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優しいオジチャン。 Ⅲ

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 俺はダメな人間だぁ。
 毎日倒れては、家に帰されてる。
 初日は午前中。
 二日目は休憩後の1時10分に物凄い腹痛。
 三日目は二時くらいにめまいが。
 
 今日は四日目だ。
 
 「なーに。毎日いれる時間が長くなってらぁ」

 監督の東雲さんは、そう言ってくれる。
 頑張ろうと思った。
 まだ天使ちゃんたちを観てないじゃないか!
 三時過ぎに帰って来る。
 それまではなんとかいないと!

 二日目に知ったが、この現場では昼食が出る。
 弁当になっているが、それがステーキだの大量の唐揚げだのがついてる。
 弁当の他に、そういうメインの食材が別にあるのだ。
 物凄く豪華だ。
 しかも美味しい。

 「これって、僕もいただいていいんですか?」
 「もちろんだ。石神さんのお子さんたちが毎日俺らなんかのために作ってくれるんだよ」
 「ヘェッーーー!」
 「普通は食事は自分らで持って来たりするもんだ。だけどなぁ、石神さんはしっかり喰ってくれってな。毎日こんなに豪華なものを喰わせてくれるのよ!」

 天使ちゃんたちはまだ小学生だから、毛の生えた子とお兄ちゃんがやってるのかな。
 
 

 三時。
 今日はここまでもった。
 楽しみにしていた休憩時間に入る。
 みんなで天幕の下に集まっている。

 「「ごくろーさまー!」」

 俺は驚いて立ち上がった。
 なんと、天使ちゃんたちがここに来た!

 「今日は「いちご大福」ですよー」
 「それと、タカさんから寒いだろうって、「肉まん」と「あんまん」も一杯ありますよー!」
 「ありがとうございます!」

 全員で声を揃えてお礼を言った。
 
 「じゃー、お茶煎れますねー!」

 天使ちゃんたちが沢山の茶碗を拡げて、ヤカンのお茶を入れていく。

 「はい、おにーちゃんの!」
 「!」
 「アレ?」

 俺は泣いていた。
 大粒の涙が、次々に溢れてきた。

 「だいじょうぶ?」
 天使ちゃんが俺の腕を掴んでくれた。

 「ウワーーーーーン!」

 「おい、どうした!」
 東雲さんが近付いて来た。

 「座れ座れ! 落ち着けよ!」
 「バビガドーゴジャビヴァジュー!」
 「なんなんだ、お前は」
 
 天使ちゃんが俺の背中をさすってくれている。
 お茶を淹れ終えたもう一人の天使ちゃんも来て、頭を撫でてくれる。

 「おい、今日はもう上がっていいぞ」

 俺は涙を首に巻いたタオルで拭いた。
 タオルは汗でちょっと臭かった。

 「すびません! 監督! 僕はここで死んでもいい!」
 「絶対やめてくれ!」

 「死ぬ気で働きますからぁー!」
 「おい、ほんとに大丈夫かよ?」

 「おにーちゃん、大丈夫?」
 「どこか痛いの?」

 「生きてて良かったぁー!」
 俺が叫ぶと、みんなが俺を見ていた。

 「あー、まあ、大丈夫かな」
 東雲さんがそう言った。




 「今日は亜紀ちゃんと皇紀ちゃんが忙しかったから、あたしたちでお昼を作ったの。何かヘンなものあった?」
 
 「とんでもない! 僕は生まれ変わりました!」
 天使ちゃんたち100%だったかぁー!
 三日はウンコしないと誓った。

 「おい、あんちゃん、ゆっくり休んでから仕事に戻れよな」
 「ありがとうございます!」

 「おにーちゃんのお名前は?」
 俺は本当に死ぬかと思った。
 
 「亜蘭です!」

 「アランちゃん! いいお名前ね!」
 「幸福論ね!」
 「はい! 幸福です!」

 まったく、その通りだった。
 身体の奥底から、今まで感じたことのない熱いものが噴き出してきた。
 俺はもう倒れない。
 俺の火山が噴火したのだ!

 休憩後、俺は頑張った。
 天使ちゃんたちの優しさが、俺をいかようにも支えてくれた。

 俺はその日の仕事を全部こなした。
 爽やかな風が、俺に吹いて来た。
 がんがんスキルアップし、俺のHPは100倍になっていた。

 夕礼で倒れた




 気が付くと、知らない家で寝かされていた。

 「おい、気が付いたか?」
 東雲さんが近づいて来た。

 「はい、ここは?」
 「俺が石神さんからお借りしてる家だよ。ほら、向かいの大きな家って分かるか?」
 「え、レイチェル・コシノさんの?」
 「おお、よく知ってんな」

 「え、えーと」
 「この辺りは石神さんの土地が多いんだよ。だから俺らは空いてる家に工事の間住まわせてもらってるんだ」
 「そうなんですか!」
 「まあ、あんまり他人には言うなよ。あの方は金を持ってるとか、そういう自慢めいたのが嫌いな方だからな」
 「はい、分かりました」

 東雲さんが、心配そうに俺を見ている。

 「身体はどうよ?」
 「はい、もう大丈夫かと」
 「あんちゃん、ああ、亜蘭か。今日は頑張ったよな」
 「はい!」
 「でも無理すんな。ちょっと飯でも食って休んでけよ」
 「いや、そんな」

 「いつも食事はどうしてる?」
 「コンビニか牛丼を」
 「ダメだよ、そんなんじゃ! 俺らは身体が資本なんだからなぁ」
 「すいません」

 電話が掛かって来たようだ。

 「え! そんな……はい、でも……ええ、じゃあ分かりました」

 東雲さんが電話を切った。

 「石神さんがなぁ。あんちゃんと一緒に来いってさ。食事をみんなで食べようって」
 「えぇー!」

 俺は東雲さんの家の風呂を借り、シャワーを使わせてもらった。
 通いの自分の服に着替えた。
 同じ家に住んでいると言う、東雲さんたち3人が待っていた。

 「じゃあ、行くぞ」

 



 「やあ、悪いね、呼び出しちゃって」
 「石神さん、あっしらまですみません」
 「いや、みんなよくやってくれてるからな。たまには礼をさせてくれよ」
 「そんな、十分にいろいろしていただいてますよ」

 俺たちは広いリヴィングの、こたつに案内された。
 石神さんや天使ちゃんたちは、大きなテーブルにいる。
 鍋が運ばれ、大量の食材がどんどん置かれる。
 すき焼きなんだと思うが、肉の量がはんぱじゃない!

 毛の生えた子が、コンロに火を点け、材料を入れていく。
 手際がいい。
 東雲さんたちが、目を輝かせて毛の生えた子を見ている。

 「亜紀の姉さんにやってもらっちゃ、申し訳ねぇですよ」
 「いいんですよ」

 テーブルで、石神さんが言った。

 「東雲、こっちの食事が終わったら、子どもたちもそっちに行くからな」
 「はい、承知いたしました!」

 「いつものようにだ。最初に出来るだけ喰っとけよ!」
 「「「はい!!」」」

 「灰寺さんもね! 東雲、説明しておいてくれ」
 「はい!」

 俺は、天使ちゃんたちが来るとまず喰えないと言われた。
 だから、最初にできるだけ「肉」を喰えと。

 「喰いが足りねぇと、後で俺らが石神さんに叱られるからな」
 「わ、分かりました」

 鍋が煮えて来て、みんなでどんどん食べる。
 東雲さんたちが、俺の器にどんどん肉を入れてくれる。
 美味しいのと、それが嬉しくて、俺はどんどん食べた。

 「美味しいですね!」
 「笑ってねぇで、喰え!」

 こんな食事な何年ぶりだろう。
 家でもみんなバラバラに食べていた。
 家族揃って食べることなど、滅多に無かった。

 東雲さんたちと食べ、向こうの大きなテーブルでは天使ちゃんたちが食べている。
 外人さんとニコニコして何か話してる。
 ああ、早くこっちに来ないかなぁ。

 「東雲! 行くぞ!」

 突然暴風が吹いて、目を閉じた。
 目を開けると、東雲さんたちが部屋の隅に転がっていた。
 向かいに、恐ろしい顔をした毛の生えた子。
 その隣に心配そうに俺を見る男の子。
 そして、俺の両側には、天使ちゃんたちがいたぁ!

 「亜蘭! にげろー!」
 東雲さんたちが叫んでいる。




 「アランちゃんは手加減するね」
 「亜紀ちゃんからも、ちょっとは助けるね」

 俺のすぐ近くで声がした。
 内容はよく分からなかったが、俺は昇天しそうだった。
 肩が触れていたからだぁ!

 いきなり、左の天使ちゃんが吹っ飛んだ。
 何が起きたのか見えなかった。
 でも、すぐにダッシュで戻って来る。
 大丈夫そうだ。
 良かったぁー。
 右の天使ちゃんが、東雲さんの器で煮え立った汁を掬い、毛の生えた子に浴びせる。
 毛の生えた子は、獰猛に笑いながら、他の人の器で受け止め、一滴も零さずに何事も無かったかのように置いた。

 「チッ!」

 天使ちゃんたちが、両側から前蹴りを放つ。
 毛の生えた子が、回し蹴りを放ち、天使ちゃんたちの足を払った。
 男の子が毛の生えた子の腰を持ち上げた。

 「皇紀、てめぇー!」

 毛の生えた子が物凄い勢いで回転し、男の子は床に沈められた。
 鳩尾に鋭いパンチが入る。

 パキッ。

 「あ」

 毛の生えた子の箸が折れた。

 「「「ギャハハハハ!」」」

 天使ちゃんたちが笑い、凄まじい勢いで肉を攫っていった。
 俺の器に、数枚の牛肉を入れてくれた。

 毛の生えた子が砂時計を引っ繰り返した。
 戻ってからは、俺は肉は二度と食べられなかった。
 本当に怖かった。



 天使ちゃんたちはずっと俺の両側にいてくれた。
 雑炊が始まると、東雲さんたちも戻って来た。

 毛の生えた子がニコニコして作っていた。




 なんだ、こいつ?
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