眠りに落ちると、俺にキスをする男がいる

ぽぽ

文字の大きさ
上 下
10 / 14

【番外編】2

しおりを挟む
「ごめんね。僕のせいで。猫宮くんはパンを悩んでいただけなのに」
「ああ全然、大丈夫だよ。こっちこそムキになって断ってたから……」
「じゃあお詫びとして僕に何か頼ってくれないかな?犬山くんにはいつも頼ってるのに、僕じゃ駄目?」
 
 夜鳥は常に低姿勢で本当に優しい心を持つ男だ、と感心していたが、まさかの交換条件を出されてしまった。結構コイツも諦めが悪いな。
 夜鳥に頼む事なんてない……いや、思い出せば元はと言えばこうなったのは熊野の合コン作戦が原因だ。夜鳥はこの通りモテ男だし合コンに参加する女の子も集めてくれそうだ。
 よし、図々しいが夜鳥も望んでいる事だし、頼んでみよう。
 
「じゃあ、合コンってセッティング出来る?」
「……合コン?」
 
 頷くと夜鳥まで体が固まった。そして、恐る恐るというように聞いてきた。
 
「それって他の子が?それとも猫宮くんが合コンに?」
「うん。可愛い女の子と合コンしたいんだ」
 
 すると、夜鳥は今までに見た事がない程目を見張った。もはや眼球が飛び出ている。
 つい図太く可愛い女の子と、なんて言ったから癪に障ったか?確かに夜鳥から見ればお前みたいなもやしが何を言って、と怒りたくなって当然だ。
 
「ご、ごめんな!図々しくて嫌だったよな?」
「…………」
「や、夜鳥?」
 
 名前を呼びかけても掌を夜鳥の目の前で振っても反応が無い。さっきの犬山のと同じように硬直してしまった。
 ど、どうしよう。今度は夜鳥の地雷まで踏んでしまったようだ。可愛い女の子の話はNGだったのか。
 
 ていうか、これどうしたら戻るんだ?
 犬山も置いてきたままだ。さっきから人を振り回しておいて放置するのは良くないよな。でも、犬山の様子も見ないといけないし夜鳥とずっといる場合じゃ無い。
 一人で悩んでいる時、助けになる男が現れた。
 
「何をしているんだ?」
「熊野!良い所に!ちょっと夜鳥を寮まで運んでくれない?」
「そこに置いておけば良いだろう」
「いや、固まったのは俺にも責任があるというか」
 
 相変わらず他人には塩対応な熊野。一応夜鳥もお前の同室相手だぞ。
 
 だが、正直なところ、俺は割と同室の相手とはそこそこ良い関係を築いていると思っているけど(最近は熊野との関係が変わってきているが)他の三人の仲は余り良いとは言えない。熊野は性格的にまあ察せるが、犬山と夜鳥も余り話さない。普通に二人とも笑顔で話しているが寮以外で会っている様子は見掛けた事が無いのだ。以前、犬山にも「寮の皆と出掛けてみようよ」と提案してみたが微妙な顔をしていた。
 
 実は俺達、不仲寮かも……?
 
 犬山や夜鳥、熊野が普通に良い奴だということも三人は気付いてない。もしかしたら、熊野のこの恋心は今まで友達が居なかったから友情を勘違いしている説も有り得る。いつか、皆が仲良くなって遊びに行ったり出来たら良いんだけど。
 
「猫宮、責任とは?」
 
 熊野が俺の顔を疑問の目で覗く。
 うっかり脳内で脱線してしまったが、今は熊野の合コンが課題だった。あと同時に犬山と夜鳥の気を取り戻す事。
 
「合コンのセッティングを聞いたらこんな事になっちゃったんだよ」
「合コン?それは何だ?」

 きょとんと首を傾げる熊野。
 まさか合コンの意味も知らないなんて。コイツの中学時代の話の信憑性が更に増した。
 そして俺は合コンについて簡単に説明すると、熊野は納得した様子で再びきょとんとした顔で問う。

「合コンについては理解したが何故そこに猫宮が行きたいんだ」
「その、可愛い彼女が欲しいから」
「成程……俺じゃ代わりにならないのか?」
 
 無理に決まってるだろうが!
 熊野の見た目はお世辞でも可愛いとは言えない。確かに美形だが熊野は夜鳥とは違い線の細い王子様系のイケメンではなく逞しい男前な美形だ。可愛いには程遠い容姿である。彼の女装姿を想像すると、思わず鳥肌が立ってしまうほどだ。
 
「ごめん、それはマジでちょっと厳しいと思う。てかさ、熊野もかわいい女の子に出会いたいと思わない?」
「思わない」
「何で?もっと世界が広がるかもしれないよ?」
「俺の世界の中心は常に猫宮だ」
 
 うわまたナチュラルに口説いてくる!
 その後も熊野は動揺する俺を気にせず真っ直ぐ顔を見詰め懇願してきた。
 
「頼む。合コンには行かないでくれ。俺には猫宮だけなんだ」
「いや、熊野にはもっとお似合いの相手がいるだろうし、俺なんかよりもずっと良い子がいると思うし……」
「そんな事ない。例えどんなに良い女がいたとしても、あの日体調が悪い俺を心配してくれたのもいつも可愛らしく笑うのも猫宮だけだ。だから頼む。合コンは行かないでくれ。猫宮に他の女が出来たら俺は……」
「あーあーあー!!分かった!分かりました!分かったからちょっと落ち着いて!」
 
 突然語り出した熊野の声を俺の大声で遮る。すると、俺の声を聞いた熊野は肩の荷が降りたかのように吊り上げていた眉も元に戻った。
 コイツ、せめて寮の部屋の中ならまだしも、誰が見ているか分からないような廊下で急に熱くなるなよ。誰かに見られたらどうするんだ。もしバレたら熊野は今後B専ホモっていじられる事になるんだぞ。
 そして俺は警戒しながらも彼に頼んだ。

「と、兎に角、夜鳥を部屋に連れて行ってくれないか?」
「……気が乗らないが猫宮の頼みなら引き受けよう」

 そして熊野は軽々と夜鳥を持ち上げた。
 細身とはいえかなりの長身だがそんな夜鳥をここまで簡単に抱えることが出来るとは、流石だ。
 純粋に尊敬した俺は思わず嬉々として熊野に礼を告げた。

「すげー!助かった。ありがと!」
「……猫宮が喜んでくれて何よりだ。それよりもキスしていいか」
「何でだよ!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜 ・話の流れが遅い

過保護な不良に狙われた俺

ぽぽ
BL
強面不良×平凡 異能力者が集まる学園に通う平凡な俺が何故か校内一悪評高い獄堂啓吾に呼び出され「付き合え」と壁ドンされた。 頼む、俺に拒否権を下さい!! ━━━━━━━━━━━━━━━ 王道学園に近い世界観です。

変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話

ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。 βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。 そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。 イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。 3部構成のうち、1部まで公開予定です。 イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。 最新はTwitterに掲載しています。

王道学園なのに会長だけなんか違くない?

ばなな
BL
※更新遅め この学園。柵野下学園の生徒会はよくある王道的なも のだった。 …だが会長は違ったーー この作品は王道の俺様会長では無い面倒くさがりな主人公とその周りの話です。 ちなみに会長総受け…になる予定?です。

不良高校に転校したら溺愛されて思ってたのと違う

らる
BL
幸せな家庭ですくすくと育ち普通の高校に通い楽しく毎日を過ごしている七瀬透。 唯一普通じゃない所は人たらしなふわふわ天然男子である。 そんな透は本で見た不良に憧れ、勢いで日本一と言われる不良学園に転校。 いったいどうなる!? [強くて怖い生徒会長]×[天然ふわふわボーイ]固定です。 ※更新頻度遅め。一日一話を目標にしてます。 ※誤字脱字は見つけ次第時間のある時修正します。それまではご了承ください。

お迎えから世界は変わった

不知火
BL
「お迎えに上がりました」 その一言から180度変わった僕の世界。 こんなに幸せでいいのだろうか ※誤字脱字等あると思いますがその時は指摘をお願い致します🙇‍♂️ タグでこれぴったりだよ!ってのがあったら教えて頂きたいです!

俺が総受けって何かの間違いですよね?

彩ノ華
BL
生まれた時から体が弱く病院生活を送っていた俺。 17歳で死んだ俺だが女神様のおかげで男同志が恋愛をするのが普通だという世界に転生した。 ここで俺は青春と愛情を感じてみたい! ひっそりと平和な日常を送ります。 待って!俺ってモブだよね…?? 女神様が言ってた話では… このゲームってヒロインが総受けにされるんでしょっ!? 俺ヒロインじゃないから!ヒロインあっちだよ!俺モブだから…!! 平和に日常を過ごさせて〜〜〜!!!(泣) 女神様…俺が総受けって何かの間違いですよね? モブ(無自覚ヒロイン)がみんなから総愛されるお話です。

主人公は俺狙い?!

suzu
BL
生まれた時から前世の記憶が朧げにある公爵令息、アイオライト=オブシディアン。 容姿は美麗、頭脳も完璧、気遣いもできる、ただ人への態度が冷たい冷血なイメージだったため彼は「細雪な貴公子」そう呼ばれた。氷のように硬いイメージはないが水のように優しいイメージもない。 だが、アイオライトはそんなイメージとは反対に単純で鈍かったり焦ってきつい言葉を言ってしまう。 朧げであるがために時間が経つと記憶はほとんど無くなっていた。 15歳になると学園に通うのがこの世界の義務。 学園で「インカローズ」を見た時、主人公(?!)と直感で感じた。 彼は、白銀の髪に淡いピンク色の瞳を持つ愛らしい容姿をしており、BLゲームとかの主人公みたいだと、そう考える他なかった。 そして自分も攻略対象や悪役なのではないかと考えた。地位も高いし、色々凄いところがあるし、見た目も黒髪と青紫の瞳を持っていて整っているし、 面倒事、それもBL(多分)とか無理!! そう考え近づかないようにしていた。 そんなアイオライトだったがインカローズや絶対攻略対象だろっ、という人と嫌でも鉢合わせしてしまう。 ハプニングだらけの学園生活! BL作品中の可愛い主人公×ハチャメチャ悪役令息 ※文章うるさいです ※背後注意

処理中です...