裏世界の蕀姫

黒蝶

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秋久ルート

第50話

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抱きかかえられたままの私は、秋久さんにしがみつくことしかできない。
「あと少しで狙撃手の死角になる。そこまでは絶対に連れて行く」
「私にできることはありませんか?」
「ここで待っててほしい。もし俺だけじゃまずいと思ったらこのボタンを押してくれ。…頼んだ」
私をその場におろして、秋久さんはただ微笑む。
それからすぐに走って何人かをなぎ倒したらしかった。
「あなたの邪魔さえ入らなければ…」
「何言ってるんだ?俺はあんたたちの邪魔なんてしてない。…ただ、護りたいものを護る為に当然のことをしているまでだ」
「…やれ!」
沢山の声がするなか、なんとか聞き取れたのはそんな会話だった。
秋久さんは拳銃を持っているはずだけれど、それを使う気配は一向に感じられない。
相手の人たちが刃物のようなものを投げたり、銃で撃とうとしているのが目に入って飛び出しそうになる。
今の私にできることは何だろう。
「──お願い、蕀さんたち」
こういうときに戦う方法を私は知らない。
ただ、情報を集めたり相手の動きを止めることならできるはずだ。
「なんだ、この蔦は!?」
「動けない…誰か救援を!」
「…悪いな。見られたからには全員残らず味わわせてもらうしかない」
ごしゃ、と大きな音がして、何人かの悲鳴が小さく聞こえる。
「悪い。不安にさせたな」
戻ってきた秋久さんはとても疲れている様子だった。
「私、私…ごめんなさい」
これくらいしかできることがないと思っていたのに、そのせいで彼を苦しめてしまったのかもしれない。
「別に月見が謝ることじゃない。それに、俺はそのおかげで助かったんだ。ただ…使わせて悪かった」
「いえ。秋久さんの手助けができたならよかったです」
そう話していると、暗闇の中何かが光る。
私は慌てて秋久さんを抱きしめて手をかざした。
「どうした、いきなり抱きついてきたりして…やっぱり怖、」
彼が振り返ろうとしたのを必死で止める。
蕀さんたちがうねうねして、そのおかげでなんとか防ぐことができた。
「も、もう少しこのままがいいです。…駄目ですか?」
「…本当に嘘が下手だな」
顔をあげると、秋久さんの悲しそうな表情が目に入る。
「ごめんなさい。これしか思いつかなかったんです」
「しばらく動かない方が解きやすいのか?」
「はい。蕀さんたちに色々なものが絡まっているみたいなので、今はまだ完全に解くのは難しいですが…少し時間をください」
「分かった」
そう言うのと同時に、秋久さんに強く抱きしめられる。
助けたかったのに心配させてしまったことに対して少し後悔したけれど、無事でよかったと安心した。
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