物置小屋

黒蝶

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物語の欠片

想いの終着点(七夕)

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誰もいない場所へ向かって、男がひとり歩き続けている。
「……見つけた」
その場所には想いの欠片が集まり、祈りや願いがこめられている。
それをただ見続けるのが彼の仕事だ。
【友だちの病気が治りますように】
【ピアノが上手になりますように】
【みんなを支えられるくらい強くなりたい】
様々な想いに触れ、男は静かに目を閉じる。
沢山の人々の願いや祈りの終着点のなかに、若干違った想いを見つけた。
【私がいなくても、あの子が寂しがりませんように】
「……急がないと」
男は身支度を整え、すぐに想いが発せられた場所へ向かう。
「こんばんは。突然ですが、僕と一緒に来てもらいます」
「……どういうことですか?」
「怯えないで。あなたの終着点へご案内します」
少女の手をとり、遥か彼方へ歩きだす。
ふたりは夜空を駆け、気づいたときには誰もいない空間へ辿り着いていた。
「ここって…」
「あなたの終着点です。…あの子のことが気になっていたのでしょう?」
男が指さす場所を覗きこむと、少女がずっと気になっていた人物がうつっていた。
「…あの子は私にご飯をくれたんです。だけど、大きな音に驚いた私は車に……」
「そうでしたか」
幼子は小さなお墓に手を合わせる。
「あの子はきっと幸せに生きていけます。…周りにあれだけの人がいるでしょう?」
幼子とともに祈る者、少し離れた場所から見守る者…反応は様々だが、誰ひとりとして幼子を傷つけるものはいない。
「よかった。私がいなくても、あの子はひとりじゃないんですね」
「あなたも独りではありません。あんなに想っている人がいるのですから」
「そうですね。…そうかもしれません」
少女は笑みを浮かべ、夜に溶けるように姿を消した。
「……間に合ったか」
猫だった少女を思い浮かべ、男は再び目を閉じる。
彼の仕事はただひとつ。
年に一度想いの欠片を集め、相手の本当の想いを汲みとり、想いの終着点にて暗い感情を取り除くことだ。
「…願わくば、彼女と再び会えるように」
そっと目を閉じ、男の姿も夜空に溶けていく。
年に一度、この日以外は他者から認識されない存在となって旅をするのだ。
男の想いとともに終着点は星になった。
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あまりまとまらなかったのですが、七夕だけ動く短冊仕分け人をイメージして綴ってみました。
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