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第三章  【王国史】

3-103 ブウムとの記憶1

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「お騒がせしました……それと助けていただき、ありがとうございます。ステイビル王子」







長老の屋敷に戻ってきた一同は、以前話し合いを行った大部屋に集まった。
様々な思いがめぐる中、誰もその胸中を口にはしなかった。



だが、このまま黙ったままではと思ったイナが、協力して駆けつけてくれたステイビルにお礼の述べた。







「間に合ってよかった……いや、一人犠牲者を出してしまったことは、こちらの力が足りなかったせいであんなことに。申し訳ない」






その言葉に反応したのは、ニナだった。





「いえ、最後はあのようになってしまいましたが、もとはと言えばブウムが怪しげなものと関わっていたことが原因です。そして、ブウムのことに気付いてあげられなかった私の……責任でも……」






――バン!


机の上を両手の掌で打ち付け、その勢いで立ち上がったのはサナだった。
その音に目を丸くしたのは、サナに言われて隣に座っていたブンデル。







「ニナが、そんなに背負うことないでしょ?あんなバカみたいなことになったのは、全部アイツのせいなの!昔っからバカだったんだから!」



「これ、サナ。落ち着かんか……お前の気持ちもわかるが、今はニナの気持ちを察してやれ」







ジュンテイがサナを注意し、サナもその言葉に自分を取り戻して素直に従った。






「ごめん……ニナ」


「ううん……いいのよ。そうね、ブウムと私って何かあったわけじゃなかったんだし。私が一方的に世話を焼いていただけだったんだから」






そういうと、またニナは下をうつむいてしまった。


長老たちは三つ子の三姉妹と聞いていたが、こうも性格が違うのかとハルナは思った。







「……先ほどからのお伺いしてましたお話ですと、皆さんとブウムさんは仲が良かったのですか?」







そう切り込んできたのは、エレーナだった。

エレーナ自身もこの雰囲気を何とか変えたいと思っていたらしく、いつもの好奇心も助けて違う話題を振ってみたのだった。







「私たちとブウム……それと、そこにいるデイムは同じ施設で育ったのです」






そう切り出したのは、長女のイナだった。






「私たちは親を亡くしたり、何らかの理由で親を知らなかったりした子供たちを育ててくれる施設で一緒に過ごしてきました……」









イナたちは物心がつく前から、この施設に預けられていたとのことだった。
施設には十名前後の子供がおり、退所してもまた新しい子供が預けられ、常に一定の数の子供がこの施設内で暮らしていた。



ほとんどの子が親のことは全く分からず、この施設で世話をしてくれるドワーフが親代わりだった。



施設で世話をしてくれているものは、当番制で面倒を見ていた。
ジュンテイも、この施設で面倒を見てくれていた者の一人だった。




デイム、ブウム、三姉妹も年齢は一緒だが、施設に入ってきた時期はデイムとブウムの方が先だった。
しかしその頃はほとんど記憶がないため、物心がつく頃には全員家族のような存在だった。





ある程度成長すると、子供たちもここにいる事情を聞かされる。
理由は様々だが、この施設の意味も含めてハッキリと伝えていた。


そこから、年上は小さな子の面倒をみたり、自分自身の自覚が生まれてくる。



幸いなことに、誰一人この施設にいる間は問題を起こす者もいなかった。




問題を起こす場合は、退所してからの方が多く、ある程度社会やドワーフの種族の立場を理解し始めた頃から様々な価値観を持つ者が出てくる。



イナたちもいよいよ退所する時期となった頃、五名の運命が分かれていく。
三姉妹は長老の屋敷の警備長を務めていたジュンテイからの提案で、前々長老から前長老に引き継ぎがされる際に身の回りの世話をするものを募集していたとのことで、三姉妹が推薦された。

デイムは同じく警備兵に推薦され、そのまま警備兵として働くことになった。


その際、ブウムもジュンテイから警備兵として誘われて入隊していた。









「……こうして私たちは、同じ長老関連の組織の中で仕事を見つけることができたのです。ですが、そこからは自分たちの仕事が精一杯な期間が続きましたので、お互いの情報もあまり入ってこなくって。屋敷の中で見かけたりすることはあったのですが、ゆっくりと話す時間も無くなってきてブンデルは警備兵からいなくなっていたことを後から知るくらいでした」





「そういえば……いつだったか」






今までを振り返っているとき、サナが何かを思い出した。





「いつか、ブウムと屋敷の中ですれ違って……その時に呼び止められたことがあったわね。あの時は、前の長老が体調を崩され始めた時で忙しかったから”後で”って言って。結局それっきりっだったんだけど」





「――え、うそっ!?」






デイムが驚きの声をあげて、視線が一斉にデイムに集まった。





「……デイム、何が”うそ”なの?あなた、何か知っているのね?」





ニナの声色が、少し重苦しくなりデイムの表情を見つめる。





「い……いや、何でもないんだ。うん」




デイムは平常を装うが、明らかに何かを隠している様子がハルナにも感じ取れた。




「デイム。あなた私の魔法を……知っているわよね?」






「そういえば、イナさんも魔法を使えるんでしたよね?」




エレーナが興味津々な様子で質問をする。





「はい、私の”ヴェリタム”という魔法は、真実を見分ける魔法です。この魔法の前ではどんな嘘でも見分けることができるのです」



「……真面目過ぎるイナにピッタリな魔法でしょ?」




サナがそう言って、ブンデルの傍で耳打ちした。






「わかりました……その時のことをお話しします」




そう言ってデイムは、嫌そうに重い口を開いた。








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