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秋久ルート
第55話
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秋久さんがぐっすり眠れているみたいでほっとする。
「おはようございます」
近くにいた甘栗に声をかけると、少し嬉しそうにすり寄ってきた。
起こさないように気をつけているのか、いつもみたいに飛び跳ねない。
健気で可愛いなんて言ったら、甘栗はどんな反応をするだろう。
頭を動かす瞬間、いつもと違うことに気づく。
「あ…」
思わずそんな声が漏れてしまったのは、自分の頭の下にあるものが何なのか分かってしまったからだ。
もし本当にそうなら一晩中ずっとこのままでいたことになる。
腕が痛くなったりしていないだろうか。
じっと秋久さんを見ていると、うっすら目を開けてこちらを見る。
「ああ…悪い、起こしたか?」
「いえ、私もさっき起きたばかりで…」
変な態度をとっていなかったか不安になりながら答えると、彼は優しく頭を撫でてくれた。
「そんなに慌てなくても、この時間なら冬真は大学だ。今ここには俺たちしかいない」
「それもそうなんですけど、その…腕、痛くないですか?」
「そういや、昨日は腕枕したんだったな。自分で忘れてるくらいだから、痛いとかそういうのはない。
月見が不安がるようなことは何もない」
温かい声と優しい笑顔に、私の顔はきっと緩んでいる。
「もう少し寝てもいいか?」
「は、はい」
「こんなにゆっくりしてるのは久しぶりだ。…ありがとな」
秋久さんが笑ってくれるならそれでいい。
彼が元気になるなら、それ以上望むものなんてなかった。
「…温かいな」
「え?」
何が、と訊く間もなく、気づいたときには抱きしめられていた。
「こうしてると、誰かが側にいるんだって感覚になる。たまにはいいな、こういう感覚も」
顔をあげると、秋久さんが小さい子みたいに笑っている。
いつもと違う様子にどきどきしてしまう。
「大丈夫か?」
「はい。秋久さ──」
そこまでで言葉が途切れたのは、首の下から腕がまわってきたからだ。
そのまま抱きしめられる体勢になって、心臓がばくばく音をたてている。
「悪い。今だけでいいからこうさせてほしい」
「分かり、ました」
一言答えるのがせいいっぱいで、そのまま顔をうずめて目を閉じる。
秋久の腕はとても温かくて、それだけで安心した。
「…月見」
「あきひささん…?」
「悪い。そろそろ起こさないと寝すぎになると思ったんだ」
いつの間に寝てしまっていたのだろう。
少し恥ずかしくなりながら体を起こす。
「ごめんなさい。また寝てしまうつもりじゃなかったんですけど…」
「いや。眠れるのはいいことだ。寝過ぎはまずいけどな」
秋久さんは胡桃色の髪を掻きながら体を起こす。
そのとき、手首に何かをつけているのが見えた。
それが何だったのか訊くことはできなかったけれど、大切なものだということは分かる。
「朝食にしよう」
「はい」
「おはようございます」
近くにいた甘栗に声をかけると、少し嬉しそうにすり寄ってきた。
起こさないように気をつけているのか、いつもみたいに飛び跳ねない。
健気で可愛いなんて言ったら、甘栗はどんな反応をするだろう。
頭を動かす瞬間、いつもと違うことに気づく。
「あ…」
思わずそんな声が漏れてしまったのは、自分の頭の下にあるものが何なのか分かってしまったからだ。
もし本当にそうなら一晩中ずっとこのままでいたことになる。
腕が痛くなったりしていないだろうか。
じっと秋久さんを見ていると、うっすら目を開けてこちらを見る。
「ああ…悪い、起こしたか?」
「いえ、私もさっき起きたばかりで…」
変な態度をとっていなかったか不安になりながら答えると、彼は優しく頭を撫でてくれた。
「そんなに慌てなくても、この時間なら冬真は大学だ。今ここには俺たちしかいない」
「それもそうなんですけど、その…腕、痛くないですか?」
「そういや、昨日は腕枕したんだったな。自分で忘れてるくらいだから、痛いとかそういうのはない。
月見が不安がるようなことは何もない」
温かい声と優しい笑顔に、私の顔はきっと緩んでいる。
「もう少し寝てもいいか?」
「は、はい」
「こんなにゆっくりしてるのは久しぶりだ。…ありがとな」
秋久さんが笑ってくれるならそれでいい。
彼が元気になるなら、それ以上望むものなんてなかった。
「…温かいな」
「え?」
何が、と訊く間もなく、気づいたときには抱きしめられていた。
「こうしてると、誰かが側にいるんだって感覚になる。たまにはいいな、こういう感覚も」
顔をあげると、秋久さんが小さい子みたいに笑っている。
いつもと違う様子にどきどきしてしまう。
「大丈夫か?」
「はい。秋久さ──」
そこまでで言葉が途切れたのは、首の下から腕がまわってきたからだ。
そのまま抱きしめられる体勢になって、心臓がばくばく音をたてている。
「悪い。今だけでいいからこうさせてほしい」
「分かり、ました」
一言答えるのがせいいっぱいで、そのまま顔をうずめて目を閉じる。
秋久の腕はとても温かくて、それだけで安心した。
「…月見」
「あきひささん…?」
「悪い。そろそろ起こさないと寝すぎになると思ったんだ」
いつの間に寝てしまっていたのだろう。
少し恥ずかしくなりながら体を起こす。
「ごめんなさい。また寝てしまうつもりじゃなかったんですけど…」
「いや。眠れるのはいいことだ。寝過ぎはまずいけどな」
秋久さんは胡桃色の髪を掻きながら体を起こす。
そのとき、手首に何かをつけているのが見えた。
それが何だったのか訊くことはできなかったけれど、大切なものだということは分かる。
「朝食にしよう」
「はい」
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