裏世界の蕀姫

黒蝶

文字の大きさ
179 / 385
夏彦ルート

第52話

しおりを挟む
「月見ちゃん、どうし…」
夏彦が驚いた表情でこちらを見つめている。
「お願い、今は…」
こんな私を見ないでほしい。
蕀さんたちが止まる様子はなく、そのまま一気に部屋を覆ってしまいそうになる。
折角ベランダに出たのに、このままでは意味がない。
止めたいと慌てれば慌てるほどどんどん勢いを増してしまう。
「──月見ちゃん」
「夏彦…?」
目を閉じているから声で判断するしかないけれど、蕀さんたちから伝わってくるのは不安だった。
「大丈夫だから、ゆっくり目を開けて」
「でも、私は、」
「俺がついてるからさ、きっと大丈夫だよ」
恐る恐る目を開けると、大量の蔦に囲まれていた。
夏彦を傷つけていないか心配になったけれど、怪我をさせてしまったわけではないみたいだ。
「手、痛そうだね。手当てするからこっちおいで」
「えっと、その…」
「気にしないで!そういうのってコントロールできなくなることがあるって、アニメや漫画ではよくあるでしょ?
だから、月見ちゃんみたいに出すつもりがないのに沢山力が出る人がいても全然不思議じゃないと思うんだ」
夏彦の言葉に多分嘘はない。
ただ、少し慌てているだけ。それから、哀しみのようなものが蕀さんたちから伝わってくる。
「はい、これで手当てはおしまい!」
「ありがとうございます」
きゅっと手を握られて驚いていると、夏彦は目を伏せながら呟いた。
「こんななか、ずっと独りで頑張ってきたんだね」
そんな言葉なんて、今までかけられたことがなかった。
あの人たちの前ではひたすら感情を殺して、真っ暗なあの部屋でだけ蕀さんたちを出すようにしていたから。
最近はあそこまで感情を抑えていなかったから、暴走してしまったのかもしれない。
あんまり表情に出さないようにしないと…なんて考えていると、ぽんと頭に手をおかれる。
「俺は、月見ちゃんの気持ちを知れるのがすごく嬉しいよ。はじめの頃は表情が死んでることもあったけど、今は思ってることとかちゃんと口に出してくれるから嬉しいんだ」
「やっぱり夏彦は、優しいんですね。でも…」
続きを話そうとすると、にゃあと不満げな声が聞こえる。
「ソルト…ごめんなさい、怪我しなかった?」
そう声をかけると、元気よくひと鳴きして夏彦の腕に飛び乗る。
「ちょ、ソルト、肩の上は流石に重いから降りてもらえると助かるんだけど…ソルトさん?」
この場所が気に入ったと言わんばかりに、ソルトは夏彦にくっついている。
なんとか蔦を集め終わったところで、そんな光景を遠目に見ていた。


……さっき感じた憎悪や殺意は誰に向けられたものなのか訊けないまま。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...