裏世界の蕀姫

黒蝶

文字の大きさ
375 / 385
冬真ルート

第57話

しおりを挟む
突然のことに頭が真っ白になる。
「それは、えっと…」
「いてくれないと、困る。どこにも行かないで」
やっぱりまだ寝ぼけているらしく、私の手を離してくれそうにない。
ただ、なんとなくひとりにしたくなくてそのまま横になる。
「狭くありませんか?」
「うん。これがいい」
そんなことを言われてしまったら、余計にふり解くことなんてできない。
されるがまま抱きしめられて目を閉じる。
冬真の腕の中はとても温かくて、すぐに意識がおちていった。
「…ごめん。起こした?」
あれからどれくらい時間が経ったんだろう。
目の前の冬真の表情はとても困ったものに見える。
背中に温かい感触があって、何が起きたのか思い出した。
まだ彼の腕の中にいることに気づいて、慌てて起きあがろうとする。
…体を起こそうとはしたけれど、何故か離してもらえなかった。
「どうしてこういう体勢でいるのか覚えてないんだ。…君にどんなことを言ったのか教えて」
「冬真は、朝が苦手なんですか?」
どう説明したらいいのか分からなくて、つい思ったことが口から零れてしまった。
「多分、普通の人よりは苦手。早く起きられないこともあるし、起きられても頭がふらふらして起きられないこともある」
「どこか具合が悪いんですか…?」
冬真なら無理をして我慢していそうで、思わずそんなことを訊いてしまう。
怒らせてしまったかもしれない…そんなことを考えていると、彼はいつものように笑った。
「病気じゃなくて体質だから、別に心配しなくて大丈夫だよ。
寝起き以外で低血圧の影響を受けることもないし、一定数の人が似たような体質なんだ」
「そうなんですね…」
その言葉を聞いて安心した。
もしそれが冬真だけの症状ならきっと辛いけれど、他にも同じような人たちがいるなら少しは辛さが和らぐだろう。
「この体勢だと僕から抱きしめたってことになると思うんだけど…僕、やっぱり何かした?」
「な、何もされていません」
「…そう」
流石に行かないでと言われて腕をひかれました、とは言えずに誤魔化すことにした。
冬真に嘘を吐くのは嫌だったけれど、やっぱり恥ずかしくなって言えそうにない。
「そういえば、今日は秋久さんが料理を習いにくる日だった」
「そうなんですか?それなら急がないと…」
「準備ならもう終わらせてあるから慌てなくていい。着替えたらキッチンに来て」
「分かりました。ありがとうございます」
念のため蕀さんで様子を窺うと、冬香さんは寝ているみたいだった。
近くに人の気配はなさそうで、少しだけ安心する。
もし今襲われたら、きっとひとたまりもないだろうから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...