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物語の欠片
風前の灯火(遅めの青春)
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「あの、落としましたよ」
「ああ…ありがとうございます」
男はその小瓶を思いきり海へ投げつけ、膝から崩れ落ちた。
「…大丈夫、なわけないですよね」
涙を流す男の背中をそっとさすり、僕は違和感をおぼえる。
それがただの違和感なのか、はたまた気づいてはいけない何かだったのか。
「すみません。もう大丈夫です」
「何があったんですか?僕でよければ力になります」
男の顔をよく見ると、なんだか少し見覚えがある。
「あの…もしかして、星宮学園の生徒ですか?」
「そうです。なんで分かったんですか?」
「教室で見たことがあった気がしたんです」
男は僕を見て、ぎゅっと手を掴まれる。
「一瞬だけでいいから、俺と文通してくれない?
実は、恥ずかしながら手紙で告白しようと思ったんだ。でも、ダサいって一蹴されちゃって…」
「そんなことありません。少なくとも僕はそう思います」
人の想いがこもったものがダサいわけがない。
だけど、ダサいっていうのはおそらく……。
「ありがとう」
「内容はなんでもいいんですか?」
「うん。誰かと話すのって久しぶりだから…」
「分かりました」
──それから15分、完成した手紙を読ませてもらう。
【よければ俺と友だちになりませんか?】
男の手紙にはそう合ったけど、残念ながらその願いは叶えられそうにない。
「これって……」
全然分かっていないみたいだったから、事実を書きこんだ。
【あなたはもうこの世のものではありません】
「思い出しましたか?彼女はあなたのことをダサいって言ったんじゃない。
…あなたの机の花瓶にいたずらした生徒に言っていたんです」
2週間ほど前、僕のクラスの生徒が事故にあった。
飲酒運転の車が突っこんできて即死だったと新聞で読んだ。
あまり話したことがない相手とはいえ、なんだか放っておけなかった。
「俺が幽霊だから、手紙を渡せなかったのか」
「それもあると思います」
「俺のこと、怖くないの?」
「慣れてますから」
幽霊たちは小さい頃から僕の友だちだ。
成仏した子もいるが、生きている人間よりずっと優しかった。
「そっか。家のことをしないといけないから部活はできなかったし、好きな相手に好きって伝えられなかったし」
頭を抱える男を見て思いついたことがある。
「じゃあ、これからひとつ青春っぽいことしましょう」
花火の束を見せると、男は満足げに笑って頷く。
「なんで持ってたの?」
「バイト先でもらいました。消費できそうにないので一緒に楽しみましょう」
この炎が尽きる頃、男の姿も散ってしまうだろう。
それでも、彼にとって一生の思い出になるならそれでいい。
大切な時間を忘れないように決意して、蝋燭に明かりを灯した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
青春とは何かと考えたとき、いまひとつ思いつかなかったので私が思うものを綴ってみました。
「ああ…ありがとうございます」
男はその小瓶を思いきり海へ投げつけ、膝から崩れ落ちた。
「…大丈夫、なわけないですよね」
涙を流す男の背中をそっとさすり、僕は違和感をおぼえる。
それがただの違和感なのか、はたまた気づいてはいけない何かだったのか。
「すみません。もう大丈夫です」
「何があったんですか?僕でよければ力になります」
男の顔をよく見ると、なんだか少し見覚えがある。
「あの…もしかして、星宮学園の生徒ですか?」
「そうです。なんで分かったんですか?」
「教室で見たことがあった気がしたんです」
男は僕を見て、ぎゅっと手を掴まれる。
「一瞬だけでいいから、俺と文通してくれない?
実は、恥ずかしながら手紙で告白しようと思ったんだ。でも、ダサいって一蹴されちゃって…」
「そんなことありません。少なくとも僕はそう思います」
人の想いがこもったものがダサいわけがない。
だけど、ダサいっていうのはおそらく……。
「ありがとう」
「内容はなんでもいいんですか?」
「うん。誰かと話すのって久しぶりだから…」
「分かりました」
──それから15分、完成した手紙を読ませてもらう。
【よければ俺と友だちになりませんか?】
男の手紙にはそう合ったけど、残念ながらその願いは叶えられそうにない。
「これって……」
全然分かっていないみたいだったから、事実を書きこんだ。
【あなたはもうこの世のものではありません】
「思い出しましたか?彼女はあなたのことをダサいって言ったんじゃない。
…あなたの机の花瓶にいたずらした生徒に言っていたんです」
2週間ほど前、僕のクラスの生徒が事故にあった。
飲酒運転の車が突っこんできて即死だったと新聞で読んだ。
あまり話したことがない相手とはいえ、なんだか放っておけなかった。
「俺が幽霊だから、手紙を渡せなかったのか」
「それもあると思います」
「俺のこと、怖くないの?」
「慣れてますから」
幽霊たちは小さい頃から僕の友だちだ。
成仏した子もいるが、生きている人間よりずっと優しかった。
「そっか。家のことをしないといけないから部活はできなかったし、好きな相手に好きって伝えられなかったし」
頭を抱える男を見て思いついたことがある。
「じゃあ、これからひとつ青春っぽいことしましょう」
花火の束を見せると、男は満足げに笑って頷く。
「なんで持ってたの?」
「バイト先でもらいました。消費できそうにないので一緒に楽しみましょう」
この炎が尽きる頃、男の姿も散ってしまうだろう。
それでも、彼にとって一生の思い出になるならそれでいい。
大切な時間を忘れないように決意して、蝋燭に明かりを灯した。
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青春とは何かと考えたとき、いまひとつ思いつかなかったので私が思うものを綴ってみました。
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