物置小屋

黒蝶

文字の大きさ
1,903 / 1,909
物語の欠片

風前の灯火(遅めの青春)

しおりを挟む
「あの、落としましたよ」
「ああ…ありがとうございます」
男はその小瓶を思いきり海へ投げつけ、膝から崩れ落ちた。
「…大丈夫、なわけないですよね」
涙を流す男の背中をそっとさすり、僕は違和感をおぼえる。
それがただの違和感なのか、はたまた気づいてはいけない何かだったのか。
「すみません。もう大丈夫です」
「何があったんですか?僕でよければ力になります」
男の顔をよく見ると、なんだか少し見覚えがある。
「あの…もしかして、星宮学園の生徒ですか?」
「そうです。なんで分かったんですか?」
「教室で見たことがあった気がしたんです」
男は僕を見て、ぎゅっと手を掴まれる。
「一瞬だけでいいから、俺と文通してくれない?
実は、恥ずかしながら手紙で告白しようと思ったんだ。でも、ダサいって一蹴されちゃって…」
「そんなことありません。少なくとも僕はそう思います」
人の想いがこもったものがダサいわけがない。
だけど、ダサいっていうのはおそらく……。
「ありがとう」
「内容はなんでもいいんですか?」
「うん。誰かと話すのって久しぶりだから…」
「分かりました」


──それから15分、完成した手紙を読ませてもらう。
【よければ俺と友だちになりませんか?】
男の手紙にはそう合ったけど、残念ながらその願いは叶えられそうにない。
「これって……」
全然分かっていないみたいだったから、事実を書きこんだ。
【あなたはもうこの世のものではありません】
「思い出しましたか?彼女はあなたのことをダサいって言ったんじゃない。
…あなたの机の花瓶にいたずらした生徒に言っていたんです」
2週間ほど前、僕のクラスの生徒が事故にあった。
飲酒運転の車が突っこんできて即死だったと新聞で読んだ。
あまり話したことがない相手とはいえ、なんだか放っておけなかった。
「俺が幽霊だから、手紙を渡せなかったのか」
「それもあると思います」
「俺のこと、怖くないの?」
「慣れてますから」
幽霊たちは小さい頃から僕の友だちだ。
成仏した子もいるが、生きている人間よりずっと優しかった。
「そっか。家のことをしないといけないから部活はできなかったし、好きな相手に好きって伝えられなかったし」
頭を抱える男を見て思いついたことがある。
「じゃあ、これからひとつ青春っぽいことしましょう」
花火の束を見せると、男は満足げに笑って頷く。
「なんで持ってたの?」
「バイト先でもらいました。消費できそうにないので一緒に楽しみましょう」
この炎が尽きる頃、男の姿も散ってしまうだろう。
それでも、彼にとって一生の思い出になるならそれでいい。
大切な時間を忘れないように決意して、蝋燭に明かりを灯した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
青春とは何かと考えたとき、いまひとつ思いつかなかったので私が思うものを綴ってみました。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

会社員の青年と清掃員の老婆の超越した愛

MisakiNonagase
恋愛
二十六歳のレンが働くオフィスビルには、清掃員として七十歳のカズコも従事している。カズコは愛嬌のある笑顔と真面目な仕事ぶりで誰からも好かれていた。ある日の仕事帰りにレンがよく行く立ち飲み屋に入ると、カズコもいた。清掃員の青い作業服姿しか見たことのなかったレンは、ごく普通の装いだったがカズコの姿が輝いて見えた。それから少しづつ話すようになり、二人は年の差を越えて恋を育んでいくストーリーです。不倫は情事かもしれないが、この二人には情状という言葉がふさわしい。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...