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春人ルート
第44話
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「…おはよう、ございます」
「おはよう」
あれから恥ずかしくて目をあわせられない。
夜遅いからと一夜明け、何を話したらいいのかも分からなくなってしまった。
「…ごめん」
「どうして謝るんですか?」
「昨日、あんなことをして…嫌な思いをさせたんじゃないかって思ったんだ」
春人の沈んだ声に慌てて言葉を返す。
「そうではなくて、その…何を話したらいいのか、分からなくなってしまったんです。
なんだか恥ずかしくなってしまって…」
「嫌な思いをさせた訳じゃないならよかった」
ほっとしたように話す春人をじっと見つめると、なんだか顔が赤くなっているような気がする。
風邪を引いたときにそうなる人がいることはなんとなく分かっているけれど、どう訊くのがいいだろうか。
体調がよくないんじゃないですか、具合が悪いんですか…どういうふうにすれば失礼にならないだろう。
「申し訳ないけど、今日はこれから仕事に行かないといけないんだ。…何か必要なものはない?」
「えっと、洗剤がなくなりそうです」
「そういうことじゃなくて…まあ、分かった。ついでに他のものも買ってくる。いってきます」
「いってらっしゃい」
扉が閉まった瞬間、力が抜ける。
どうしてこんなにどきどきしているのか、まだ私には分からない。
ただ、お仕事にいくなら体調が悪いことを誰かに知らせておいた方がいいだろう。
《夏彦さん、今日は春人とお仕事ですか?》
《そうだけど…どうかした?》
《春人の体調が悪そうだったので、一応知らせておいた方がいいのかなって思ったんです》
そんなに時間がたたないうちに返信がきた。
《了解、よく見ておくね。報告ありがとう!》
これで少しでも役に立てればいいのだけれど、彼は大丈夫だろうか。
不安に思いながら、ラビとチェリーを抱きしめた。
──そうこうしているうちに、あっという間に陽が沈む。
「大丈夫かな…」
食器の片づけもお部屋の掃除も夕飯の支度も終えて、ただひたすら帰りを待つ。
独りがこんなに寂しいなんて思っていなかった。
…あの場所でならずっと独りでいたいと考えていたはずなのに、いつからこんなに寂しいなんて考えるようになったんだろう。
そのとき、扉が開く音がした。
「おかえりなさ…」
玄関先の様子を見てただ固まる。
「ごめん、月見ちゃん…。ちょっと手伝ってもらってもいい?」
夏彦さんはぐったりとした春人を抱えるようにして、リビングを通りすぎていく。
お茶を飲もうと持っていたグラスが床に落ちて、ばらばらに砕け散った。
「おはよう」
あれから恥ずかしくて目をあわせられない。
夜遅いからと一夜明け、何を話したらいいのかも分からなくなってしまった。
「…ごめん」
「どうして謝るんですか?」
「昨日、あんなことをして…嫌な思いをさせたんじゃないかって思ったんだ」
春人の沈んだ声に慌てて言葉を返す。
「そうではなくて、その…何を話したらいいのか、分からなくなってしまったんです。
なんだか恥ずかしくなってしまって…」
「嫌な思いをさせた訳じゃないならよかった」
ほっとしたように話す春人をじっと見つめると、なんだか顔が赤くなっているような気がする。
風邪を引いたときにそうなる人がいることはなんとなく分かっているけれど、どう訊くのがいいだろうか。
体調がよくないんじゃないですか、具合が悪いんですか…どういうふうにすれば失礼にならないだろう。
「申し訳ないけど、今日はこれから仕事に行かないといけないんだ。…何か必要なものはない?」
「えっと、洗剤がなくなりそうです」
「そういうことじゃなくて…まあ、分かった。ついでに他のものも買ってくる。いってきます」
「いってらっしゃい」
扉が閉まった瞬間、力が抜ける。
どうしてこんなにどきどきしているのか、まだ私には分からない。
ただ、お仕事にいくなら体調が悪いことを誰かに知らせておいた方がいいだろう。
《夏彦さん、今日は春人とお仕事ですか?》
《そうだけど…どうかした?》
《春人の体調が悪そうだったので、一応知らせておいた方がいいのかなって思ったんです》
そんなに時間がたたないうちに返信がきた。
《了解、よく見ておくね。報告ありがとう!》
これで少しでも役に立てればいいのだけれど、彼は大丈夫だろうか。
不安に思いながら、ラビとチェリーを抱きしめた。
──そうこうしているうちに、あっという間に陽が沈む。
「大丈夫かな…」
食器の片づけもお部屋の掃除も夕飯の支度も終えて、ただひたすら帰りを待つ。
独りがこんなに寂しいなんて思っていなかった。
…あの場所でならずっと独りでいたいと考えていたはずなのに、いつからこんなに寂しいなんて考えるようになったんだろう。
そのとき、扉が開く音がした。
「おかえりなさ…」
玄関先の様子を見てただ固まる。
「ごめん、月見ちゃん…。ちょっと手伝ってもらってもいい?」
夏彦さんはぐったりとした春人を抱えるようにして、リビングを通りすぎていく。
お茶を飲もうと持っていたグラスが床に落ちて、ばらばらに砕け散った。
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