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冬真ルート
第40話
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「なんだこれは…!くそ、千切れろ!」
暴れているのは分かったけれど、それでも離すわけにはいかない。
このまま隠れていられればいいと思っていたのに、相手の人とばっちり目が合ってしまう。
「見つけたぞ、装置…!」
後ろに下がらないといけないのに怖くて動けない。
このままだとやられる…ぎゅっと目を閉じた瞬間、誰かが前に立った気配がした。
「…このまま切断してやろうか?」
その低い声はいつも聞くものと全然違っていて、ゆっくり目を開ける。
眼前で起きていたことにただ呆然とした。
冬香さんが手品で使うと話していた大道具を構えて、男の人に向けている。
使い方を間違えれば本当に人を殺しかねない道具だと話していたのに、その背中はそれを相手に向けたまま怒っていた。
「おまえは、マ、」
「もういいから寝てろよ」
銃みたいなものを3発くらい撃ちこんで、冬香さんはこちらをじっと見る。
怒られてしまうと身構えていたら、思っていたものとは全然違う反応がかえってきた。
「よかった。怪我はなさそうだね」
「は、はい」
その安心した声に私もほっとする。
ふと冬真がいた方を見ると、なんだか表情が曇っていた。
「あの、」
「やっぱり会ってたんだ」
「…ごめんなさい」
「蕀姫、黙っててくれたんだね。僕が言わないでほしいってお願いしたのをずっと守ってくれてありがとう」
「…あんたが口止めしたのか」
「だって、冬真にどう思われるか分からないから…嫌われたくなかったんだよ。
それに、僕と会ったなんて話したら蕀姫が怒られちゃうでしょ?またこんなに手が傷ついてる。ちょっとこっちにおいで」
「は、はい」
冬香さんに近づくと、一瞬で現れた布を当てて手当てしてくれた。
「ありがとう」
「こちらこそ、ありがとうございます」
「君はいい子だね。冬真、この子を大切にしないといけないよ。
おまえのことをちゃんと真っ直ぐ見ている人だから」
「もう帰れ」
「そうだね。カルテットに揃われると質問攻めにされそうだ。…またね、蕀姫」
颯爽と去っていく姿を目で追っていると、今度は冬真に手首を握られた。
「あ、あの…」
「あの花、やっぱりあいつにもらったの?」
「冬真の目につくところでお世話してほしいって言われました」
「……そう」
どうして冬真は痛そうな顔をしているんだろう。
頬に手を添えようとしたけれど、その手からは血が滲み出していて咄嗟に引っ込める。
冬真が何か言おうとしたとき、秋久さんが走ってきた。
「何があった?ふたりとも無事か?」
「大丈夫。こいつら、例のラムネの関係者だから連れていって」
「分かった」
状況を察知したのか、秋久さんは何も訊かずに倒れている人たちを運んでいってくれた。
冬真の心に罅が入ったみたいで不安になる。
なんとなく、いつもより目が冷たいような気がした。
暴れているのは分かったけれど、それでも離すわけにはいかない。
このまま隠れていられればいいと思っていたのに、相手の人とばっちり目が合ってしまう。
「見つけたぞ、装置…!」
後ろに下がらないといけないのに怖くて動けない。
このままだとやられる…ぎゅっと目を閉じた瞬間、誰かが前に立った気配がした。
「…このまま切断してやろうか?」
その低い声はいつも聞くものと全然違っていて、ゆっくり目を開ける。
眼前で起きていたことにただ呆然とした。
冬香さんが手品で使うと話していた大道具を構えて、男の人に向けている。
使い方を間違えれば本当に人を殺しかねない道具だと話していたのに、その背中はそれを相手に向けたまま怒っていた。
「おまえは、マ、」
「もういいから寝てろよ」
銃みたいなものを3発くらい撃ちこんで、冬香さんはこちらをじっと見る。
怒られてしまうと身構えていたら、思っていたものとは全然違う反応がかえってきた。
「よかった。怪我はなさそうだね」
「は、はい」
その安心した声に私もほっとする。
ふと冬真がいた方を見ると、なんだか表情が曇っていた。
「あの、」
「やっぱり会ってたんだ」
「…ごめんなさい」
「蕀姫、黙っててくれたんだね。僕が言わないでほしいってお願いしたのをずっと守ってくれてありがとう」
「…あんたが口止めしたのか」
「だって、冬真にどう思われるか分からないから…嫌われたくなかったんだよ。
それに、僕と会ったなんて話したら蕀姫が怒られちゃうでしょ?またこんなに手が傷ついてる。ちょっとこっちにおいで」
「は、はい」
冬香さんに近づくと、一瞬で現れた布を当てて手当てしてくれた。
「ありがとう」
「こちらこそ、ありがとうございます」
「君はいい子だね。冬真、この子を大切にしないといけないよ。
おまえのことをちゃんと真っ直ぐ見ている人だから」
「もう帰れ」
「そうだね。カルテットに揃われると質問攻めにされそうだ。…またね、蕀姫」
颯爽と去っていく姿を目で追っていると、今度は冬真に手首を握られた。
「あ、あの…」
「あの花、やっぱりあいつにもらったの?」
「冬真の目につくところでお世話してほしいって言われました」
「……そう」
どうして冬真は痛そうな顔をしているんだろう。
頬に手を添えようとしたけれど、その手からは血が滲み出していて咄嗟に引っ込める。
冬真が何か言おうとしたとき、秋久さんが走ってきた。
「何があった?ふたりとも無事か?」
「大丈夫。こいつら、例のラムネの関係者だから連れていって」
「分かった」
状況を察知したのか、秋久さんは何も訊かずに倒れている人たちを運んでいってくれた。
冬真の心に罅が入ったみたいで不安になる。
なんとなく、いつもより目が冷たいような気がした。
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