。

 「今日はどら焼きとたこ焼きですよー!」

 その時、突風が吹いて、立てかけていた材木が数本倒れた。

 「あぶない!」

 俺は必死で駆け寄り、天使ちゃんたちに覆いかぶさろうとした。

 「「絶花!」」
 「「仁王花!」」

 俺は地面に転がされ、上を見ると天使ちゃんたちが大きな材木を手で受け止めていた。

 「だいじょうぶ?」
 ルーちゃんが言った。
 もう名前を覚えた。

 「怪我してない?」
 ハーちゃんだ。

 涙がまた出た。
 東雲さんたちが駆け寄って材木を戻した。

 「申し訳ありません!」
 東雲さんが土下座している。

 「だいじょうぶだよー」
 「全然へいき!」

 俺は自分で立った。

 「アランちゃんは、あたしたちを助けてくれようとしたの?」
 「あ! 血が出てるよ!」

 手を擦りむいていた。
 ハーちゃんが俺を水場に連れて行き、洗ってくれた。

 「このくらいなら、何もしない方がいいよ」
 「はい」

 血は止まっていた。
 今日はもう手を洗わない。
 今夜はこの手でぇー!
 エヘヘヘヘ。

 

 「アランちゃん、ありがとうね!」
 「アランちゃんは、やっぱり優しい人ね!」
 「勇気もあるよね!」
 「感動した!」

 俺を二人で褒めてくれる。
 天幕の椅子に座らせてくれた。
 二人で、どっさりとどら焼きとたこ焼きを俺の前に置いてくれた。
 そして、俺の両側に立った。



 「「チュ」」

 「……」



 「おい! 亜蘭!」
 東雲さんが叫んでいるのが遠くで聞こえた。

 「スッゲェー鼻血だぞ!」

 胸元が温かかった。

 「寝かせろ! 急げ!」

 「「アランちゃん!」」

 俺は天使ちゃんたちにティッシュを鼻に詰められた。
 一生詰めたままでいたいと思った。





 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■





 夕方、俺は東雲から電話を受けた。

 「石神さん、申し訳ない!」
 「どうした?」
 「現場で事故を起こしました!」

 東雲が、風に煽られて材木が倒れたと言った。

 「双子のお嬢さん方に向かって倒れまして」
 「そうか、大丈夫だったろ?」
 「そうなんですが、お二人を助けようと亜蘭が」
 「なに!」

 「幸いお嬢さん方に助けられて、ちょっと擦りむいた程度で」
 「そうかよぉ」

 「ですが、その後でですね」
 「ああ」
 「お嬢さん方が亜蘭のほっぺたにチューって」
 「そうか」

 「そうしたらですね。亜蘭がいきなり物凄い鼻血を出しやして」
 「アハハハハハハ!」

 「笑い事じゃないんですよ。あいつ、はっきり勃起してましたから」
 「ああ、いいんだよ。あいつがそういう性癖だっていうのは分かってたから」
 「そうなんですか?」

 「双子に聞いたんだ。お茶に誘われたり、小遣いをくれようとしたってな。まあ、ヘンなことをするつもりじゃなかったんだろうよ。本当に話をしたかったのと、出来れば仲良くなりたかったんだろう」
 「そうですかねぇ」

 東雲は安心してない。

 「あいつと話したり、目の前で見てれば分かるよ。金持ちのボンボンのようだけど、不思議とあいつは優しい奴だ。ルーとハーと仲良くはなりたいんだろうけど、それ以上に大事にしたいって思ってるよ」
 「はぁ、石神さんがそうおっしゃるんなら」

 「双子は気配というか、その人間の本質を見ることが出来る。優しい人間だって分かったようだ」
 「でも、最初にぶっ飛ばしたんですよね?」
 「それはな。いきなりルーの肩に手を置いたんで、ハーが怒り狂ったんだ。じっくり確認する間も無かったんだよ」
 「なるほどです」

 「今日の話を聞いてもそうだよな。自分のことは構わずに、二人を助けなきゃって思ってくれたんだろうよ」
 「まあ、確かにそうですね」
 「それにな。万一襲おうと思ったって」
 「ああ! 全然安心ですね!」

 「「アハハハハハ!」」



 まあ、ルーとハーが「優しいおじちゃん」だって言うんだ。
 ロリコンだろうがニートだろうが関係ない。

 優しい人間っていうのは、いるだけで周りを温かくしてくれる。
 ありがたいことだ。 
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