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【聖者の薔薇園-プロローグ】

205.わんちゃん騎士

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「という訳で!これから俺、姫の騎士になるので!よろしくお願いします!!」

「うむ。よろしく」

「ちょちょっ、フェリアル様…!よろしくしちゃ駄目ですよ!」

「何がという訳でなのか…」


 ふふんっと黒騎士についてを説明したグリードが、耳をぴくぴく尻尾をぶんぶんして宣言する。あまりに堂々としているので、思わずよろしくねーと普通に受け入れてしまった。

 すぐにシモンがあわあわと声を上げて、ライネスも呆れ顔でグリードを見遣る。すまぬすまぬと頷いて、グリードに「やっぱりだめ」と指でばってんを作った。
 するとたちまち犬耳がへにゃりと垂れ下がり、尻尾もぶんぶんをやめてふわさっ…と元気を無くしてしまった。うるうるおめめが本当のわんちゃんのものみたいに見えたから、思わずぷるぷる震えてはわわっと声を上げてしまった。


「やっぱりだめ違う。よろしくする」

「本当ですか!!ありがとうございます姫!!」

「うむ。よろしく」


 シモンのちょちょっと止める声が聞こえたけれど、つーんと聞こえないふりをして冷や汗たらたら。
 ごめんねシモン、わんちゃんを突き放すなんて僕にはできないでござる…。罪悪感に苛まれながらもグリードを受け入れ、うむうむと頷いた。


「……フェリが良いなら別に良いけど。でもその前に、君がしでかしたことについての説明と反省をして貰おうか」

「へ?俺、なんかしちゃいました?」


 がーんと青褪め硬直するシモンの肩をぽんと叩いて、ふとライネスが冷静な声音でぴしっと切り出した。グリードのしでかしたことってなんだろう、首を傾げるのは僕だけじゃなくグリード自身も同じで、ぱちくり瞬いてライネスをじっと見つめた。

 きょとん顔のグリードを呆れた様子で見遣ったライネスが一度溜め息を吐く。
 気まずそうにシモンを一瞥して、抑え気味の声で小さく答えた。


「シモンを転移で拉致したの、君なんだよね?」

「あぁ!そのことなら勿論反省してます!でもでもっ、シモン様のことは丁重に拉致して丁重に対応したので…」

「君がそんなことしなければ、フェリのレイプ未遂はそもそも起こらなかったかもしれないんだけれど」

「…………あぇ??」


 レイプ未遂…?と低く呟いたのはグリードだったか、それともシモンだったか。
 あわわっと慌てながら様子を窺う。どうしよう、そんなに直球で言っちゃうとは思わなかった。ライネスのことだから、せめて最大限オブラートに包んだ言い方で言うと思っていたのに。
 シモンなんかは特に、自分の責を受け止めて後悔の念に駆られてしまうだろうから。

 蒼白顔でごくりと喉を鳴らす。流れる重い空気の中、初めに動き出したのはシモンだった。


「れ、れ、レイプ…?お…おれのフェリアル様が……!?」


 わなわな。緑の瞳に浮かぶ怒りと後悔があまりに激しい色をしていたものだから、思わず腕の中でひゅんっと体を竦めてしまった。しもん、かおこわい。

 ぷるぷる。ライネスは深い溜め息を吐いて「まぁこれについては後で詳しく説明するとして…」と呟いてグリードに向き直った。「レイプ未遂ってなんですか!!」と血走った眼で問うシモンは完全スルーだ。
 グリードと何やら真剣な雰囲気で話始めるライネス。ふんすふんすと息巻くシモンをどうどう宥めて、じゃましちゃだめよーとなでなでしてあげる。仕方がないので、当人の僕がよしよし落ち着かせてあげることにした。


「シモン。僕だいじょぶ。みてみて、けがない」

「分かりません!!フェリアル様はいつでも何があっても綺麗なので!!何かあってもわかりませんッ!!」

「わぁ」


 いつでもきれいだって。えへへ。うれしいな、ふんふん。

 ふにゃふにゃと頬を緩めてシモンにむぎゅー。「そんな可愛いことしても誤魔化されてあげませんよ!!まったくもう!なでなでぎゅー」とあっさりむぎゅむぎゅに堕ちてしまうシモン。なでなできもちいいなー。

 しばらくシモンとうりうりむぎゅむぎゅしていると、やがて話が終わったのか二人が振り返る。スッキリ顔のライネスとあわわ蒼白顔のグリード。一体どんな話をしたのか気になるところだ。
 耳も尻尾もぺたんグリード、だいじょぶかなーとそわそわしていると、ふとグリードが何かを覚悟したような表情で跪いた。


「俺がシモン様を独占している間にそんなことが起こっていたなんて…!申し訳ありません姫!!懺悔の為、今ここで切腹します!!どうか見届けてください姫!」

「やめて馬鹿。ここ騎士団本部だから。こんなところで人が死ぬとか威信に関わるから」

「フェリアル様にキモイもの見せないで下さい死角で死んで下さい」


 跪くグリードをげしげし足蹴にするシモンと、ふんわり微笑みながらも色の無い視線を向けるライネス。真逆に見えるけれど、実際はどちらも似たようなものだ。
 わんちゃんにらんぼうしちゃめっ、と二人を宥めてグリードをよしよし。

 うーむでもどうするべきか…とグリードの今後にいて悩んでいると、ふと部屋の外から声と足音が聞こえてきた。

 それにハッとしてシモンから離れ、おろおろと影を指さして慌てふためく。シモンはさっと影に中に潜り込み、グリードはぽふっと犬の姿に変化した。
 ライネスがそそくさと窓を開けて、僕はわんちゃんをもふもふ抱き上げてそわそわ。
 扉がガチャッと開いて、眼鏡くいっ副官さんと例の尋問騎士さんが入ってきた。


「申し訳ございませんお二人共……って、おや…?その犬は……?」


 副官さんがグリードに気が付いて目を細める。内心あわわっとなりながらも、表情は冷静なものを保って堂々と答える。


「わんちゃん。窓からしんにゅー。もふもふ」

「いやぁ驚いたね」

「わんっ!」


 ライネスが開いた窓を一緒に見つめてははっと笑う。
 副官さんと尋問騎士さんはきょとんと視線を合わせて、やがて納得したように朗らかな笑顔を浮かべた。ごまかしせいこう、そわそわ。
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