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夏彦ルート
第51話
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お仕事が休みの日、夏彦が休んでいる間にレシピどおりに試してみようと思っていると、ぱらぱらと何かが崩れる音がした。
そちらの方を見てみると、1冊のリングノートがばらばらになってしまっている。
順番までは分からないけれど戻しておきたくて、つい中身が見えてしまった。
【兄さんとの思い出がなくなることはない。そして、これは自分への戒めだ】
そんな言葉が並ぶ頁には3枚の写真が貼られていた。
小さな男の子がふたり写っているもの、その子たちが成長したであろう姿のもの…そして、ギターを持って笑っている少年と別の楽器と笑っている青年。
…ここに写っているのが誰かなんて訊かなくても分かる。
「月見ちゃん?」
後ろから声をかけられたような気がするけれど、誰がいるか確認することなんてできない。
自分でもよく分からないけれど、涙が溢れて止まらなかった。
彼が背負っているものはどれ程重いのだろう。
「ごめんなさい、なんでもなくて…」
「ああ、それ…落ちちゃったんだね。大切に扱ってくれてありがとう」
「あ、あの、これ…大切なもの、」
「うん。だけど、破れなかったのは奇跡だよ。本当にありがとう」
「…夏彦は」
「ん?」
「夏彦は、どうして人を護っているんですか?」
唐突すぎたかもしれない。
ただ、何を話せばいいのか分からなくて咄嗟に出てきたのがそんな言葉だった。
「前に話さなかったっけ?」
「そう、だったかもしれません。でも、そういうことじゃなくて、夏彦は、傷ついていて、でも、それだけじゃなくて…」
言葉が上手く繋がらない。
どんな反応をするのがいいのか、どんな話をすればいいのか分からなかった。
多分夏彦は、お兄さんを傷つけた相手を許していない。
もしもその相手を見つけたらどうするんだろう。
これから私には何ができるのだろうか。
そのとき、指先に痛みがはしる。
「……っ」
「月見ちゃん?大丈夫?」
「お願いします。今は、近づかないでください」
ファイルを手渡してベランダに出る。
どこまで力が暴走してしまうか分からないだけに、本当はすごく怖い。
もしも止められなかったらどうしよう、もしも誰かを傷つけてしまったら…。
感情を抑えたいのに、そんな不安ばかりがつのっていく。
「…止まって」
そんな呟きを風が嘲笑うようにさらっていく。
グローブをはずして、人がいないであろう空に向かって手をかざす。
どんな状態になるのか分からないだけに、見たくなくて目を閉じる。
こういうとき、私が普通だったらよかったのにと少しだけ考えてしまう。
──普通の女の子だったら、夏彦の隣を歩けたのかな。
そちらの方を見てみると、1冊のリングノートがばらばらになってしまっている。
順番までは分からないけれど戻しておきたくて、つい中身が見えてしまった。
【兄さんとの思い出がなくなることはない。そして、これは自分への戒めだ】
そんな言葉が並ぶ頁には3枚の写真が貼られていた。
小さな男の子がふたり写っているもの、その子たちが成長したであろう姿のもの…そして、ギターを持って笑っている少年と別の楽器と笑っている青年。
…ここに写っているのが誰かなんて訊かなくても分かる。
「月見ちゃん?」
後ろから声をかけられたような気がするけれど、誰がいるか確認することなんてできない。
自分でもよく分からないけれど、涙が溢れて止まらなかった。
彼が背負っているものはどれ程重いのだろう。
「ごめんなさい、なんでもなくて…」
「ああ、それ…落ちちゃったんだね。大切に扱ってくれてありがとう」
「あ、あの、これ…大切なもの、」
「うん。だけど、破れなかったのは奇跡だよ。本当にありがとう」
「…夏彦は」
「ん?」
「夏彦は、どうして人を護っているんですか?」
唐突すぎたかもしれない。
ただ、何を話せばいいのか分からなくて咄嗟に出てきたのがそんな言葉だった。
「前に話さなかったっけ?」
「そう、だったかもしれません。でも、そういうことじゃなくて、夏彦は、傷ついていて、でも、それだけじゃなくて…」
言葉が上手く繋がらない。
どんな反応をするのがいいのか、どんな話をすればいいのか分からなかった。
多分夏彦は、お兄さんを傷つけた相手を許していない。
もしもその相手を見つけたらどうするんだろう。
これから私には何ができるのだろうか。
そのとき、指先に痛みがはしる。
「……っ」
「月見ちゃん?大丈夫?」
「お願いします。今は、近づかないでください」
ファイルを手渡してベランダに出る。
どこまで力が暴走してしまうか分からないだけに、本当はすごく怖い。
もしも止められなかったらどうしよう、もしも誰かを傷つけてしまったら…。
感情を抑えたいのに、そんな不安ばかりがつのっていく。
「…止まって」
そんな呟きを風が嘲笑うようにさらっていく。
グローブをはずして、人がいないであろう空に向かって手をかざす。
どんな状態になるのか分からないだけに、見たくなくて目を閉じる。
こういうとき、私が普通だったらよかったのにと少しだけ考えてしまう。
──普通の女の子だったら、夏彦の隣を歩けたのかな。
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