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千万組、歓迎

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 土曜日の朝。
 今日は千両たちが来る。
 三時の予定なので、のんびりしていた。
 子どもたちはいつものように朝食後に勉強・研究をしている。
 皇紀は部屋にこもっている。
 研究なのかチンコいじりなのかは分らん。
 どっちでもいい。

 俺はロボと遊んでいた。
 たわしを持って、ロボにじゃれさせながら頭に時々たわしを当てる。
 その時の目を瞑った顔がカワイイ。
 桜から電話が来た。

 「今日はよろしくお願いします!」
 「ああ、気軽に来いよな」
 「はい! それでお邪魔するのは四人なんですが」
 「あんだよ」
 「石神さんのお宅まで、見送りに来たいという人間がおりまして」
 「なんだよ、うぜぇな」

 「宜しいでしょうか」
 「しょうがねぇ。すぐに帰れよ!」
 「はい! それではまた後程!」
 桜は嬉しそうだった。
 まあ、それならいいだろう。




 
 三時五分前。
 俺は気配を察して外へ出た。
 子どもたちも出てくる。

 「なんだ、こりゃ」

 100台以上の黒塗のベンツやロールスロイスやクラウンなどの高級車。
 それがうちの周囲を埋め尽くしていた。
 男たちが降りてくる。
 全員、黒いスーツを着ていた。
 目の前のリムジンから、千両と桜、そして二人の男が降りて来た。
 男たちがその後ろに並ぶ。
 数百人だ。

 何人か見覚えがあるのか、亜紀ちゃんが手を振った。
 歓声が沸いた。

 「礼!」

 桜のでかい声で、一斉に男たちが頭を下げた。
 
 「解散!」

 一斉に車に乗り込み、去って行った。

 「タカさん?」
 亜紀ちゃんが俺を見ていた。
 憮然とした顔を心配しているのだろう。

 「まったく、あいつら」

 うちの前の道路は幹線道路ではない。
 全ての車が去るのに、結構な時間がかかった。

 「入れよ!」
 千両は笑っていた。




 一階の応接室に通す。
 亜紀ちゃんがコーヒーを持って来る。
 今日は一応客として扱う。

 「石神さん、これを」
 桜が太い巻物を渡してきた。
 開くと、墨で署名と血判が押してある。

 「すべての傘下の組員が石神さんの下につきました。お納めください」
 嫌だったが、捨てると困るのだろう。
 亜紀ちゃんに仕舞っておけと渡した。

 桜が土産を俺に渡す。
 軸箱だ。
 菊池契月の『観世音菩薩』だった。

 「おい、彩色してあるじゃねぇか」
 「はい。石神さんは美術品がお好きと聞きまして」
 斬か。

 「こんな高いものはダメだ。鳩サブレーを買って来い」
 「いえ、どうかこれを!」
 俺は仕方なく受け取った。
 面子もあるのだろう。

 「次は鳩サブレーだぞ!」
 「ハッ!」
 桜が二人の男を紹介した。
 身長が160センチほどの小柄な男が東雲。
 180センチを超える大柄な男が月岡。

 「二人とも、花岡さんの道場で頭角を現わしている二人です」
 「桜、お前はどうなんだよ」
 「自分はこいつらに負けません」
 結構頑張っているようだ。

 「そうか、じゃあ行こうか」
 「はい?」
 「俺が出来を見てやる」
 「は、はい!」
 亜紀ちゃんと双子も連れて、栞の家に向かった。
 連絡はしてある。
 最初から道場を借りる許可を得ている。





 「千両さん、いらっしゃいませ」
 栞が出迎えてくれる。
 俺たちはそのまま道場に行き、四人を道着に着替えさせた。
 子どもたちも着替えた。

 「東雲、亜紀ちゃんとやれ」
 「はい!」
 亜紀ちゃんの強さは分かっている。
 ただし、それは銃を扱う亜紀ちゃんだ。
 よく食べるが細身の少女に、東雲が戸惑っている。
 瞬時に亜紀ちゃんは間合いを詰め、東雲の腕に拳を入れた。
 ギリギリで十字受けで東雲が受けたが、道場の端まで吹っ飛ぶ。
 亜紀ちゃんは、片手の指を動かし、かかって来いと示した。

 東雲が物凄いスピードで走った。
 そのままスライディングして亜紀ちゃんの足元を狙う。
 亜紀ちゃんは踊るようにそれをかわし、すれちがいざまに東雲の首を蹴った。
 東雲は激しく回転した。
 その軌道を読み、亜紀ちゃんが東雲の上に飛び乗った。
 身体をひねる。
 東雲は苦痛に顔を歪めて「参った」と言った。
 その顔に亜紀ちゃんが往復ビンタを喰らわせた。

 「じゃあ、次はルーとハー、月岡と遊んでやれ」
 「「はーい!」
 二人は両側から攻撃した。
 ルーが上段蹴りを頭に、ハーが中段蹴りを腹に。
 月岡は頭部への攻撃に絞って受けた。
 ハーの蹴りで吹っ飛ぶ。
 その寸前に、ハーの足を持った。
 ハーは滑りながら月岡の顔面に掌底を打ち込み、空いた足で喉を蹴った。
 月岡は気絶した。
 ルーが顔を殴って覚醒させる。

 「ふん。じゃあ、桜。やるか」
 「おす!」
 桜は高速の拳を無数に俺に放って来た。
 
 「バカか! 俺は拳銃弾を避けるんだぞ!」
 俺は拳を合わせてぶつけた。
 ガキンという音が響く。
 しかし、桜は怯まなかった。

 桜は膝で俺の肝臓を狙った。
 俺は身体を密着させて防ぐ。
 そのまま桜の膀胱へ拳を放つ。
 桜が一瞬呻いて身体を折って倒れた。
 俺はサッカーボールキックで桜の腹を蹴ろうとした時、桜が身体を回転させ、俺の足を掴もうとした。
 倒れたのは偽装だった。

 「面白ぇな、お前!」
 立ち技に優れる相手と戦う手段だ。
 しかし俺は桜の足を絡め取り、捩じり上げながらそのまま空中に持ち上げた。
 空中で幾つもの攻撃を受け、桜は気絶した。



 三人を床に座らせた。

 「亜紀ちゃん、講評!」
 「はい。ダメダメですね」
 「だそうだ!」
 「「「ありがとうございました!」」」

 「じゃあ、亜紀ちゃん、千両とやってくれ」
 「はい」
 俺は千両に木刀を与えた。
 亜紀ちゃんはハイキックを千両の頭に放つ。
 千両はそれほど速い動作ではなく、木刀で脛を打った。
 亜紀ちゃんの顔が苦痛で歪む。
 岩を粉砕する足だった。

 足を使い、多彩な攻めで千両に向かう。
 千両はすべてを捌き、亜紀ちゃんに木刀が当たるたびに、亜紀ちゃんが苦痛を感じた。
 亜紀ちゃんの顔が獰猛になる。
 亜紀ちゃんの動きが変わった。
 先ほどよりもずっと速い。
 しかし、千両はまたすべてを捌く。
 そして上段から亜紀ちゃんの肩へ木刀を振り下ろした。
 亜紀ちゃんが膝をついた。

 「アハハハ! 参りました!」
 イタタタと言いながら、桜たちの隣に座った。

 

 「じゃあ、俺だな」
 俺は栞から、短い木刀を二本借りた。
 千両と激しく打ち合う。
 
 俺の木刀が千両のわき腹を突く。
 その時、千両が裂帛の気合を放った。
 わき腹に木刀が当たった瞬間、俺の肩を千両の木刀が袈裟斬りに襲った。
 俺はギリギリで、片手で木刀の軌道を反らした。
 千両の木刀が揺れた。
 俺は瞬時に床に転がった。
 俺のいた場所に、木刀が刺さった。

 「これまでかわされましたか! いや、参りました」
 千両は笑って亜紀ちゃんの隣に座った。

 

 俺たちは着替えて、栞の家でお茶を頂いた。
 亜紀ちゃん、ルーとハーは帰っている。
 食事の準備だ。

 「本当に何もできませんでした」
 桜が言った。

 「まあ、今はこんなもんだろう。お前らが頑張ってることは確認できたしな」
 「お嬢さん方も桁違いでしたね」
 「そりゃあなぁ。でも、戦闘経験は足りないからまだまだだけどな」
 「そうなんですか」
 「俺の親友に、こないだ双子はボロ負けだったしな。亜紀ちゃんは別格だけど、千両には負けちまったしな」
 「いいえ、それは道場でのこと。実戦でしたら、きっとひとたまりもないと」
 千両は見抜いていた。

 「まあ、御苦労さん。今日はなるべくなら出来るだけ喰ってくれ」
 「なるべくなら?」
 「生きるっていうのは闘争だからな」
 俺は笑って言った。
 栞も笑っている。



 俺たちは戦場へ向かった。
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