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第三章 【王国史】
3-100 黒剣の記憶
しおりを挟む「そう、俺は自分が使っていた剣になっていたんだよ……」
「確かに、剣に意識のようなものが宿ることはある。……上手く言えないが、持ち手や作り手の魂が乗り移ったかのような。だが、その意識が使用者を乗っ取るというのは初めて見るな」
ジュンテイは、その男の深い思いが剣に乗り移ったのではと自分の解釈を説明した。
「確かに、殺されたやつへの恨みはあった。最後は、私が乗り移り殺してしまったがな……その後、魔剣として様々な時代と人物の手に渡ってきた。なぜか恨みを持つ者が多かった。そんな気を浴び続けている間に、剣は黒く染まっていった」
「今までのお話を聞いていると、あなたはこの世界の人ではないんじゃないですか?」
「私はローマの近くの名もない村に生まれた……ある時、村がローマ帝国に襲われて奴隷となった。ここは、違う場所なのか?」
「ロ……ローマ?なにそれ?どこの国なの?」
エレーナが聞いたこともないような地名を聞き、何かを知っていそうなハルナに問いかけた。
「ローマってね、私のいた世界の国の一つだったところなの。地名は残っているけど、いまは新しい国になっています」
ハルナはエレーナの質問を、魔物の男に対して返す。
「そうか、やはりこの世界は私が生まれた場所とは違うところなのだな?長い間、あの女の元に保管されていたのでな。もう、自分の顔すら忘れてしまっているよ」
魔物は、少しだけ寂しそうな表情をみせる。
「それで、どうして私の剣を?」
アルベルトは改めて、魔物に対して質問をした。
「おぉ、そうだったな。その剣も私と同じものを感じるのだよ……誰かの恨み……いや、違うな。何か強い思念をその剣からは感じているのだ、それをはどこで手に入れたのだ?」
アルベルトは、ジュンテイから聞いた話を魔物に聞かせる。
ジュンテイもそれ以上のことは詳しくわからないため、アルベルトの説明に頷いているだけだった。
「……その話を聞くと、やはりその人物は剣の中に取り込まれたんじゃないか?」
「えぇ!?だって、そんなことって……」
エレーナは途中まで言いかけたが、目の前にそういう人物がいることを思い出した。
「ふむ……そう考えると、突然消えた理由も納得できる。なぜ、ドワーフの町まで来たのかは知らんがな」
「あの、一つ聞いてもいいですか?」
ニナが恐る恐る、魔物に声をかける。
ブウムの身体を乗っ取った魔物も、声をかけられたニナの方へ視線を向ける。
「ブウムは……ブウムはどうなってしまうのでしょうか?」
「ブウム、この身体の主のことだな。はっきり言ってどうなるかはわからない。今まで取り付いてきた者たちは、殺されて消えていった方が多いからな」
「そ……そんな。じゃあ、もう……ブウムは……あぁ」
「ニナ……」
泣き崩れて声を振り絞るニナに、サナが寄り添いそっと声をかける。
魔物はその様子を見て、目を細めてみている。
「お前……そうか……この男を……」
魔物は古い記憶で、自分のことを慕ってくれていた女性がいたことを思い出す。
自分と同じ奴隷で……いや、奴隷であったのかどうかも今となっては判らない。
ただ、その時の安心感や幸福感が少しだけ胸中に蘇った。
そして、目を瞑り魔物はアルベルトに告げる。
「お前……俺の頼みを聞いてくれないか?」
魔物は、一番最初の咆哮を口にしていたとは思えないくらいの静かな口調で、アルベルトに頼みごとを依頼する。
「頼み……とは?」
その静かな口調に合わせ、アルベルトもゆっくりとした言葉で静かに聞き返した。
「俺を……壊してくれ、頼む」
「え!?どうして……」
「俺にはお前が持つ剣のようにそんなに”信念”がない、元々は個人的なみから始まったことだ。……その恨みも、今となってはとうの昔のことだ。俺はもう疲れたんだな、きっと……楽にしてくれないか?……お前の剣で」
「それで、ブウムは……もとに戻らないのですか?」
酷く気落ちをしているニナに代り、イナがもう一度ブウムの状態を確認する。
「悪いが……それは先ほども言った通り、今までは俺自体が死んだことがないから確認のしようがない」
自分がどのようにして、所有者を乗っ取っているのかがわからない。
寄生先が死ぬことはあっても、自分自身である剣が破壊されることはなかった。
それいに対しては、魔物も答えようがなかった。
「……さぁ、もういいか?早くしないと、この身体に剣の浸食がすすんでいくぞ?これは俺の意思で止められないんでな?」
そういうと、魔物は剣を前に出し胸の前に無防備な状態にする。
「先程床に挟まった時と、剣を打ち合った際にわずかに欠けたところが出来ている。ここに上手く打ち込むといい」
「……本当にいいのか?」
アルベルトは、もう一度だけ確認する。
「あぁ……早くしろ。闇の波が来る、そうなればこうして理性的にはいられなくなる!」
魔物は必死に、暴れたい衝動を抑えているようだった。
「時間がない……やるんだ、アルベルト」
ステイビルに声をかけられ、アルベルトは両手で刀を持ち頭の上に振り上げた。
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