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獣人国編~【勇者】アーク・ダンジョン『時の迷宮』~

総力戦前の束の間

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「足軽兵100人、足軽弓兵100人、足軽槍兵100人、ここに参集致しました!」

「火縄銃兵上限の100人到達までに最低でも3時間半は掛かる見込みだとの事です!」

「構わん!それでも猶予まで8時間以上ある!
"火薬庫"、"炭焼き竈"の増設を急ぐ故、火薬を急ぎ増産せよ!」

「「「はっ!」」」




ガィンッ!ガィンッ!

「殿っ!大砲の方は時間までに10門が限界です!」

「少ないが仕方無い!
弓矢制作の方はどうじゃ!?」

「現状、通常矢600、火矢200、毒矢100になります!」

「えぇ、えぇ!出来次第順次配備せよ!
作れるだけ作るんじゃ!」

「「「へぃっ!」」」






「ヒ、ヒナワ…?カヤク…?(ハナ)」

「タイホー…?(ハウンド)」

「…何だ?この黒い粉…(アーク)」

「ちょ、"外"のアンタら!勝手に触らんでくれ!爆発でもしたらどうするんじゃ!?」

「「「ば、爆発…!?」」」


ハナ、ハウンド、アークの3人は、周りで行われている事に着いていけず、途方に暮れていた。

そんな中


「はい、木炭と硫黄の配合終わりましたよー。」

「お、あんがとなぁ嬢ちゃん。」


ヴァンディットは火薬作りの手伝いをし


「ダメダメ、こんな番線の巻き方じゃ櫓が崩れちゃいますよー。(棒)」ギ、ギリッ…

「「「「す、すいません…」」」」


ラインハードは櫓を組んでいる最中の足軽兵達に番線の巻き方を教えていた。

そしてノアはと言うと







「良い?ゆっくりとだよ?」

『分かってる、やってるよ。』ジャリ…

「ゆっく、ゆーっくりだっての!」

『やってるっての!少し動いた位でびびんなって!』


鬼神とノアはお互いに手を合わせ、何やら声を掛け合っている。
周囲の足軽兵達はそのやり取りを遠目から見守っている。

実はこれが【一神同体】本来の解除方法である。

前回【一神同体】を発動した時はお互いが離れ過ぎた事で強制解除されてしまった。
その結果、反動が一気にやって来た為、ノアは5日も寝込む事になってしまったのである。

本来は時間を掛けてジワリジワリと同化すれば負荷は少なくて済むのだそうだ。


~10分後~


スゥウウ…

「ふぅ…漸く終わった…」

「お疲れ様ですノア様。」
「お疲れー、ノア君。(棒)」

「2人もお疲れ様です。
戦いまでまだ時間はたっぷりありますので休憩しましょう。」


同化を終えたノアの下に手伝いを終えたヴァンディットとラインハードが戻ってきた。


タタタ…

「ノア殿、戦の準備着々と進んでおります。
まずは…」


直後、時雨もノアの下に各設備の進捗状況を報告しにやって来た。


「以上になります。」

「了解しました。
各々準備を整えたら休息を取って戦闘に備えて下さい。」

「は、はぁ…」


ノアからそう指示を受けた時雨だが、何やら思う所がある様子。


「…ノア殿…貴殿方には命を救われ、敵方主戦力を潰して貰った上にここまでの戦力を揃える事が出来ました…
元々は我々と時羽間での争いにも関わらず貴方は尽力して下さった。
ここから先、後は我わ「待った。」


恐らく「後は我々の方でケリを着ける」的な事を言う所だったのだろうが、ノアは直前で食い気味に言葉を被せてきた。


「確かに他国間の争いなので、本来であれば僕らが介入するべきでは無いのは確か。
ですが、僕らはダンジョン攻略の一環でこの地を訪れました。
この地での事も幾つかある試練の内の1つとして捉えていますので、しっかり介入させて貰いますよ。」

「…分かりました。」

「まぁもっともらしい事を言ってますが、自分はその辺の線引きが苦手なんです。
多少でも関わった以上、最後まで付き合わせて頂きますよ。」

「御心遣い、感謝します。」


屈託の無い顔で気恥ずかしそうに話すノアに、時雨は頭を深々と下げて感謝を述べた。


「…しかし、先程聞かせて頂いた総力戦の概要ですが、幾ら何でも無茶苦茶では御座いませんか…?」

「実を言うと僕の【適正】はかなり特殊なモノで、"ああいった戦術"を取らないと逆に弱体化してしまうんですよ。」

「ははぁ…"外の世界"には何とも奇天烈な枷がおありなのですな…」


と、時雨と話していると


「あ、あの、ノア君…
私達、総力戦の概要って聞かされて無いけど…?」

「そりゃそうですよ、総力戦にはこの国の方々と僕以外出さないつもりですので。」

「「「え?」」」


ハナ、ハウンド、アークの3人は、ノアの言葉に固まった。
まぁ何も知らせないのも宜しくないので概要だけでも説明し、納得して貰う事にしよう。



~概要説明中~


「「「…………っ…」」」

「という訳で皆さんはヴァンディットさん達と一緒に影の中に退避してて下さい。
万が一外に居ては命の保証はありませんし、人質に取られた場合見捨てなければなりませんしね。」


ハナ、ハウンド、アークの3人は、ノアから概要を説明され青ざめる。

ノアの言う総力戦の戦術というのは至極簡潔で、"兵達が放つ矢や銃弾の雨を掻い潜りつつ金成を討つ"と言うものである。

ノアの【適正】を鑑みれば"協力・連携"は取れないし、かといって相手は時羽軍総大将時羽金成である為、兵達の攻撃だけで仕留め切れるとは思えない。

金成に国を滅ぼされ掛け、復讐の機会を窺っていた兵達を差し置いてノアだけで戦いに赴き、討ち倒せたとして兵達は納得するだろうか。

となれば何をするかは簡単で、兵達が金成相手に矢や火縄 、大砲を撃ちまくり、ノアは先陣を切って金成に肉薄して戦う事であった。


「ば、馬鹿げてる…幾ら何でも無茶苦茶だ…」

「悪いけどこれはフリアダビアで【魔王】の手下相手にやった戦術だ。
まぁこんな戦術を使うのは僕位だろうけどね。」


聞かされた内容に否定的な意見のアーク。

だが"【魔王】"と言う単語を出したからか、ノアの説明を聞いていた周囲の足軽兵達からは「やはり【勇者】なのでは…」とか囁きあっていた。


「それに皆さん、火縄はおろか火薬すら知らない様子。
となれば総力戦では足手纏いとなりますので、申し訳無いのですが、この場は退いて下さい。」

「う…確かに私達獣人は種族柄、聴覚や嗅覚が発達している為か火薬の類は長らく使ってませんでしたね…(ハナ)」

「火薬の臭いで鼻が利き辛く、『ターン!』お、音が『ターン!』な、鳴る度に体が強張ってしまっては、確かに足手纏いにしかならないな…(ハウンド)」


遠くで射撃訓練をしている兵達の銃声が聞こえる度、耳をピンと立ててビクッと体を強張らせるハウンド。


「…だが【勇者】としては何もせずただ成り行きを見守るだけと言うのは「そう言う矜持を持つのは良い事ですが、アークさんは実戦経験に乏しい。
足手纏い筆頭なので、この場は退いてて下さい。」

「足手纏い筆頭…」ガクッ…


足手纏い筆頭と言われたアークはガックリと肩を落として跪いてしまった。
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