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第四章 【ソイランド】
4-78 指令本部での攻防7
しおりを挟む「殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ!こいつらを生きてここから出すんじゃねぇぞ!!」
怒り狂ったクリミオの声に、床に横になっていた者も急いで身体を起こして近くの武器を手に取る。
足を氷漬けにされた男は邪魔になるからと、無惨な姿でここから引き離される。
グラムともう一人の付き添いのアルベルトは、エレーナの側に身を寄せる。
「大丈夫……だな」
アルベルトは背中越しのエレーナの心配をするが、先程までの様子を見る限り、疲労や外傷などは皆無だとわかっていた。
「もちろんよ、あんなの今までから比べたらなんてことないわ。それで……どうしたらいいのかしら、これ?」
「そうだな、少し大人しくさせた方が素直に話してくれるかもな。グラムさん、いいですね?」
「はい、出来れば息の根を止めない程度に痛めつけて頂けるのが理想ですが……大丈夫でしょうか?」
その言葉に二人は、まるで問題が無いと頷いて見せる。
「有難うございます……では私はクリミオを取り押さえます。それで、情けない話ですが……」
アルベルトはグラムの言葉を止め、その話しを引き継いだ。
「……グラムさん、我々はこの者たちの相手で手一杯になるでしょう。ですから、クリミオという男の捕獲をお願いできますか?」
きっとグラムは、戦闘力では自分では足手まといであると感じているのだと判断し、アルベルトはこの場でグラムにしかできないことをお願いした。
「エレン……グラムさんの希望通り……できるな?」
「任せて!……それじゃ合図はアル、あなたがお願いね」
グラムは口にこそ出さなかったが、二人の心遣いに心の中で感謝の言葉を繰り返す。
この動乱が収まった後、誰かがソイランドの町を仕切らなければならない。
その時に、ある程度の強さを持つ者でなければこの地を治めることは許されないだろう。
だからこそ、ここでその力を見せておく必要があるとステイビルは言っていた。
本来ならば”一騎打ち”によってその決着をつけることが望ましかったが、それは叶うことができなかった。
それはここに来る時から考えられていたことなので問題はない。
実際にグラムが、どこかでその力を見せつけることができるかが問題だった。
この状況が最後のチャンスと思われ、アルベルトもエレーナもその状況をなんとか作り出したいと願っていた。
「それでは……行くぞ!」
「「――ぶぅわっ!!!」」
アルベルトの合図を掛けると、エレーナはクリミオを後ろに隠す人の列に向かい多量の水を放出する。
数人の男たちは、今まで経験したことのない水の圧力によって後ろに吹き飛ばされていく。
その様子を見ていた他の男たちは、呆けて今起きた出来事を理解するまでに時間が掛かっていた。
アルベルトはその隙を狙い、円が切れた場所から切りかかっていく。
「グラムさん!」
アルベルトが先頭を切った襲撃の後ろについて行くよう、エレーナはグラムに声を掛ける。
その声に応じ、グラムはエレーナとアルベルトが作ってくれた隙間を抜けてクリミオに向かって歩き出し、腰の剣をゆっくりと抜く。
円の切れ目の両端はアルベルトとエレーナによって、邪魔が入ることはない。
グラムの視線の先は、クリミオに向かって真っすぐに向かっていった。
その鬼気迫るグラムを、クリミオは恐れその場に倒れ込み情けない格好で周りの者に命令をする。
「くそ!!お前たち、お……俺を守れ!早くしろ!!」
だが、誰一人クリミオの傍にたどり着ける者はいなかった。
助けに向かおうとすると剣と氷の礫がその者たちを襲い、その攻撃は息ができない程の痛みを与えてくる。数回その痛みを味わえば、もう”他人”のためにそんな思いを進んで受けに行こうとするものはいない。
グラムはゆっくりと歩くことで、恐怖をクリミオに植え付けていく。
誰も自分の盾にならず、いま自分の身を守る者はいない。
何とか逃げ出したいが、両足に力は入らず立ち上がる力もない。
それでもグラムから距離を取ろうと、後ろに何とか逃げようとする。
床には、小水が漏れ流れ出ており、後ろに身体を引きずるたびにその川が長く広がる。
グラムはクリミオに剣が届く位置までやってきた。
そしてクリミアには、刃がかけたボロボロになった訓練用の剣が手に当たった。
クリミアはそれを握りしめ、剣先をグラムの方へ向けた。
グラムはその動作に、嬉しくなる。
「ほう……やっと俺とやり合ってくれる気になったのか?……さあ立て、お前の生き様をその剣で俺に示してみろ!!」
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