裏世界の蕀姫

黒蝶

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夏彦ルート

第53話

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「それじゃあ月見ちゃん。今日もよろしくね」
「は、はい…」
次の日、いつものようにお店で作業する。
沢山の紫陽花を作りながら、時折聞こえるお客さんや店員さんの声に耳を傾ける。
そのときに聞こえたのが、季節の花のアクセサリーがほしいというものだった。
「…秋桜」
「秋桜がどうかしたの?」
ほんやりしていたせいか、夏彦がいることに全く気づいていなかった。
「えっと、その…」
私が意見していいのか分からなくてしどろもどろになっていると、きゅっと手を掴まれた。
「…もしかして、傷痛む?」
「いえ、そうではなくて…新しいものを、作ってみたんです。
出すぎたことをしたと自覚はあるんですけど…」
怒られてしまうか、呆れられてしまうか…そう思っていたのに、かえってきた反応は喜びだった。
「秋桜のワンポイントアクセ!?花びらがすごく細かくて、本当に咲いてるみたいだね。
従業員から意見が出てたからどうしようとは思ってたけど、まさか月見ちゃんがもう作ってくれてるとは思わなかった」
「え…?」
「これ、商品にしちゃってもいいかな?」
「本当に、いいんですか?」
「勿論。だけど、これは君が作ったものなんだから嫌だと思ったらそう言って?」
「私のもので、よければ…」
そう答えるのでせいいっぱいだったけれど、夏彦が笑ってくれたからそれでいい。
「他の従業員たちもきっと喜ぶよ。いつもありがとう、月見ちゃん」
「わ、私で役にたてるなら嬉しいです」
「もう少ししたらお昼にしよう。それから、休憩はちゃんととること」
その言葉に頷くと、店長と呼ぶ声がした。
「また後でね!」
「わっ…」
取りやすいように投げてくれたペットボトルを抱えながら、もう少し作業をすすめることにする。
あれから危ない人たちは来ていないけれど、彼の心にある表現しづらい感情はあの人たちに向けられているのかもしれない。
「月見ちゃん、お待たせ!」
「い、いえ…」
ソルトと毛糸でじゃれていると、夏彦はいつもどおりの笑顔で接してくれた。
昨日あんなことがあったのに、それでも変わらずいてもらえることはありがたい。
「ごめん、今日はちょっと予約のお客さんが来るからお弁当を買ってきたんだ。
唐揚げととんかつ、どっちがいい?」
「か、唐揚げで…」
「了解!じゃあ俺はとんかつで…いただきます」
隣り合って座り、一口囓る。
自分で作るときにこの味が出せないからいつも研究しているつもりだけど、残念なことにまだまだこの味には届かないだろう。
それに、その前に秋久さんに教えてもらったものを作りたい。
「月見ちゃん、ひとつお願いしてもいい?」
「私に、できることなら」
なんだろうと首を傾げていると、綺麗な洋服が手渡される。
「それを着てみてほしいんだ」
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