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それからアデルはじわじわと距離をつめてきた。
実験の手伝いから始まり、荷物の持ち運び、触れる頻度などなど……
新学期が始まって一ヶ月が経ち、アデルの『大事にする』の意味がやっとわかってきた頃——
俺はいまだに、アデルからの接触に慣れない日々を送っていた。
「どうしよう……本当に。なに考えてるかわからなすぎる……」
寮の一人部屋で朝の身支度をしながら、ため息を吐く。
もうそろそろ出ないとアデルが迎えにくる。新学期の前は一度も迎えになんか来たことないのに。最近は俺の送迎が楽しいらしい。
……なにが楽しいんだろう。これじゃ本当に、愛されてるみたい……
「……って、違う違う! そうじゃない、そうじゃない……きっと、アデルは病気を治して欲しいんだ。うん、きっとそうだ……」
アデルが新学期から優しくなった理由はそれしか思いつかない。
だから今日は、ちゃんと話し合おうと決めていた。アデルが具体的にどんな症状があって、どんな治療を今までやってきたのかってことを。
「……それで放課後に図書室ね……なーんだ。話があるっていうから楽しみにしてたのに」
「楽しみって、なにを想像してたの?」
「え? あー、やっと僕の行いが報われたかなって」
行いってなんだろう? と問い返す前に、アデルは書架の奥へ歩いて行った。
魔法学園の図書館は広く、アデルの病気に関する文献もあるのではないかと考えたのだ。
けれど図書館の二階まできて文献を探したけれど、どこにもいい資料は見当たらない。
「どうする? もう帰る?」
アデルにそう聞かれたので、俺は少し考えてから「いや、俺は残るよ」と答えた。
「確かに僕の病気を治してくれるのは嬉しいけど……そこまで頑張らなくて大丈夫だよ。暇があったらでいいから」
「いや、俺が調べたいだけだから。それに、他に調べたいこともあるし」
「他に調べたいこと?」
アデルが興味ありげに聞いてきたので、俺は前々から考えていた案を話すことにした。
「……そう。その……学園を卒業したあとのことを考えてて……」
「あーそっか、もう残り三ヶ月ぐらいか」
そうなのだ。残り三ヶ月以内に俺は社会的に破滅をする予定なのだ。
……にしてはアデルが噂を広める気がないのだけれど。
「うん。だからね……俺、家を出れないかなって」
「……えっ!? 家を出る!?」
実験の手伝いから始まり、荷物の持ち運び、触れる頻度などなど……
新学期が始まって一ヶ月が経ち、アデルの『大事にする』の意味がやっとわかってきた頃——
俺はいまだに、アデルからの接触に慣れない日々を送っていた。
「どうしよう……本当に。なに考えてるかわからなすぎる……」
寮の一人部屋で朝の身支度をしながら、ため息を吐く。
もうそろそろ出ないとアデルが迎えにくる。新学期の前は一度も迎えになんか来たことないのに。最近は俺の送迎が楽しいらしい。
……なにが楽しいんだろう。これじゃ本当に、愛されてるみたい……
「……って、違う違う! そうじゃない、そうじゃない……きっと、アデルは病気を治して欲しいんだ。うん、きっとそうだ……」
アデルが新学期から優しくなった理由はそれしか思いつかない。
だから今日は、ちゃんと話し合おうと決めていた。アデルが具体的にどんな症状があって、どんな治療を今までやってきたのかってことを。
「……それで放課後に図書室ね……なーんだ。話があるっていうから楽しみにしてたのに」
「楽しみって、なにを想像してたの?」
「え? あー、やっと僕の行いが報われたかなって」
行いってなんだろう? と問い返す前に、アデルは書架の奥へ歩いて行った。
魔法学園の図書館は広く、アデルの病気に関する文献もあるのではないかと考えたのだ。
けれど図書館の二階まできて文献を探したけれど、どこにもいい資料は見当たらない。
「どうする? もう帰る?」
アデルにそう聞かれたので、俺は少し考えてから「いや、俺は残るよ」と答えた。
「確かに僕の病気を治してくれるのは嬉しいけど……そこまで頑張らなくて大丈夫だよ。暇があったらでいいから」
「いや、俺が調べたいだけだから。それに、他に調べたいこともあるし」
「他に調べたいこと?」
アデルが興味ありげに聞いてきたので、俺は前々から考えていた案を話すことにした。
「……そう。その……学園を卒業したあとのことを考えてて……」
「あーそっか、もう残り三ヶ月ぐらいか」
そうなのだ。残り三ヶ月以内に俺は社会的に破滅をする予定なのだ。
……にしてはアデルが噂を広める気がないのだけれど。
「うん。だからね……俺、家を出れないかなって」
「……えっ!? 家を出る!?」
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