眠りに落ちると、俺にキスをする男がいる

ぽぽ

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【番外編】1

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特に続きを考えてない番外編ですが、読んでいただけると嬉しいです!
━━━━━━━━━━━━━━━



 お久しぶりです。猫宮です。
 と言っても俺のような平凡な男を覚えている人は居ないだろう。
 黒髪に平たい顔、ヒョロい体。正にどこにでもいそうで記憶に残らない平凡だが、そんな俺はある日とてつもない美形に告白をされた。
 これだけ言えばラノベの話?と思われるかもしれないが、相手は美形といっても男だ。そう。俺よりも一回り大きい野郎だ。それが例えどんなに美形であっても男だ。
 好かれても別に……と思っていたが、現在真面目に困っている。
 
「今日も可愛いな。好きだ」
 
 幸せそうに笑みを浮かべて俺の髪を撫でる色男、熊野。
 寝起き一番に言う言葉がこれだ。因みにこれが毎日続いている。最初は赤くなったり無駄にあたふたしていたが、今は慣れてしまいもはや無表情で聞き流している。

 毎日毎日平凡な野郎に甘い言葉を囁いて、飽きないのか。言われる側の俺でさえ相手はイケメンなのにもう飽き飽きしているのに。
 ていうか、可愛いとか俺のどこが?俺が可愛かったら橋本○奈とか見たら余りの美しさに倒れてしまいそうだ。いや、もしかしてB専とか?

「熊野ってさ、今までどんな子と付き合ってきたんだ?」
「付き合ったことが無い」
「いやいや、隠さなくていいって。一人くらいいただろ?」
「いや、いない」
 
 最初は冗談だと思っていたが、平然と答える熊野に徐々に異変を覚える。元々熊野は冗談や嘘を言う性格でもない。
 つまり、これは事実。
 
「えええ、ほんとに?こんな顔良いのに!?性格も普通に良いのに!?絶対女の子にモテるじゃん!何で?熊野の中学の女の子見る目無くね!?」
 
 目を丸くして愕然とする俺に対して、熊野は些か呆気に取られたように目を開いたが頬を弛めた。表情は固く見えるが顔に嬉しさを隠しきれていない。
 
 何故そんな顔をしているのか。もしかして、俺を揶揄うための嘘だった?いや、熊野はそんな男じゃないはずだ。モテない男を鼻で笑うようなタイプではないと信じたい。
 不安になり彼を見詰め続けていると、彼は感極まったように呟いた。
 
「そんな風に俺を思ってくれたのか……」
 
 それを聞き不安が一瞬で消えた。
 なんだ、単純に喜んでいるだけか。コイツ本当に俺に惚れ込んでるな。
 それよりも、その情報が事実かどうなのか聞かなければ。
 
「そ、それで、結局の所本当にそうなの?」
「ああ。俺の出身校は今と同じ男子校だからな。体育会系だったから鍛えた男が多かった」
「なるほど!そういう事か」
 
 漸く熊野に彼女が居なかった要因を知れてスッキリした。
 もし俺と中学が一緒だったらクラス中の女子、否もしや学校中の女の子にモテそうなのに。学園のマドンナ的存在だった東里さんからも好かれたかもしれない。ああ、なんて哀れな奴なんだ。可愛い女の子に出会ったことが無いから俺みたいな男を可愛いと錯覚を起こしているのか。哀れで泣けてくるぜ。

 いや、待て。もしかしたら俺以外の可愛い女の子を見たら正気に戻るのでは?
 名案だ!よし、そうと決まれば熊野に可愛い女の子を紹介しよう!可愛い彼女を作るのは妬ましいが、このままでは熊野が可哀想だからな。
 
 

 
 
 
「あのさ、犬山って合コンとか行く?」
「え?行くわけねーよ」
 
 購買で売られている焼きそばパンを食べながら犬山は呆れたように放った。 
 犬山は趣味嗜好が幅広く友人も多いから合コンとか行きそうだと思ったが、行かないと即答されてしまった。もし合コンを開催する予定ならば俺と熊野も混ぜて欲しかった所だが、無かったら仕方ない。
 
「そうなんだ。じゃあさ、もしそういう話あったら教えてくれない?」
「ん?え?ね、猫宮、合コン行きたいってこと?」
 
 俺は別に行きたくないが、熊野もまだ行きたいという訳では無い。
 俺の作戦では、人が足りないから一緒に来てくれない?と熊野を誘い可愛い女の子と会わせることだ。そして熊野は女の子に惚れて俺の事は無かった事にするという熊野も俺もハッピーになれる作戦である。今の熊野は俺にベタ惚れだし俺がお願いしたら多分何でも聞くだろう。何だかイケメンを弄ぶ美女になった気分だ。気分だけだが。
 
 まあ、取り敢えず俺が行きたいという体で犬山には言えばいいかな。こくりと頷くと、犬山は持っていたパンを落とした。
 うわっ、教室の床とか絶対汚いじゃん。もう食べられない可哀想なパンを拾ってやると、口を開けたまま硬直する犬山の姿が目に入った。その顔を見て思わず後退る。まるでこの世の終わりみたいな顔をしているからだ。
 な、何故そんなに絶望しているんだ。そんなに焼きそばパンが食べたかったのか?これ100円くらいで売ってなかったっけ?
 
「パ、パン位また買ってやるから落ち込むなよ。な?」
「…………」
 
 俺は犬山を置いて食堂へ走った。
 やばい。あんなにいつも煩い犬山がここまで衝撃を受け落ち込むなんて滅多に無い。焼きそばパンが無くなる前に早く買ってやらないと犬山の顔があのままだ。
 
 
 
 
 
 
 
「えっ、無い!?無いんですか!?」
「ごめんねぇ。売り切れちゃったのよ」
「そんなぁ……」
 
 無惨にも焼きそばパンは無くなってしまった。困った。他の惣菜パンでも元気を取り戻してくれるかな?
 数少ないパンを前に悩んでいると、後ろから聴き馴染みのある声を掛けられた。
 
「猫宮くん?どうしたの?」
「あっ、夜鳥……」
 
 爽やか眼鏡王子、夜鳥のお出ましだ。彼の登場により購買のおばちゃんも頬を赤らめ乙女に戻ったような表情に変わる。
 
 夜鳥とは以前の件もあり少し気まずい。以前というのは、あのキス事件の事である。俺はてっきり夜鳥が犯人なのかと最後の最後まで疑っていたが、まさかの他の男だった。
 今まで夜鳥を偏見で見ていた為、罪悪感で申し訳なくなる。本当にすみません。よくよく考えれば夜鳥の相手は男でももっと可愛い子や美人な子を選びますよね。本当に自意識過剰ですみませんでした。
 
「財布を忘れたの?僕が貸してあげようか」
「いやいやっ、お金はあるんだけど、焼きそばパンが無くて……」
「焼きそばパンが好きだったんだ。そっか、残念だったね。僕が他の子に交換して貰えないか聞いてこようか」
「そんな!申し訳ないから!夜鳥には普段から迷惑ばっか掛けてるしこれ以上巻き込みたくないんだよ」
 
 僕は頼ってくれた方が嬉しいんだけど、と夜鳥は優しい笑みを浮かべて言ってくれるがこれ以上甘えたら駄目だ。あんな事を思っていた俺には図々しく頼る資格がない。
 
 頑なに断るが、夜鳥も中々諦めが悪く代わりのパンを買おうと財布を出してくる。いや、別に俺は腹空いてないしジャムパンとか勧めてこなくて良いんだって。
 お互い譲らないでいると、コホンとおばちゃんがわざとらしく咳き込む。それにピクリと二人揃って反応し彼女の方へ目を向けるとおばちゃんは放った。
 
「冷やかしなら他の所へ行って頂戴」

 そして、俺達はその場を離れて他の場所へ移動した。
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