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秋久ルート
第34.5話
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俺は結局、近くにいる人間を巻きこんでしまう。
間に合ってよかったが半分、こんな目に遭わせたくなかったが半分。
はっきり言って複雑だ。
「…おまえがディアボロの下っ端か」
「私は、」
「別に畏まる必要はねえよ。上で命令しかしない奴よりずっと好感を持てる。
ただ、あんた以外の奴は尻尾巻いて逃げたってことだけは教えておいてやる」
月見が倒れた瞬間、周りにあった蕀たちは一斉に床に落ちる。
背を向けないよう気をつけつつ、月見を近くに横たわらせた。
俺に近づきすぎれば一般的な生き方をできなくなるかもしれないと思うと、少し距離があった方がいいと考え敢えてお嬢ちゃんと呼ぶことにしていた。
そうして名前で呼ばないよう気をつけていたのに、うっかり呼んでしまったことに気づく。
「あなたをここで待っていたんです。餌がいてくれたおかげで助かりましたが、」
「…ちょっと黙ってろ」
俺はただ、いつもどおり目の前の極悪人候補を捕まえた。
彼女の顔色が悪いのが気になるが、この場所にはひとりで来ている。
どうしたものかと首をひねった瞬間、どこからか冬真が現れた。
「秋久さん、速すぎ…」
「悪い。どうしても待っていられなかった」
何故外に出たのか、大体見当はついている。
「甘栗、勝手に外へ行くのは危ないって言っただろ?…冬真、お嬢ちゃんの治療を頼む。恐らくこのタイプの毒を浴びてるから、解毒しないとまずい」
「分かった」
冬真はすぐに医者の顔になり、倒れていた月見の手当てをしている。
しょんぼりしている甘栗の頭を撫でながら、捕まえた男を足元に転がす。
「その人は?」
「そろそろ回収しに来てくれるはずだ」
花菜には連絡しておいたが、タイミングを遅らせておいて正解だった。
さっきの月見の様子からして、あの大量の蕀について彼女が知っている。
だが、あの光景をそう簡単には信じられないだろう。
それに、もしかすると本人があまり知られたくないと思っているかもしれない。
「先輩、この人ですか?」
「ああ。頼む」
花菜のいいところは無闇やたらと詮索しないところだ。
それから、仕事の上で持ち前の明るさで振る舞ってくれるのは助かっている。
「あとは連れて帰って様子を見るだけ。…秋久さん、怒ってる?」
「そう見えるか?」
「うん。あと、こうなったのは秋久さんのせいじゃないから」
「ああ。…ありがとう」
やはり冬真には分かってしまうらしい。
「お嬢ちゃんは俺が連れて帰るから、甘栗を頼んでいいか?」
「……分かった」
「大丈夫だ。今なら寝てるし、籠の中でなら大人しくしてる」
「気をつけて運ぶ」
月見の体はまだ軽くて、食事をしているところを見ているにも関わらず心配になる。
この体にどれだけのダメージを負って生きてきたのだろう。
「…どうすればよかったんだろうな、俺は」
闇が深くなる空に呟いた言葉は、きっと誰にも聞こえていない。
間に合ってよかったが半分、こんな目に遭わせたくなかったが半分。
はっきり言って複雑だ。
「…おまえがディアボロの下っ端か」
「私は、」
「別に畏まる必要はねえよ。上で命令しかしない奴よりずっと好感を持てる。
ただ、あんた以外の奴は尻尾巻いて逃げたってことだけは教えておいてやる」
月見が倒れた瞬間、周りにあった蕀たちは一斉に床に落ちる。
背を向けないよう気をつけつつ、月見を近くに横たわらせた。
俺に近づきすぎれば一般的な生き方をできなくなるかもしれないと思うと、少し距離があった方がいいと考え敢えてお嬢ちゃんと呼ぶことにしていた。
そうして名前で呼ばないよう気をつけていたのに、うっかり呼んでしまったことに気づく。
「あなたをここで待っていたんです。餌がいてくれたおかげで助かりましたが、」
「…ちょっと黙ってろ」
俺はただ、いつもどおり目の前の極悪人候補を捕まえた。
彼女の顔色が悪いのが気になるが、この場所にはひとりで来ている。
どうしたものかと首をひねった瞬間、どこからか冬真が現れた。
「秋久さん、速すぎ…」
「悪い。どうしても待っていられなかった」
何故外に出たのか、大体見当はついている。
「甘栗、勝手に外へ行くのは危ないって言っただろ?…冬真、お嬢ちゃんの治療を頼む。恐らくこのタイプの毒を浴びてるから、解毒しないとまずい」
「分かった」
冬真はすぐに医者の顔になり、倒れていた月見の手当てをしている。
しょんぼりしている甘栗の頭を撫でながら、捕まえた男を足元に転がす。
「その人は?」
「そろそろ回収しに来てくれるはずだ」
花菜には連絡しておいたが、タイミングを遅らせておいて正解だった。
さっきの月見の様子からして、あの大量の蕀について彼女が知っている。
だが、あの光景をそう簡単には信じられないだろう。
それに、もしかすると本人があまり知られたくないと思っているかもしれない。
「先輩、この人ですか?」
「ああ。頼む」
花菜のいいところは無闇やたらと詮索しないところだ。
それから、仕事の上で持ち前の明るさで振る舞ってくれるのは助かっている。
「あとは連れて帰って様子を見るだけ。…秋久さん、怒ってる?」
「そう見えるか?」
「うん。あと、こうなったのは秋久さんのせいじゃないから」
「ああ。…ありがとう」
やはり冬真には分かってしまうらしい。
「お嬢ちゃんは俺が連れて帰るから、甘栗を頼んでいいか?」
「……分かった」
「大丈夫だ。今なら寝てるし、籠の中でなら大人しくしてる」
「気をつけて運ぶ」
月見の体はまだ軽くて、食事をしているところを見ているにも関わらず心配になる。
この体にどれだけのダメージを負って生きてきたのだろう。
「…どうすればよかったんだろうな、俺は」
闇が深くなる空に呟いた言葉は、きっと誰にも聞こえていない。
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