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第三章 【王国史】
3-102 エルフの言葉
しおりを挟むブウムの身体は胸に穴が開いたまま、ゆっくりとその体を起こした。
その表情は、黒剣に支配されていたものとは異なり完全に死者特有の表情をしていた。
「ブウムが……ブウムがよみがえったのよ!?」
「ニナ、しっかりして!!あれはもうブウムじゃないの、操られた魔物よ!!」
サナもイナも近くで必死に説得をするが、ニナの目は虚ろで死んだと思っているブウムが動いていることにしか頭にはいっていない。
「だって、ほら……ブウムが……動いてるじゃない……戻ってきたのよ……そこにいるじゃない」
「ニナ、しっかりして!アレはもうブウムじゃない!!ブウムは……死んだのよ、もうこの世にはいないのよ!?」
サナは涙声で必死に訴える、その悲痛な叫び声はハルナやステイビルの耳に突き刺さっている。
ステイビルは、後悔の念が支配し始める。
『この町に来なければ、こんな悲劇にならなかったのではないか……』
そんな考えが、ステイビルの中を支配し始める。
――バシッ
その思いが伝わったのか、ハルナがステイビルの背中を強めに叩いた。
「しっかりしてください……王子が悪いわけではありません。いろんな人がそれぞれの思想を持つのは当然のことです。それが争いの種になるのは、どこの世界でも同じことです。悪いのは、そのことを利用して今の状況を作ったヴァスティーユたちじゃないですか!?」
実はハルナも、ステイビルと同じ気持ちに陥っていた。
それにこの理論も明らかに一方的で、相手を悪者にしてこちらの立場を正当化しているだけだとも理解していた。
だが、この場で司令塔であるステイビルがこのような状態では、ここから正常な判断ができないと発破をかける。
ゲームの世界でも一人がパニックになると、全滅してしまうことは多々あったのだ。
だが、ゲームは実際に死んだりはしない。
ここは、元いた世界とは違うが死という状態はある。
そうならないためにも、非常時には冷静な判断が必要となってくる。
この場ではそれができるのは、ステイビルだけだった。
「やりますね……ハルナさん」
ソフィーネは、ハルナの声をかけたタイミングが最良であることを指摘した。
「いえ……そんな。必死ですから」
「そろそろ、あの死体も動き始めます。対応のご指示を」
ソフィーネは、顔に気持ちが戻ってきたステイビルに声をかける。
ステイビルは一度ハルナの顔を見てから、魔物に目を向ける。
魔物は辺りを見回し、敵を探している動きをする。
そこには二つの生き物の群があり、どちらを先に攻撃するか迷っていた。
「……イナ殿、ニナ殿、サナ殿。アレはもう、生き物ではありません。元お仲間だったあの者を楽にしてあげる方が良いと考えますが、いかがでしょう?」
ステイビルの問いかけに対し、イナとサナは首を縦に振る。
だが、ニナは目を開けたまま下を見つめている。
「……エルフの一生を表す言葉に、こういう言葉がある」
今まで、自分の存在を消していたブンデルが立ち上がり、サナと一緒にいるニナの傍まで歩く。
「”森の中で生まれ、森の中で育ち、森と共に生き、森の中で眠る……”という言葉あるんだ。エルフは自然を大切にしている、来るものも去るものも分け隔てはない。お前はブウムが好きだったんだろ?だとしたら、早く眠らせてあげる方が、本当の優しさじゃないのか?」
ニナは開いていたを閉じて、目の前の事実に耐えている。
さらにブンデルは、声をかけた。
「もしも、反対の立場だったらどう思う?好きだと言われた女性に、腐りかけた無様な……」
「――うるさいわね!わかってるわよ、そんなこと!ちょっと黙ってて!!!」
「あ、はい」
ブンデルはニナの叫びに、言葉を止めた。
ブンデルも少しだけ、調子に乗り過ぎたと反省する。
「な、何よ!ブンデルさんは悪くないでしょ!?ニナがいつまでも……いつまでも」
ブンデルの優しさをニナが踏みにじったと思い、サナがニナに文句を言う。
ニナもサナの言葉に正気を取り戻し、申し訳なさそうな顔をする。
「ごめんなさい……ブンデルさんも、すみませんでした。せっかくのお気持ちを踏みにじるようなことをしてしまって」
「あ、あぁ。構わないさ……そういう時に落ち着けという方が無理な話だ。いや、気持ちが落ち着いたようで、よかった……うん」
ブンデルの脳裏には先ほどのニナの怒りが頭の中に残っており、少しニナに苦手意識が生まれた。
「それで、覚悟はできましたか?ニナ殿……」
もう一度ステイビルは、ニナに別れの覚悟を問う。
「……はい。ブウムを……楽にしてあげてください……お願いします」
その言葉にステイビルは頷いて、振り向いて目標の姿を見つめる。
「それでは、これより”アンデッド”の討伐を開始する!」
「「はい!」」
ステイビルの言葉に、ハルナたちは返事をする。
一刻も早く、この悪夢の状況を終わらせようと一斉にアンデットに立ち向かっていった。
戦闘は、十分も経たずに終わる。
まだアンデッドとして馴染んでいない身体は、特に脅威となる攻撃方法もなく問題なく動きを止めることが出来た。
そして、最後にフウカの光浴びて、その姿は蒸発させられていく。
その近くに行き、ニナはその顔を見てそっとつぶやいた。
「さようなら……ブウム。ごめんね」
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