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 「セム、その顕微鏡重くない? 僕運ぶよ」

 「え? いや、そこまで重くは……」

 この会話が一限目の魔法薬学のとき。
 
 「あっ、セム危ない。大丈夫? ぶつからなかった?」

 「あ、うん……」

 肩を抱き寄せられたのが、二限目の教室移動のとき。

 「ねぇ、なんかあいつセムのこと睨んでない? 一言文句言ってこようか?」

 「いやいや、いつものことだから大丈夫だって!」

 反対に俺がアデルの腕を引き止めたのは、三限目の課外授業のとき。

 「じゃ、僕学食取ってくるから、セムは魔法薬学第二準備室で待ってて」

 「ちょ、ちょっとアデル! 話があるから学食はあとにしない!?」

 とうとう耐えきれなくなって、学食そっちのけで中庭に行ったのが四限のあとだった。

 「どうしたの、セム?」

 「どうしたの、はこっちのセリフだよ! ちょっと、本当にアデルだよね?」

 俺らは校舎から見えないように木陰に立って、アデルの顔をベタベタと触る。

 変身魔法を使った形跡もないし、皮膚も本物だ。

 じゃあなんで、こんなに俺にかまってくるんだ!?

 アデルの顔を触っていた手を取られ、ふふっと笑われる。

 「……今までいじりがいがあるなぁーとは思ってたけど、セムって焦った顔も可愛いよね」

 「えっ!? か、可愛い!?」

 本当にどうしちゃったんだろう! この人誰!? 怖いんだけど!

 あまりにも俺が怯えるからか、アデルは「ごめん、ごめん」と謝った。

 「そっか、急に距離が近くなったら驚くか……大丈夫だって、ちゃんと僕だから。怖がらないで」

 アデルは何が楽しいのか、俺の手を握ってずっと笑ってる。

 俺はわけがわからなくて、目が点になった。

 「……前にさ、セムがソフィーを大事にしてる理由を『心配してくれたから』って言ってたから、僕なりにセムを大事にしてみたんだけど……嫌だった?」

 「えっ、あ、いや……嫌ではないけど……」

 嫌じゃないけど、急な変化にびっくりしてしまった。

 なんか、心がぞわぞわするっていうか。ずっと落ち着かないっていうか……

 「ふふっ……」

 「ちょ、ちょっと! なに笑ってんの!!」

 人が真剣に悩んでいるのに……! この……意地悪な感じは前と変わってないな!

 「いや、今の顔、鏡で見せてあげたかったなぁーセムって本当優しいというか、ちょろいというか……」

 「ちょ、ちょろいって! もう、なんなの、優しいかと思えばけなしてきて……!」

 怒っていいのか、感謝すればいいのかわからない。

 俺が一人うぅ……と唸っていると、アデルが俺の手に指を絡ませてきた。

 「!?」

 「怒らせたかったわけじゃないんだ。ただそんな無防備だと、心配になるなって。僕以外の、変な人につけ込まれないかなーとか」

 絡ませた手に口元を寄せ、アデルは軽く触れるキスをする。

 「ひっ」

 「……前みたいに唇にはしない。ちゃんとセムが自覚するまで」

 顔が一気に熱くなる。アデルに握られた手が震え、離さないといけないはずなのに、まったく振り解けない。

 「じ、自覚って……」

 ど、どいうこと……!?

 と聞こうとしたら、『バタンッ!』と遠くで音がした。

 「っ!?」

 「……風で校舎の窓が閉まったみたい。大丈夫、ここからは見えないよ」

 アデルがわずかに体を逸らし、校舎のほうを見る。

 その横顔がどこか険しいように見えたのは……気のせいだろうか。

 「……ならよかった」

 「うん。じゃあもう話は終わり? 学食を取りに行こう!」

 ふわりと笑うと、木漏れ日がアデルの髪を輝かせた。

 「……うん」

 どくっと心臓が痛くなる。誰の笑顔を見ても動かなかった部分が、アデルの前だと息をし始める。

 自然と熱くなる頬を見られないように、俺は俯きながらアデルのあとをついていった。

                                      
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