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物語の欠片
バニラとかぼちゃとストロベリー(ハロウィン)※百合表現あり
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「奏」
「……ああ、ごめん。ちょっとぼんやりしてた」
清香は心配そうに奏の顔をのぞきこんだが、奏はただ微笑んだ。
「生徒会の仕事、もう片づいたの?」
「うん。今日は特に大きな仕事はなかったから…」
「それじゃあ帰ろうか」
「そうだね」
清香はここ数日、生徒会の仕事以外でも用意しているものがあった。
そんな忙しいなかでも、恋人の異変を見逃したりしない。
「私には言えないこと?」
「そういうわけじゃないよ。…今度、男装女装コンテストがあるでしょ?クラスでそれに出ないかって言われて…。
断ったんだけど、そのときにちょっと色々言われちゃったんだ」
奏はズボン制服登校であることや、若干短めの髪型を維持している。
それには諸事情あるのだが、誰にでも話せることではない。
「ごめんなさい。掘り起こすみたいなことしちゃって…」
「ううん。清香に心配かけちゃうくらいなら、今話せてよかった」
帰り道、ふたりの影にはいつもより少し距離がある。
なんだか奏の心が遠ざかっていく気がして、清香は思案した。
──そして、コンテスト当日。
「奏」
「清香?どうしたの?」
「ちょっと来て。大丈夫、今は会場に目が向いているから気づかれないよ」
ふたりはそのまま学校を後にする。
生徒が主催するイベントを他の生徒会メンバーに任せて帰るのは、これが初めてだった。
「これ…」
「少しずつ練習して、ようやく完成したの。奏みたいに上手くできなかったけど…どう、かな?」
マンションの一室、ハロウィン一色に彩られた部屋は奏の心を温かく照らしてくれた。
「ありがとう。すごく綺麗だね。いつの間に完成させたの?」
「奏が出かけている間とか、学校に行く前とか…」
「隣の部屋なのに気づかないなんて、僕は何をしていたのかな…」
奏は苦笑していたが、清香は知っている。
読書家の彼女は音楽を聴きながら本の世界に入ると、なかなか戻ってこないことを。
「大きな音をたてないように気をつけていたからかもしれない。…ねえ、これに着替えて」
持っていたのは、魔法使いのローブ。
奏は言われたとおりにマントを羽織る。
「このワンポイントの星印、この前買ったブックカバーに付いてるやつに似てる…」
「刺繍してみたんだ。流石に洋服までは縫えなかったから、マントだけだけど…気分だけでも味わってほしかった」
清香の想いが何より嬉しい。
奏は思いきり恋人を抱きしめた。
「ちょっと、奏?」
「僕より先に色々用意しちゃうなんて、狡いな…。清香に着てほしいのあったけど、今はこれしかない」
できあがりたてのヴァンパイアのマントを清香につけて、奏は満足げに笑う。
「お菓子、今はチョコレートしか持ってないからそれで我慢してくれる?後で料理持ってくるから」
「今から用意してもらうなんて悪いよ」
「…実は僕も用意してたんだ。といっても、料理だけだけどね」
互いが互いのことを想って用意したものに囲まれて、楽しい夜を過ごす。
少し早くやってきたふたりのハロウィンはかなり充実したものになった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
バニストでハロウィンの話にしてみました。
「……ああ、ごめん。ちょっとぼんやりしてた」
清香は心配そうに奏の顔をのぞきこんだが、奏はただ微笑んだ。
「生徒会の仕事、もう片づいたの?」
「うん。今日は特に大きな仕事はなかったから…」
「それじゃあ帰ろうか」
「そうだね」
清香はここ数日、生徒会の仕事以外でも用意しているものがあった。
そんな忙しいなかでも、恋人の異変を見逃したりしない。
「私には言えないこと?」
「そういうわけじゃないよ。…今度、男装女装コンテストがあるでしょ?クラスでそれに出ないかって言われて…。
断ったんだけど、そのときにちょっと色々言われちゃったんだ」
奏はズボン制服登校であることや、若干短めの髪型を維持している。
それには諸事情あるのだが、誰にでも話せることではない。
「ごめんなさい。掘り起こすみたいなことしちゃって…」
「ううん。清香に心配かけちゃうくらいなら、今話せてよかった」
帰り道、ふたりの影にはいつもより少し距離がある。
なんだか奏の心が遠ざかっていく気がして、清香は思案した。
──そして、コンテスト当日。
「奏」
「清香?どうしたの?」
「ちょっと来て。大丈夫、今は会場に目が向いているから気づかれないよ」
ふたりはそのまま学校を後にする。
生徒が主催するイベントを他の生徒会メンバーに任せて帰るのは、これが初めてだった。
「これ…」
「少しずつ練習して、ようやく完成したの。奏みたいに上手くできなかったけど…どう、かな?」
マンションの一室、ハロウィン一色に彩られた部屋は奏の心を温かく照らしてくれた。
「ありがとう。すごく綺麗だね。いつの間に完成させたの?」
「奏が出かけている間とか、学校に行く前とか…」
「隣の部屋なのに気づかないなんて、僕は何をしていたのかな…」
奏は苦笑していたが、清香は知っている。
読書家の彼女は音楽を聴きながら本の世界に入ると、なかなか戻ってこないことを。
「大きな音をたてないように気をつけていたからかもしれない。…ねえ、これに着替えて」
持っていたのは、魔法使いのローブ。
奏は言われたとおりにマントを羽織る。
「このワンポイントの星印、この前買ったブックカバーに付いてるやつに似てる…」
「刺繍してみたんだ。流石に洋服までは縫えなかったから、マントだけだけど…気分だけでも味わってほしかった」
清香の想いが何より嬉しい。
奏は思いきり恋人を抱きしめた。
「ちょっと、奏?」
「僕より先に色々用意しちゃうなんて、狡いな…。清香に着てほしいのあったけど、今はこれしかない」
できあがりたてのヴァンパイアのマントを清香につけて、奏は満足げに笑う。
「お菓子、今はチョコレートしか持ってないからそれで我慢してくれる?後で料理持ってくるから」
「今から用意してもらうなんて悪いよ」
「…実は僕も用意してたんだ。といっても、料理だけだけどね」
互いが互いのことを想って用意したものに囲まれて、楽しい夜を過ごす。
少し早くやってきたふたりのハロウィンはかなり充実したものになった。
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バニストでハロウィンの話にしてみました。
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