彼方の大地で綴る【四章まで完結済み】

しいたけ農場

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第三章 名無しのエトランゼ

3‐13

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 ネフシルの街での虐殺と略奪を終えたカーステン率いるヘルフリート軍先鋒は、そこを拠点として各方面へと戦力を伸ばしていた。

 それに対して予めヨハンの指示を受けてた街は城壁を盾に防衛線を展開。厳しい状況ながらもなんとか街へと敵軍を入れさせることなく二日の時を稼いだ。

 そこにはカーステンが無用な虐殺により、余計な時間を食ったからという理由もある。

 そして今、ヨハンとクルト・バーナー率いる本隊は、カーステンの軍に包囲されているエルプスの傍へと進軍していた。


「街は完全に包囲されているな。数は千ほどか」


 クルトが冷静に状況を分析する。


「こちらの兵力は五百。敵に聖別騎士がいることを考えれば、正面突破は無謀だぞ。――それとも」


 クルトの視線が、二人の背後。草原に展開した五百の兵達に向けられる。

 剣や槍を構え、鎧で武装した兵達の外にこれまでの戦いでは見ることのなかった兵士達が交じっている。

 一つは銃兵。ヨハン達の世界で言うところのマスケット銃のような形の銃を携えた者達だった。

 この世界にも火薬はあり、銃を開発するだけの技術はある。しかし、ことオルタリアにおいては魔法の方が重要視され、それを実戦投入するのは酔狂なことと言われていた。これには火薬の材料となる硝石が満足な数採掘されていないという理由もある。

 今回ヨハンが用意したのはただの銃ではない。ヨハンが普段使っている物を簡易設計し量産化した、魔導銃とでも呼ぶべき代物だ。

 そしてもう一つ。布を被った荷車によって輸送されている兵器。その数は凡そ三十ほどで、一つの荷車に兵士が三名付いている。


「これらの新兵器に、それを覆すほどの力があるというのか?」

「その通りです。テッド」

「ヘーイ!」


 名前を呼ばれたエトランゼの軍人が、陽気な様子が歩みでる。


「銃砲隊の指揮はテッドに。それから全軍は貴方に預けます。新しい兵科も多く戸惑うこともあるでしょうが」

「要らぬ心配だ。打ち合わせは何度もしているし、俺とて戦場の心得はある」

「判りました。俺はことが始まったらエトランゼの遊撃隊と合流します。前線はお任せします」

「判った。いつ始める?」

「いつでも、覚悟ができたときに」

「ふむ。……ならば、今だな」

「オゥ! ボスはせっかちデスネー! でもテッドはそういうの嫌いじゃないですヨー!」


 クルトが指示を飛ばす。

 馬に乗った騎馬隊が最前線に構え、その後ろを厚い鎧を着込んだ重装兵、そして軽装歩兵と弓兵と続く。

 荷台の布が取り払われ、そこからそれは姿を現した。

 筒のようなものが一つと、長方形の箱が一つ。そして束ねられた金属の杭が置いてある。

 その金属の杭には回路のような光が奔っており、それが魔法による何らかの制御を受けていることが見て取れた。


「魔導銃隊は武器を構え! 敵が近付いて来たらいつでも斉射できるようにしておいてネー!」

「各兵! 魔導銃の発射が終わるまで進軍は控えろ!」

「ステーク隊! 新兵器の力、見せてあげてくだサーイ! 虐殺なんてナンセンスなことをやる連中はぶち殺してオッケーデース!」


 三人の兵がそれぞれ、大急ぎでそれを組み上げる。

 機関部とバレルを繋ぎ、回路を通して起動。

 そこに後ろ側の装填部から、二人係で巨大な金属の杭を装填。

 動きがあることに気が付いたヘルフリート軍が、包囲していた兵の一部を切り離すように、こちらに向けて進軍を開始する。

 先鋒は騎馬隊。正規軍の他に、エイスナハル教徒達を加えた彼等は一直線に草原を蹴ってこちらの陣を一蹴すべく接近してくる。

 一人が遠眼鏡を用いて敵の位置を把握。


「敵軍直線、騎馬隊! 西方に魔法兵多数!」

「一から十は騎馬隊に打ち込みマース! 十から二十は魔法兵を狙ってくだサーイ! 後は待機で」


 二人掛かりで砲を持ち上げ、銃身を固定。三人目が敵の位置を正確に伝えて、その方向へと砲身が向かう。


「ファイア!」


 引き金を引くと、機関部に施された術式に、横付けされたコンデンサーから魔力が供給。全体に魔力が行き渡る。

 発動するのは雷の魔法。電気エネルギーを両側から流し込まれた弾丸は圧倒的な加速力を持って敵陣へと直進する。

 放たれたのは人の背丈ほどの大きさのある、巨大な金属の杭。

 魔法銃に込められた風の魔法では到底飛ばすことのできない金属の塊は、電気の力によって発射され、騎馬兵の一人の胸を貫き少しも威力を衰えさせないままにその後ろの地面に突き刺さった。

 十発の弾丸は中には敵に当たらないものもあるが、それで問題はない。

 先頭を走る騎馬隊の隊長は、その威力の神髄を知ることはない。彼には当たらず、弾丸は背後へと突き刺さったのだから。

 最早引けず、そのまま彼等が直進を選択したところで、その変化は起こった。

 幾人かの兵士を巻き込んで地面に突き立てられた杭に、魔力の伝達を示す回路が光を帯びる。

 そしてパキパキと何かが割れるような音と共に、そこに込められた魔法が発動した。

 着弾位置を中心として、青白く透き通る何かが広がっていく。

 それは氷だった。地面が、傍にいた兵士が、軍馬の足が瞬く間に凍り付き、地面に縫い止められていく。

 氷の広がりはそれだけに留まらず、先端が鋭い刃のように尖り、勇んだ者は自らそれに突っ込み、無残な最期を遂げる。

 魔法兵の陣に撃ち込まれた杭はそれとは異なり、雷の魔法が込められていた。

 空気中を弾け、地面を奔る紫電に身体を討たれ、魔法兵達は次々と地面に倒れ伏していく。

 そしてそれを抜けた騎兵隊を狙うのは、火薬の代わりに風の魔法で鉛の弾丸を加速させて放つ魔法銃だ。

 一発一発の威力は当然、砲には劣るが、約百丁から繰り出される弾幕は僅かに残った敵の先遣隊を蹴散らすには充分過ぎる威力を持っている。


「今デース! ボス!」

「うむ。こちらも兵を動かす! テッド、支援射撃のタイミングはこちらの動きに合わせろ!」

「ラジャー!」


 軽薄な返事と、それとは裏腹に背筋の伸びきった敬礼を見てから、クルトは兵隊の先頭に立ち歩を進めていく。

 相手は半ば壊滅した敵の先陣。

 敗北の危険性はまだ去ったわけではない。ここまでやっても兵力は相手の方が勝っている。

 油断は禁物と己を戒めながらも、同時にクルトは自分の背後にある兵器達に戦慄していた。

 エトランゼは戦いを変える。それはギフトだけに限った話ではない。

 果たして彼等が弾圧を差別の波を抜け出して自由になったとしたら、どれほどこの世界が変わってしまうのだろうか。
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