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冬真ルート
第39話
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「冬香、さん?」
「うん。少し走れる?」
「大丈夫だと思います」
スノウも連れて行こうとしたけれど、いつの間にかどこかへ行ってしまったらしい。
「あの、どこへ向かうんですか?」
「そんなに離れていない場所だよ。まったく、冬真は昔からああ言う連中の相手が苦手だからね」
昔からというのはどういうことだろう。
まるでずっと前から知り合いみたいな話し方をする冬香さんに違和感を覚えたものの、それをはっきり口にしないまま気づいたときには建物を外から見られる場所に来ていた。
「蕀姫はここにいてね。…今回は僕の言うことを聞いてほしいんだ」
「分かりました」
どうなるか心配だけれど、ここで引き止めてしまったらいけない気がする。
後ろ姿を見送りながら、その場で息をひそめた。
…どれくらい時間が経っただろうか。
「いい加減にして。僕はあんたたちの相手をしてる暇はないんだ。
無作為にばらまいたものをしっかり回収してからじゃないと話を聞くつもりなんてないから」
そう話していたのは間違いなく冬真で、いつもより声が怖い。
外に何人かの人が出てきて、その人たちと対峙している彼の手には注射器みたいなものが握られていた。
「ふざけるな。あんたは俺たちの神様になるんじゃないのか?」
「意味が分からない。薬物で錯乱してるの?それとも、僕の睡眠薬で寝ぼけてるの?」
そう話した冬真に、ひとりの男性が襲いかかる。
蕀さんたちを呼び出そうとしたら、先に冬香さんが間に入った。
「はい、そこまで!…おまえらの相手は僕がしてやるよ」
呆然と立ち尽くす冬真とは反対に、冬香さんは周りにいた人たちを次々なぎ倒していく。
その手さばきはとても目で追いきれるものじゃなかった。
「大丈夫?」
「……なんで」
「え?」
「なんであんたがいるんだよ」
冬真の声は無機質なものに変わって、それがなんだか哀しんでいるように聞こえる。
冬香さんは手を伸ばそうとしていたけれど、その手が冬真に触れることはなかった。
「いたら駄目なの?折角お兄ちゃんが会いに来たのに」
ふたりの雰囲気がなんとなく似ていると感じたことはあった。
今の言葉が本当だと考えなくても分かる。
ただ、それならどうして冬真はあんなふうに拒絶しているんだろう。
「あんたなんかもう…」
その声は悲鳴みたいで、とても聞いていられない。
ふたりのところに行こうとしていたら、ゾンビみたいにゆっくりと立ちあがる人の姿が視界の隅に入る。
「──お願い、蕀さんたち」
この距離なら絶対に届く。
せめて相手を足止めしないと、今の体勢なら冬香さんが怪我をしてしまう。
冬真はきっとそんなことを望んでいるわけじゃない。
相手を捕まえると同時に、手のひらから沢山血が滴り落ちる。
それを止める術を私は知らない。
「うん。少し走れる?」
「大丈夫だと思います」
スノウも連れて行こうとしたけれど、いつの間にかどこかへ行ってしまったらしい。
「あの、どこへ向かうんですか?」
「そんなに離れていない場所だよ。まったく、冬真は昔からああ言う連中の相手が苦手だからね」
昔からというのはどういうことだろう。
まるでずっと前から知り合いみたいな話し方をする冬香さんに違和感を覚えたものの、それをはっきり口にしないまま気づいたときには建物を外から見られる場所に来ていた。
「蕀姫はここにいてね。…今回は僕の言うことを聞いてほしいんだ」
「分かりました」
どうなるか心配だけれど、ここで引き止めてしまったらいけない気がする。
後ろ姿を見送りながら、その場で息をひそめた。
…どれくらい時間が経っただろうか。
「いい加減にして。僕はあんたたちの相手をしてる暇はないんだ。
無作為にばらまいたものをしっかり回収してからじゃないと話を聞くつもりなんてないから」
そう話していたのは間違いなく冬真で、いつもより声が怖い。
外に何人かの人が出てきて、その人たちと対峙している彼の手には注射器みたいなものが握られていた。
「ふざけるな。あんたは俺たちの神様になるんじゃないのか?」
「意味が分からない。薬物で錯乱してるの?それとも、僕の睡眠薬で寝ぼけてるの?」
そう話した冬真に、ひとりの男性が襲いかかる。
蕀さんたちを呼び出そうとしたら、先に冬香さんが間に入った。
「はい、そこまで!…おまえらの相手は僕がしてやるよ」
呆然と立ち尽くす冬真とは反対に、冬香さんは周りにいた人たちを次々なぎ倒していく。
その手さばきはとても目で追いきれるものじゃなかった。
「大丈夫?」
「……なんで」
「え?」
「なんであんたがいるんだよ」
冬真の声は無機質なものに変わって、それがなんだか哀しんでいるように聞こえる。
冬香さんは手を伸ばそうとしていたけれど、その手が冬真に触れることはなかった。
「いたら駄目なの?折角お兄ちゃんが会いに来たのに」
ふたりの雰囲気がなんとなく似ていると感じたことはあった。
今の言葉が本当だと考えなくても分かる。
ただ、それならどうして冬真はあんなふうに拒絶しているんだろう。
「あんたなんかもう…」
その声は悲鳴みたいで、とても聞いていられない。
ふたりのところに行こうとしていたら、ゾンビみたいにゆっくりと立ちあがる人の姿が視界の隅に入る。
「──お願い、蕀さんたち」
この距離なら絶対に届く。
せめて相手を足止めしないと、今の体勢なら冬香さんが怪我をしてしまう。
冬真はきっとそんなことを望んでいるわけじゃない。
相手を捕まえると同時に、手のひらから沢山血が滴り落ちる。
それを止める術を私は知らない。
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