勇者様、推しです!〜溺愛されるのは解釈違いです〜

ぽぽ

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10.勇者様、豆粒

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 何故気づかなかったのだろう。普段なら忘れられないような恰好の男だが、隣にあのジェイミー様が居たから意識がそっちに取られていた。

「チビのくせに出てきて、勇敢なのはいいが本でって無謀にも程があんだろ!ハハッ、いやぁまた会えるとはな」
 
 頭をぐしゃぐしゃ撫でられる。撫でるというか、わざと髪がボサボサになる為に搔いているように感じる。俺の気の所為だろうけど。
 大きな身長差で俺の目の前には逞しい大胸筋が広がっている。俺も鍛えた方が良いかな。いつかジェイミー様が危険な目に遭った時の為に。
 
「あの、貴方のお名前は何ですか」
「え、知らねえの!?俺魔王討伐に行った一員なのに」

 ええそうなの!?
 互いに目を丸くして驚いている。
 王都で行われた式も雑誌のインタビュー記事も魔王討伐メンバー全員が出ていたがジェイミー様しか見てなくて全く気付かなかった。

 魔王討伐に行った四人の中の一人という事は国の英雄だ。そしてジェイミー様の大切な仲間。会話をするだけなのに急に緊張してきた。
 そして震える拳を握りしめ頭を下げた。
 
「も、申し訳ございません!気付かなくて……」
「別にそんな謝んなくてもいいから!頭上げろって!じゃ、気を取り直して俺の名前はアレン。第三騎士団の団長やってる。お前は?」
「ミルです。本屋の店員をしてます」
「あー、だからあの分厚い本でやったのか」
 
 もうその話は忘れて欲しい。

 さて、その話は置いて本題は「筋肉」

 最近、神が俺に授けた祝福か魔法か平凡な俺はジェイミー様と顔を合わせるようになった。しかし、俺とジェイミー様は余りにも不釣り合い。何故目の前の彼は神聖な麗しきジェイミー様と一緒に居ても釣り合うように見えるのか。地位?名誉?いいや違う。筋肉だ。ジェイミー様はお家柄や地位に余り興味は無いからな。つまり俺に足りないものは筋肉。鍛えたら俺もジェイミー様を守れるし頼りにされるかもしれない。
 
「あの、どうやって鍛えられたんですか?」
「ん?なんだ?俺の自慢の筋肉に惚れたか?」
 
 目を細め口の右端を上げるアレン様。
 確かに彼の筋肉は何度見ても凄い。これは並の努力で作られたものでは無いと分かる。
 こくこく頷くと彼は大きく笑った。
 
「お前も筋肉の素晴らしさがわかるのか!ヒョロいチビだと思ってたが意外だな」

 ヒョロいチビは余計だ。
 
「俺もマッチョになりたいです。どうしたらなれますかね?」
「じゃあ俺が稽古つけてやろうか?」
「いいんですか!?」
「ああ。ビシバシ鍛えてやるぜ」
 
 そこまでスパルタはお断りだが、理想の筋肉を持つ彼に指導して貰えれば俺も同じようになれるかもしれない。
 お願いします、と口を開いた瞬間、何かが俺とアレン様の間を切るように落下した。驚愕して床に突き刺さるその何かの正体、銀色の刃が輝く剣に呆気に取られていると、短い赤髪がひらりひらり落ちてきた。
 
「アレン。お前の部下がお前を呼んでる。早く行った方が良い」
「は?つかこの剣どっから……」
「団長ー!!すみません!剣そっちに行きましたか?」
 
 汗を流しながら肩で息をする騎士の男。ミルと近い背丈だが彼の引き締まった体と自分のだらしない体は似ても似つかない。だが、目の前の男がこれだけ遠い先に剣を落とすなんて一体どうやって。剣について全く無知な自分には不思議な話だ。

 それにしても、少し落下位置がズレていたらアレン様は大怪我を負うところだっただろう。想像して肌が粟立つ。その恐怖は俺よりもアレン様の方が大きいだろう。健康的な小麦色に焦げた彼の顔は些か青くなったように見える。
 
「っぶねぇな。つか本当にお前がここまで飛ばしたのか?」
「それが何故か急に弾かれた剣の軌道が変わって遠くまで飛んでしまって……」
「んな事起こるかー?」
「お前に早く来て欲しいという思いが剣になって表れたのかもしれないな」

 ジェイミー様の可愛らしい冗談にアレン様はどーだかな、と低く呟いた。そして俺達に軽く頭を下げて踵を返した。
 再びジェイミー様と二人っきりになり場が急に静まる。未だ剣が降ってきた衝撃が抜けず唖然としているとジェイミー様が俺の肩を掴み顔を覗いた。
 
「怪我は無いか?」
 
 うっわ顔近っ
 顔が小さ過ぎて豆粒みたいだ。透き通ったガラス玉みたいな瞳に吸い込まれそう。その瞳に映るものが俺っていうのが残念だが。
 
「だ、大丈夫です!」
「そうか」

 ジェイミー様は囁くような声で呟き、足を進ませた。俺も急いで彼の後を追ったが心の中で気掛かりがあった。
 ジェイミー様、いつもと比べて少し眉が下がっていたな。それに憂いを帯びた目をしていたし何かあったのかもしれない。

 結局不甲斐ない俺は、一寸も隙を与えないように早歩きで進んでいくジェイミー様を追い掛けるのに必死で何も聞く事が出来なかった。
 
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