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冬真ルート
第56話
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「も、もう1回お願いします」
「言わない」
冬真がどんな表情をしているのか知りたかったけれど、漆黒の髪に隠れて見えない。
少し残念に思いながら、また今度名前を呼んでもらえるように頑張ろうと心に決めた。
「スノウは冬香さんとも仲良しなんですね」
部屋でじっとしていると、小窓からスノウが入ってきて私の腕にとまる。
早速声をかけたところ、それに答えるようにひと鳴きした。
「冬真も怪我をしているんです。大丈夫でしょうか…」
本当は心配だけれど、秋久さんたちには知られたくないみたいだった。
秘密にしたいことを無理矢理話させるつもりも、こっそり教えるつもりもない。
冬真が無理をしない間は、私が様子を見ておこうと決めた。
「冬真のところに行かなくてもいいんですか?」
「問題ないよ。僕がここに来ればいいだけの話だから」
いつの間に入っていたのか、冬真は少し疲れた様子で椅子に腰掛けた。
「あの、」
「大丈夫。秋久さんたちには帰ってもらったし、なんとか言い訳しきれたし…怪我もそこまで酷いわけじゃないから」
最後のは嘘だと私の勘が告げている。
もし本当に大丈夫なら、きっとあんなふうに顔を歪めたりしない。
「何か飲み物を淹れてきます。紅茶でいいですか?」
「…うん。お願い」
いつもだと私に寝ているように言う冬真は、背もたれに体を預けて目を閉じた。
急いで紅茶を淹れて戻ると、まだぼんやりした様子でこちらを見る。
「あの…いかがでしょうか?」
「もらう」
冬真はゆっくりティーカップを傾けていたけれど、少しずつ床にこぼれていってしまう。
それでもまだ寝ぼけているのか、立ちあがる様子はない。
「こっちで休んでいてください」
ベッドで横になるように誘導して、時々様子を窺いながら紅茶を拭き取る。
色々なものを片づけてから冬真の顔を覗きこむと、すやすやと穏やかな寝息をたてて眠っていた。
「よかったです」
スノウは起こさないように気をつけながら、夜の町へ飛んでいってしまった。
全然考えていなかったけれど、このまま冬真をここに寝かせてしまっても大丈夫だろうか。
もう1度キッチンへ行こうとすると、ぐっと腕を掴まれる。
「やだ…」
「いや、なんですか?」
「いっちゃだめ」
いつもより子どもっぽい反応にどきどきしてしまう。
そっと漆黒の髪に触れると、嬉しそうに笑った。
「もうちょっと、そばにいて?」
「冬真が望んでくれるなら、私はどこへも行きませんよ」
「…うん。約束」
いきなり腕をひかれて、ベッドに倒れこんでしまう。
そしてそのまま抱きしめられて、身動きが取れなくなった。
「…寝よう?」
「言わない」
冬真がどんな表情をしているのか知りたかったけれど、漆黒の髪に隠れて見えない。
少し残念に思いながら、また今度名前を呼んでもらえるように頑張ろうと心に決めた。
「スノウは冬香さんとも仲良しなんですね」
部屋でじっとしていると、小窓からスノウが入ってきて私の腕にとまる。
早速声をかけたところ、それに答えるようにひと鳴きした。
「冬真も怪我をしているんです。大丈夫でしょうか…」
本当は心配だけれど、秋久さんたちには知られたくないみたいだった。
秘密にしたいことを無理矢理話させるつもりも、こっそり教えるつもりもない。
冬真が無理をしない間は、私が様子を見ておこうと決めた。
「冬真のところに行かなくてもいいんですか?」
「問題ないよ。僕がここに来ればいいだけの話だから」
いつの間に入っていたのか、冬真は少し疲れた様子で椅子に腰掛けた。
「あの、」
「大丈夫。秋久さんたちには帰ってもらったし、なんとか言い訳しきれたし…怪我もそこまで酷いわけじゃないから」
最後のは嘘だと私の勘が告げている。
もし本当に大丈夫なら、きっとあんなふうに顔を歪めたりしない。
「何か飲み物を淹れてきます。紅茶でいいですか?」
「…うん。お願い」
いつもだと私に寝ているように言う冬真は、背もたれに体を預けて目を閉じた。
急いで紅茶を淹れて戻ると、まだぼんやりした様子でこちらを見る。
「あの…いかがでしょうか?」
「もらう」
冬真はゆっくりティーカップを傾けていたけれど、少しずつ床にこぼれていってしまう。
それでもまだ寝ぼけているのか、立ちあがる様子はない。
「こっちで休んでいてください」
ベッドで横になるように誘導して、時々様子を窺いながら紅茶を拭き取る。
色々なものを片づけてから冬真の顔を覗きこむと、すやすやと穏やかな寝息をたてて眠っていた。
「よかったです」
スノウは起こさないように気をつけながら、夜の町へ飛んでいってしまった。
全然考えていなかったけれど、このまま冬真をここに寝かせてしまっても大丈夫だろうか。
もう1度キッチンへ行こうとすると、ぐっと腕を掴まれる。
「やだ…」
「いや、なんですか?」
「いっちゃだめ」
いつもより子どもっぽい反応にどきどきしてしまう。
そっと漆黒の髪に触れると、嬉しそうに笑った。
「もうちょっと、そばにいて?」
「冬真が望んでくれるなら、私はどこへも行きませんよ」
「…うん。約束」
いきなり腕をひかれて、ベッドに倒れこんでしまう。
そしてそのまま抱きしめられて、身動きが取れなくなった。
「…寝よう?」
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