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獣人国編~【勇者】アーク・ダンジョン『時の迷宮』~

総力戦

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ザッザッザッ…

「ノ、ノア君お疲れ様…」

「えぇっと、"お疲れ様"かな?
お疲れ様です。」

「そ、その通りだ…
ノア殿…その…まだ目が黒く染まっているが、本当に目が見えていないのか?」

「…えーっと、ハウンドさん、もう少しゆっくり喋って貰って良いですか?
まだ音が聞こえないモノで…」


一行の元に戻ってきたノアは、未だ目が漆黒に染まり闇蜘蛛の仕掛けた五感封じの状態異常が解除されていない様子。


「それなのに何故あれだけ動けて…それ所か敵の1人を討ち倒すとは…」

「あ、ハナさん位の喋り方なら"口の動き"が分かるのでそれ位でお願いします。
まぁ感知系スキルを駆使すれば何ら問題ありませんよ。
さて、それよりもヴァンディットさん。
僕がさっき蹴散らした兵達の"時"は回収終わってますか?」

「はい、こちらに」ジャララ…


ノアが先程、暴坊将軍、地均明王、闇蜘蛛に圧倒されていた"フリ"をしてまで時間を稼いでいた理由がコレ。

足軽兵の大部隊を倒し、報酬としてあちこちに散らばっていた"時"を回収する前に3人がやって来てしまった為、回収を誰かにお願いする必要があった。

なので地面を転がるガラス玉に出来た僅かな影を通してヴァンディットに回収して貰っていたのだ。

ただ闇蜘蛛も影を使っていた為、ある程度隙を見せなければ油断しないと思い、わざわざ3人を煽り、3対1と言う構図にしたのであった。


「そんな中でアンタが敵を煽り出した時は冷や汗が出ましたよ。
思わずぶっ殺してしまおうかと思いましたよアハハ。」

「……。」ダラダラ…


文字面だけ見れば笑っているノアだが、目は一切笑っていない。
あともう少し煽っていれば言葉通りになっていたかも知れない、と滝汗を流すアークであった。






「さて、時雨殿。
敵はまだ暴坊将軍が残っていますが…まぁ任せていれば大丈夫でしょう。」

「は、はぁ…」


チラリと鬼神の方を見てみると、今正に暴坊将軍の腕を引き千切っている所であった。
普通なら戦意喪失モノの行為ではあるが、当の暴坊将軍は満面の笑みを浮かべていた。

どうやら本当に戦いを楽しんでいる様な感じであった。


老齢の男性(時雨)の後方では既に足軽兵30ユニットが出現しており、周囲を警戒したり、時雨の護衛にあたっている。

兵達は、ノアが近付いて来るなり後退りし、道を空ける。
だが、恐れと言うよりも尊敬の目を向けてきていて何だかむず痒い。


「という訳でこれらの"時"を使って街を復興させていって下さい。
ラインハードさん、時雨殿の補佐にまわって頂けますか?」

「了解(棒)。」

「良いのですか?これ程の"時"を見返りも無しに…」


彼等にとって"時"は命に相当する為、相当量の"時"を無償で受け取る事に躊躇いの色を隠せない様子。

なので


「そうですね…
それでは、全て終わった時に何かしら腹拵えさせて頂ければそれで良いです。」

「むははははっ!
畏まりました、それならば腹を突き破る程の馳走をせねばなりませぬな。
その為にも早急に、より大きく復興させなければ、ですな。
ラインハード嬢、助言の程宜しくお願い致す。」

「了解(棒)。」


ノアの意図を察してくれた時雨は、ヴァンディットから大量の"時"を受け取った後、ラインハードを連れ立って復興へ向けて駆けて行った。





「なぁ…アレは一体何なんだ?」


ノアの元に歩み寄ってきたアークが開口一番に鬼神を指差して質問を投げ掛けてきた。


「何って、僕の【固有スキル】ですよ。
力の源、戦闘力の根源と言った所です。」

「え?…で、でもさっき闇蜘蛛を屠ってたじゃないか。」

「暴坊将軍や地均明王は兎も角、"あの程度"の相手であれば差程戦闘力は必要ありませんよ。」

「え、えぇ…」


と、アークとノアが他愛の無い(?)話をしていると足軽兵の一団が2人の下に。


「あ、あの、もしやと思いお聞きしますが、あなた様は"外の世界"で言う【勇者】と呼ばれる方々では御座いませんか?」

「え?…えぇ、そうですが…」


と、アークは自身の事を言われていると思い返答したが


「ん?あなたは従者の方ですよね?」
「え?(アーク)」

「先程の戦い振り、お見事に御座いました!」
「3人を相手取り防戦一方にならず善戦するとは、【勇者】以外有り得ません!」
「と、とても格好良かったです!握手して下さい!」
「凄まじき剣気、只者では無いと思っておりました!」

「えぇ…(ノア)」


どうやらノアの方が【勇者】と思われている様で、足軽兵達から尊敬と憧憬が混ざった羨望の眼差しを受けていた。

だがノアは困りながらも一団に向けてピッと指を立て


「僕が【勇者】かどうかはご想像にお任せします。
ですがまだ戦の最中、油断は禁物ですよ。」


そう言って踵を返してその場を離れていった。

その後ろ姿を見た足軽兵達は「やっぱ本物は違う」だの「浮かれ過ぎてたな…」等と口々に言っていた。

ノアとしてはどう反応して良いか分からず適当に、言い放ってその場を後にする口実に過ぎなかった。

だがその後ろでは呆然と立ち尽くすアークがガックリと肩を落としていたという。







ザキッ![は…っぁ…はーっ…はーっ…!]

ジャリ…『両足を潰され、左腕を千切られても尚戦いに身を投じるとは見事なモノよ。』

[は…はぁ…我は戦場以外を知らん故飽いても飽いても戦の事ばかりの愚か者よ!]


既に死に体の暴坊将軍ではあるが、鬼神を見やる双眸の光は失せていない。


『確かに愚か者だな。
だが、見事な愚か振りだな。』

[っ…!
お主の様な者と最期に戦えて光栄じゃった!]

『言い残す事は?』

[無い!]


シュパァンッ!

『主君への言葉すらないとはな…
本当にお前さんは愚か者だよ。』


暴坊将軍の言葉を受けた鬼神は、肩の先が掻き消えて見える程の速度で手刀を放ち、首を撥ね飛ばした。


"暴坊将軍を討伐、報酬として"200分"を獲得しました。〟


暴坊将軍を完全に討ち倒した証拠であるアナウンスが流れた所で


「奴は根っからの戦馬鹿だ、辞世の言葉なぞ似合わんわ。」


暴坊将軍同様武者鎧を纏った人影がゆっくりと上空から降下してきた。
但しその武者鎧は金ぴかで、豪奢極まりない物であった。


「き、貴様は時羽金成っ!
よくもこの国の者達を皆殺しにしてくれたなぁっ!」


時雨が降下してきた金成に怒号を浴びせかける。


『どうやらお前さんが一連の親玉である時羽金成か。お前さんを倒せば全て終わるのだな?』

「まぁ待て"外なる者"よ。
ふふ、数刻前まで滅び掛かっていた国がようもここまで甦ったものよ。
お陰で主らから奪った"時"も我が兵も底を尽き、残るは私のみ…
時に時雨とやら、主らの"時"は如何程保有しておる?」

「…たった今そちらの御方が倒して頂いた暴坊将軍の"時"で約720分と言った所じゃ。」

「ふむ、つまり"外なる者達"は12時間後にはまた別の場所に向かわれるという事だな…
ではそこな"外なる者"よ。」

『あん?』

「11時間後だ。
11時間後に総力戦を仕掛けよう。
それまで力を蓄え、そちらも総力を上げて我を滅ぼしてみよ!」


時羽金成は、眼下に居る鬼神含め周囲に存在する全ての者に対して言い放った。
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