裏世界の蕀姫

黒蝶

文字の大きさ
上 下
357 / 385
冬真ルート

第41話

しおりを挟む
「ふたりとも、何かあったのか?」
沈黙が流れるリビングで、秋久さんが困ったように話しかけてくれる。
「ごめんなさい。私のせいなんです」
「どういうことだ?」
「違、そういうわけじゃ…」
「まずはお嬢ちゃんの話から聞かせてもらおうか」
どこまで話していいか分からないので、細かいことは避けることに決めて少しずつ話す。
「私は、冬真に隠し事をしていたんです。怒らせてしまうのは当たり前で、申し訳なくて…」
ただ、謝りたいと思っていた。
いつもみたいにただ話をしたかったのに上手くいかない。
どんなふうに話していたのか分からなくなってしまって、冬真の心の罅を広げてしまうのが怖くて何も言えなくなってしまっていた。
「たしかに隠し事はよくないが、内容によるな。話せないものもあれば話さないこともある。
お嬢ちゃんの隠し事はどっちだ?」
「分かりません…」
私が話さなかったことで、結局冬真を追いつめてしまった。
けれど、冬香さんとの約束もちゃんと守りたかったのだ。
「そうか。それなら後は本人に訊くしかないな」
「え…?」
冬真はやっぱり怒っているような気がする。
ただ、断定できる何かがあるわけでもないから何も言えなかった。
恐る恐る冬真の方を見ると、困ったような顔をしている。
「別に怒ってない。僕はただ考え事をしていただけで、君に怒ってるわけじゃないよ」
「そう、なんですか?」
「うん。手の手当てをし直そうとは考えてたけどそれだけ」
私に怒っているわけじゃない…ということは、冬香さんには怒っている?
どうして怒っているんだろう。
訊いても教えてもらえそうにないけれど、理由を知りたいと思った。
それに、兄弟ならふたりが一緒にいない理由もあるんじゃないだろうか。
「ちょっと来て」
「は、はい」
「俺は仕事場にいるから、さっきの奴等のことを知りたくなったら連絡してくれ」
「うん。ありがとう」
秋久さんがひらひらと手をふって去っていくのを見届けた後、すぐ冬真に腕を掴まれた。
「あ、あの…」
「やっぱり血が滲んでる。換えた方がいい」
「ごめんなさい」
「別に謝る必要なんてない。君が悪いわけじゃないんだから」
いつもより少し冷たさを感じる話し方だったけれど、本当に怒っているわけではないらしい。
大人しく治療を受けていると、彼は少し苦しげな表情を見せた。
「大丈夫ですか?もしかして怪我をしているんじゃ…」
「これくらい大したことないよ。慣れてるから」
人に優しくできる人はすごいと思う。
ただ、冬真にはもっと自分自身を大切にしてほしい。
直接伝えてしまっても大丈夫か不安に思いながら、巻かれていく包帯をただじっと見つめた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ハーフ&ハーフ

黒蝶
恋愛
ある雨の日、野崎七海が助けたのは中津木葉という男。 そんな木葉から告げられたのは、哀しい事実。 「僕には関わらない方がいいよ。...半分とはいえ、人間じゃないから」 ...それから2ヶ月、ふたりは恋人として生きていく選択をしていた。 これは、極々普通?な少女と人間とヴァンパイアのハーフである少年の物語。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

大好きな第一王子様、私の正体を知りたいですか? 本当に知りたいんですか?

サイコちゃん
恋愛
第一王子クライドは聖女アレクサンドラに婚約破棄を言い渡す。すると彼女はお腹にあなたの子がいると訴えた。しかしクライドは彼女と寝た覚えはない。狂言だと断じて、妹のカサンドラとの婚約を告げた。ショックを受けたアレクサンドラは消えてしまい、そのまま行方知れずとなる。その頃、クライドは我が儘なカサンドラを重たく感じていた。やがて新しい聖女レイラと恋に落ちた彼はカサンドラと別れることにする。その時、カサンドラが言った。「私……あなたに隠していたことがあるの……! 実は私の正体は……――」

婚約破棄で命拾いした令嬢のお話 ~本当に助かりましたわ~

華音 楓
恋愛
シャルロット・フォン・ヴァーチュレストは婚約披露宴当日、謂れのない咎により結婚破棄を通達された。 突如襲い来る隣国からの8万の侵略軍。 襲撃を受ける元婚約者の領地。 ヴァーチュレスト家もまた存亡の危機に!! そんな数奇な運命をたどる女性の物語。 いざ開幕!!

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

王命での結婚がうまくいかなかったので公妾になりました。

しゃーりん
恋愛
婚約解消したばかりのルクレツィアに王命での結婚が舞い込んだ。 相手は10歳年上の公爵ユーグンド。 昔の恋人を探し求める公爵は有名で、国王陛下が公爵家の跡継ぎを危惧して王命を出したのだ。 しかし、公爵はルクレツィアと結婚しても興味の欠片も示さなかった。 それどころか、子供は養子をとる。邪魔をしなければ自由だと言う。 実家の跡継ぎも必要なルクレツィアは子供を産みたかった。 国王陛下に王命の取り消しをお願いすると三年後になると言われた。 無駄な三年を過ごしたくないルクレツィアは国王陛下に提案された公妾になって子供を産み、三年後に離婚するという計画に乗ったお話です。  

処理中です...