272 / 1,278
第三章 【王国史】
3-103 ブウムとの記憶1
しおりを挟む「お騒がせしました……それと助けていただき、ありがとうございます。ステイビル王子」
長老の屋敷に戻ってきた一同は、以前話し合いを行った大部屋に集まった。
様々な思いがめぐる中、誰もその胸中を口にはしなかった。
だが、このまま黙ったままではと思ったイナが、協力して駆けつけてくれたステイビルにお礼の述べた。
「間に合ってよかった……いや、一人犠牲者を出してしまったことは、こちらの力が足りなかったせいであんなことに。申し訳ない」
その言葉に反応したのは、ニナだった。
「いえ、最後はあのようになってしまいましたが、もとはと言えばブウムが怪しげなものと関わっていたことが原因です。そして、ブウムのことに気付いてあげられなかった私の……責任でも……」
――バン!
机の上を両手の掌で打ち付け、その勢いで立ち上がったのはサナだった。
その音に目を丸くしたのは、サナに言われて隣に座っていたブンデル。
「ニナが、そんなに背負うことないでしょ?あんなバカみたいなことになったのは、全部アイツのせいなの!昔っからバカだったんだから!」
「これ、サナ。落ち着かんか……お前の気持ちもわかるが、今はニナの気持ちを察してやれ」
ジュンテイがサナを注意し、サナもその言葉に自分を取り戻して素直に従った。
「ごめん……ニナ」
「ううん……いいのよ。そうね、ブウムと私って何かあったわけじゃなかったんだし。私が一方的に世話を焼いていただけだったんだから」
そういうと、またニナは下をうつむいてしまった。
長老たちは三つ子の三姉妹と聞いていたが、こうも性格が違うのかとハルナは思った。
「……先ほどからのお伺いしてましたお話ですと、皆さんとブウムさんは仲が良かったのですか?」
そう切り込んできたのは、エレーナだった。
エレーナ自身もこの雰囲気を何とか変えたいと思っていたらしく、いつもの好奇心も助けて違う話題を振ってみたのだった。
「私たちとブウム……それと、そこにいるデイムは同じ施設で育ったのです」
そう切り出したのは、長女のイナだった。
「私たちは親を亡くしたり、何らかの理由で親を知らなかったりした子供たちを育ててくれる施設で一緒に過ごしてきました……」
イナたちは物心がつく前から、この施設に預けられていたとのことだった。
施設には十名前後の子供がおり、退所してもまた新しい子供が預けられ、常に一定の数の子供がこの施設内で暮らしていた。
ほとんどの子が親のことは全く分からず、この施設で世話をしてくれるドワーフが親代わりだった。
施設で世話をしてくれているものは、当番制で面倒を見ていた。
ジュンテイも、この施設で面倒を見てくれていた者の一人だった。
デイム、ブウム、三姉妹も年齢は一緒だが、施設に入ってきた時期はデイムとブウムの方が先だった。
しかしその頃はほとんど記憶がないため、物心がつく頃には全員家族のような存在だった。
ある程度成長すると、子供たちもここにいる事情を聞かされる。
理由は様々だが、この施設の意味も含めてハッキリと伝えていた。
そこから、年上は小さな子の面倒をみたり、自分自身の自覚が生まれてくる。
幸いなことに、誰一人この施設にいる間は問題を起こす者もいなかった。
問題を起こす場合は、退所してからの方が多く、ある程度社会やドワーフの種族の立場を理解し始めた頃から様々な価値観を持つ者が出てくる。
イナたちもいよいよ退所する時期となった頃、五名の運命が分かれていく。
三姉妹は長老の屋敷の警備長を務めていたジュンテイからの提案で、前々長老から前長老に引き継ぎがされる際に身の回りの世話をするものを募集していたとのことで、三姉妹が推薦された。
デイムは同じく警備兵に推薦され、そのまま警備兵として働くことになった。
その際、ブウムもジュンテイから警備兵として誘われて入隊していた。
「……こうして私たちは、同じ長老関連の組織の中で仕事を見つけることができたのです。ですが、そこからは自分たちの仕事が精一杯な期間が続きましたので、お互いの情報もあまり入ってこなくって。屋敷の中で見かけたりすることはあったのですが、ゆっくりと話す時間も無くなってきてブンデルは警備兵からいなくなっていたことを後から知るくらいでした」
「そういえば……いつだったか」
今までを振り返っているとき、サナが何かを思い出した。
「いつか、ブウムと屋敷の中ですれ違って……その時に呼び止められたことがあったわね。あの時は、前の長老が体調を崩され始めた時で忙しかったから”後で”って言って。結局それっきりっだったんだけど」
「――え、うそっ!?」
デイムが驚きの声をあげて、視線が一斉にデイムに集まった。
「……デイム、何が”うそ”なの?あなた、何か知っているのね?」
ニナの声色が、少し重苦しくなりデイムの表情を見つめる。
「い……いや、何でもないんだ。うん」
デイムは平常を装うが、明らかに何かを隠している様子がハルナにも感じ取れた。
「デイム。あなた私の魔法を……知っているわよね?」
「そういえば、イナさんも魔法を使えるんでしたよね?」
エレーナが興味津々な様子で質問をする。
「はい、私の”ヴェリタム”という魔法は、真実を見分ける魔法です。この魔法の前ではどんな嘘でも見分けることができるのです」
「……真面目過ぎるイナにピッタリな魔法でしょ?」
サナがそう言って、ブンデルの傍で耳打ちした。
「わかりました……その時のことをお話しします」
そう言ってデイムは、嫌そうに重い口を開いた。
0
お気に入りに追加
372
あなたにおすすめの小説
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです
ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。
女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。
前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る!
そんな変わった公爵令嬢の物語。
アルファポリスOnly
2019/4/21 完結しました。
沢山のお気に入り、本当に感謝します。
7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。
2021年9月。
ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。
10月、再び完結に戻します。
御声援御愛読ありがとうございました。
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
婚約破棄されたので森の奥でカフェを開いてスローライフ
あげは
ファンタジー
「私は、ユミエラとの婚約を破棄する!」
学院卒業記念パーティーで、婚約者である王太子アルフリードに突然婚約破棄された、ユミエラ・フォン・アマリリス公爵令嬢。
家族にも愛されていなかったユミエラは、王太子に婚約破棄されたことで利用価値がなくなったとされ家を勘当されてしまう。
しかし、ユミエラに特に気にした様子はなく、むしろ喜んでいた。
これまでの生活に嫌気が差していたユミエラは、元孤児で転生者の侍女ミシェルだけを連れ、その日のうちに家を出て人のいない森の奥に向かい、森の中でカフェを開くらしい。
「さあ、ミシェル! 念願のスローライフよ! 張り切っていきましょう!」
王都を出るとなぜか国を守護している神獣が待ち構えていた。
どうやら国を捨てユミエラについてくるらしい。
こうしてユミエラは、転生者と神獣という何とも不思議なお供を連れ、優雅なスローライフを楽しむのであった。
一方、ユミエラを追放し、神獣にも見捨てられた王国は、愚かな王太子のせいで混乱に陥るのだった――。
なろう・カクヨムにも投稿
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~
丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。
一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。
それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。
ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。
ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。
もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは……
これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる