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秋久ルート
第35話
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ゆらゆら揺れて、ふわふわ柔らかくて…目を開けると、そこはベッドの上だった。
まだ外は真っ暗で、そんなに時間が経っていないであろうことだけは理解する。
「ここは…」
「気づいたか」
「秋久、さん」
舌が上手くまわっていないのか、言葉がぎこちなくなってしまう。
たしかよく分からない男の人に捕まって、甘栗だけは逃して…
「あ、あの、私、は…」
「まずは説明させてもらっていいか?」
ゆっくり頷くと、秋久さんはなんだか申し訳なさそうに話しはじめた。
「まず、甘栗がいないことに気づいた俺たちは後を追いかけることにした。途中で見失っていたが、たまたま同じ道に甘栗が現れた」
「よかった、です」
甘栗が無事だったことにほっとしたけれど、それならどうして秋久さんは困った顔をしているのだろうか。
「それで、お嬢ちゃんが悪い奴に捕まってるのを見つけた。あんなことに巻きこむつもりなんてなかったのに、本当にすまない」
秋久さんに頭をさげられて、どう答えようか慌ててしまう。
「秋久、さんは…悪く、ありません。私、勝手に…」
「甘栗を追いかけてくれたんだろ?ありがとな」
顔をあげた彼の表情は優しいけれど、やっぱり曇っていた。
「護りたいのに、俺はいつも1歩足りてない。お嬢ちゃんのことだって不安がらせたくないのに、その方法がまだ分かってない」
「あ、の」
「悪い。少しだけ待っててくれ」
よく分からないまま頷くと、秋久さんは本当にすぐ戻ってきてくれた。
「こうすれば飲みやすいか?」
「あ、ありがとう、ございます」
わざわざお茶を淹れてきてくれたんだと思うと、じんと胸が熱くなる。
「何か話したいことがあるんだろう?どうした?」
「名前、を、」
言ってしまっていいのだろうか。
そんなことを考えていると秋久さんが苦笑いした。
「ああ…うっかり呼んだんだったな」
「名前、呼んで…」
「急に呼んで、嫌じゃなかったのか?」
「秋久さんに、呼ばれ、たいです」
なんとか気持ちを伝えることはできたと思う。
ただ、沈黙が続いているとやっぱり言わない方がよかったかもしれないとだんだん不安になる。
じっと見つめていると、秋久さんは優しく笑いかけてくれた。
「それなら、これからは名前で呼ばせてもらうことにする。…月見」
「は、はい」
少し緊張してしまうけれど、それが嫌だとは思わない。
名前を呼んでもらえただけで心がぽかぽかした。
「月見」
「は、はい」
「言いたくなかったら言わなくていいし、今は少し休んでほしい。ただ、ひと段落したら教えてほしいことがある」
どんなことを訊かれるんだろうと思っていたら、彼はすごく言いづらそうに呟いた。
「…あの蕀は、月見が何かすると現れるのか?」
まだ外は真っ暗で、そんなに時間が経っていないであろうことだけは理解する。
「ここは…」
「気づいたか」
「秋久、さん」
舌が上手くまわっていないのか、言葉がぎこちなくなってしまう。
たしかよく分からない男の人に捕まって、甘栗だけは逃して…
「あ、あの、私、は…」
「まずは説明させてもらっていいか?」
ゆっくり頷くと、秋久さんはなんだか申し訳なさそうに話しはじめた。
「まず、甘栗がいないことに気づいた俺たちは後を追いかけることにした。途中で見失っていたが、たまたま同じ道に甘栗が現れた」
「よかった、です」
甘栗が無事だったことにほっとしたけれど、それならどうして秋久さんは困った顔をしているのだろうか。
「それで、お嬢ちゃんが悪い奴に捕まってるのを見つけた。あんなことに巻きこむつもりなんてなかったのに、本当にすまない」
秋久さんに頭をさげられて、どう答えようか慌ててしまう。
「秋久、さんは…悪く、ありません。私、勝手に…」
「甘栗を追いかけてくれたんだろ?ありがとな」
顔をあげた彼の表情は優しいけれど、やっぱり曇っていた。
「護りたいのに、俺はいつも1歩足りてない。お嬢ちゃんのことだって不安がらせたくないのに、その方法がまだ分かってない」
「あ、の」
「悪い。少しだけ待っててくれ」
よく分からないまま頷くと、秋久さんは本当にすぐ戻ってきてくれた。
「こうすれば飲みやすいか?」
「あ、ありがとう、ございます」
わざわざお茶を淹れてきてくれたんだと思うと、じんと胸が熱くなる。
「何か話したいことがあるんだろう?どうした?」
「名前、を、」
言ってしまっていいのだろうか。
そんなことを考えていると秋久さんが苦笑いした。
「ああ…うっかり呼んだんだったな」
「名前、呼んで…」
「急に呼んで、嫌じゃなかったのか?」
「秋久さんに、呼ばれ、たいです」
なんとか気持ちを伝えることはできたと思う。
ただ、沈黙が続いているとやっぱり言わない方がよかったかもしれないとだんだん不安になる。
じっと見つめていると、秋久さんは優しく笑いかけてくれた。
「それなら、これからは名前で呼ばせてもらうことにする。…月見」
「は、はい」
少し緊張してしまうけれど、それが嫌だとは思わない。
名前を呼んでもらえただけで心がぽかぽかした。
「月見」
「は、はい」
「言いたくなかったら言わなくていいし、今は少し休んでほしい。ただ、ひと段落したら教えてほしいことがある」
どんなことを訊かれるんだろうと思っていたら、彼はすごく言いづらそうに呟いた。
「…あの蕀は、月見が何かすると現れるのか?」
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