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夏彦ルート
第23話
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どうやら私は、真っ直ぐ布を切るという工程が苦手らしい。
「ご、ごめんなさい…」
「大丈夫だよ。初めてのときはみんな上手くいかないものだから」
夏彦は手際よく鋏を動かしていて、それを観察させてもらうことにする。
そうこうしているうちに、足元で鳴き声が聞こえた。
「ソルト…ミルク飲む?」
抱きあげてそう尋ねると、にゃんとひと鳴きして手招きのようなポーズをとる。
「…ごめんなさい、少し行ってきます」
「了解!その間に布は切っておくね」
夏彦が実際に作業をしている姿を見ていると、やっぱりプロの人はすごいなと感じる。
彼は私みたいに必要最低限やらなければいけないことだから覚えたわけではないはずだ。
…だから鋏の音が綺麗に聞こえるのかもしれない。
「ソルト、ゆっくり飲んでね」
昔から人間以外が相手だと、気が抜けるからか敬語を使わずに話すことができた。
夏彦相手にもそうなりたいけれど、どうしても力が入ってしまう。
「…いい子にしててね」
ミルクを飲む姿を見届けてから元の部屋に戻る。
その瞬間、向日葵色の髪がかきあげられるのが目にはいった。
夏彦は作業に集中しているのか、私が扉を開けたことにも気づいていない。
「…これでよし」
「あ、あの。冷たい飲み物を淹れてきたのですが…」
ひと区切りついたところで彼に声をかける。
「月見ちゃん!?ごめん、全然気づいてなかった。ありがとう」
「夏彦は、とても綺麗な音を出すんですね」
「どういうこと?」
アイスココアを一口飲んで首を傾げる彼に、私はただ思ったことを伝えた。
「布を切るときの鋏の音とか、1枚1枚重ねるときの音とか…ひとつひとつの仕草が綺麗だなって思ったんです。変、でしょうか?」
「そんなことないよ。ただ、言われたのが初めてだったからちょっと吃驚しただけ!
まさかそんなふうに思ってもらえてたなんて思わなかったよ」
夏彦の笑顔はやっぱり輝いていて、見ているだけで明るい気分になる。
「月見ちゃんは、」
その瞬間、扉の隙間から白いものが入ってきた。
「ソルト…」
「ミルク美味しかった?でも、今から月見ちゃんともっと話をするところだったんだけど…」
ソルトは夏彦から顔を背けてとてとてとこちらにやってくる。
「まだひとりきりにすることはできないから、一旦店にも慣れさせないといけないんだけど…どうしようかな。
俺にはあんまりなついてない、というより月見ちゃんが大好きみたいだね」
「…そう、なんでしょうか?」
あまり意識したことはなかった。
好きだとか嫌いだとか、そんなことを話せる相手がいなかったから。
…ソルトはどう思っているんだろう。
「ご、ごめんなさい…」
「大丈夫だよ。初めてのときはみんな上手くいかないものだから」
夏彦は手際よく鋏を動かしていて、それを観察させてもらうことにする。
そうこうしているうちに、足元で鳴き声が聞こえた。
「ソルト…ミルク飲む?」
抱きあげてそう尋ねると、にゃんとひと鳴きして手招きのようなポーズをとる。
「…ごめんなさい、少し行ってきます」
「了解!その間に布は切っておくね」
夏彦が実際に作業をしている姿を見ていると、やっぱりプロの人はすごいなと感じる。
彼は私みたいに必要最低限やらなければいけないことだから覚えたわけではないはずだ。
…だから鋏の音が綺麗に聞こえるのかもしれない。
「ソルト、ゆっくり飲んでね」
昔から人間以外が相手だと、気が抜けるからか敬語を使わずに話すことができた。
夏彦相手にもそうなりたいけれど、どうしても力が入ってしまう。
「…いい子にしててね」
ミルクを飲む姿を見届けてから元の部屋に戻る。
その瞬間、向日葵色の髪がかきあげられるのが目にはいった。
夏彦は作業に集中しているのか、私が扉を開けたことにも気づいていない。
「…これでよし」
「あ、あの。冷たい飲み物を淹れてきたのですが…」
ひと区切りついたところで彼に声をかける。
「月見ちゃん!?ごめん、全然気づいてなかった。ありがとう」
「夏彦は、とても綺麗な音を出すんですね」
「どういうこと?」
アイスココアを一口飲んで首を傾げる彼に、私はただ思ったことを伝えた。
「布を切るときの鋏の音とか、1枚1枚重ねるときの音とか…ひとつひとつの仕草が綺麗だなって思ったんです。変、でしょうか?」
「そんなことないよ。ただ、言われたのが初めてだったからちょっと吃驚しただけ!
まさかそんなふうに思ってもらえてたなんて思わなかったよ」
夏彦の笑顔はやっぱり輝いていて、見ているだけで明るい気分になる。
「月見ちゃんは、」
その瞬間、扉の隙間から白いものが入ってきた。
「ソルト…」
「ミルク美味しかった?でも、今から月見ちゃんともっと話をするところだったんだけど…」
ソルトは夏彦から顔を背けてとてとてとこちらにやってくる。
「まだひとりきりにすることはできないから、一旦店にも慣れさせないといけないんだけど…どうしようかな。
俺にはあんまりなついてない、というより月見ちゃんが大好きみたいだね」
「…そう、なんでしょうか?」
あまり意識したことはなかった。
好きだとか嫌いだとか、そんなことを話せる相手がいなかったから。
…ソルトはどう思っているんだろう。
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