269 / 1,278
第三章 【王国史】
3-100 黒剣の記憶
しおりを挟む「そう、俺は自分が使っていた剣になっていたんだよ……」
「確かに、剣に意識のようなものが宿ることはある。……上手く言えないが、持ち手や作り手の魂が乗り移ったかのような。だが、その意識が使用者を乗っ取るというのは初めて見るな」
ジュンテイは、その男の深い思いが剣に乗り移ったのではと自分の解釈を説明した。
「確かに、殺されたやつへの恨みはあった。最後は、私が乗り移り殺してしまったがな……その後、魔剣として様々な時代と人物の手に渡ってきた。なぜか恨みを持つ者が多かった。そんな気を浴び続けている間に、剣は黒く染まっていった」
「今までのお話を聞いていると、あなたはこの世界の人ではないんじゃないですか?」
「私はローマの近くの名もない村に生まれた……ある時、村がローマ帝国に襲われて奴隷となった。ここは、違う場所なのか?」
「ロ……ローマ?なにそれ?どこの国なの?」
エレーナが聞いたこともないような地名を聞き、何かを知っていそうなハルナに問いかけた。
「ローマってね、私のいた世界の国の一つだったところなの。地名は残っているけど、いまは新しい国になっています」
ハルナはエレーナの質問を、魔物の男に対して返す。
「そうか、やはりこの世界は私が生まれた場所とは違うところなのだな?長い間、あの女の元に保管されていたのでな。もう、自分の顔すら忘れてしまっているよ」
魔物は、少しだけ寂しそうな表情をみせる。
「それで、どうして私の剣を?」
アルベルトは改めて、魔物に対して質問をした。
「おぉ、そうだったな。その剣も私と同じものを感じるのだよ……誰かの恨み……いや、違うな。何か強い思念をその剣からは感じているのだ、それをはどこで手に入れたのだ?」
アルベルトは、ジュンテイから聞いた話を魔物に聞かせる。
ジュンテイもそれ以上のことは詳しくわからないため、アルベルトの説明に頷いているだけだった。
「……その話を聞くと、やはりその人物は剣の中に取り込まれたんじゃないか?」
「えぇ!?だって、そんなことって……」
エレーナは途中まで言いかけたが、目の前にそういう人物がいることを思い出した。
「ふむ……そう考えると、突然消えた理由も納得できる。なぜ、ドワーフの町まで来たのかは知らんがな」
「あの、一つ聞いてもいいですか?」
ニナが恐る恐る、魔物に声をかける。
ブウムの身体を乗っ取った魔物も、声をかけられたニナの方へ視線を向ける。
「ブウムは……ブウムはどうなってしまうのでしょうか?」
「ブウム、この身体の主のことだな。はっきり言ってどうなるかはわからない。今まで取り付いてきた者たちは、殺されて消えていった方が多いからな」
「そ……そんな。じゃあ、もう……ブウムは……あぁ」
「ニナ……」
泣き崩れて声を振り絞るニナに、サナが寄り添いそっと声をかける。
魔物はその様子を見て、目を細めてみている。
「お前……そうか……この男を……」
魔物は古い記憶で、自分のことを慕ってくれていた女性がいたことを思い出す。
自分と同じ奴隷で……いや、奴隷であったのかどうかも今となっては判らない。
ただ、その時の安心感や幸福感が少しだけ胸中に蘇った。
そして、目を瞑り魔物はアルベルトに告げる。
「お前……俺の頼みを聞いてくれないか?」
魔物は、一番最初の咆哮を口にしていたとは思えないくらいの静かな口調で、アルベルトに頼みごとを依頼する。
「頼み……とは?」
その静かな口調に合わせ、アルベルトもゆっくりとした言葉で静かに聞き返した。
「俺を……壊してくれ、頼む」
「え!?どうして……」
「俺にはお前が持つ剣のようにそんなに”信念”がない、元々は個人的なみから始まったことだ。……その恨みも、今となってはとうの昔のことだ。俺はもう疲れたんだな、きっと……楽にしてくれないか?……お前の剣で」
「それで、ブウムは……もとに戻らないのですか?」
酷く気落ちをしているニナに代り、イナがもう一度ブウムの状態を確認する。
「悪いが……それは先ほども言った通り、今までは俺自体が死んだことがないから確認のしようがない」
自分がどのようにして、所有者を乗っ取っているのかがわからない。
寄生先が死ぬことはあっても、自分自身である剣が破壊されることはなかった。
それいに対しては、魔物も答えようがなかった。
「……さぁ、もういいか?早くしないと、この身体に剣の浸食がすすんでいくぞ?これは俺の意思で止められないんでな?」
そういうと、魔物は剣を前に出し胸の前に無防備な状態にする。
「先程床に挟まった時と、剣を打ち合った際にわずかに欠けたところが出来ている。ここに上手く打ち込むといい」
「……本当にいいのか?」
アルベルトは、もう一度だけ確認する。
「あぁ……早くしろ。闇の波が来る、そうなればこうして理性的にはいられなくなる!」
魔物は必死に、暴れたい衝動を抑えているようだった。
「時間がない……やるんだ、アルベルト」
ステイビルに声をかけられ、アルベルトは両手で刀を持ち頭の上に振り上げた。
0
あなたにおすすめの小説
勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました
鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」
そう言ったのは、王太子アレス。
そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。
外交も財政も軍備も――
すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。
けれど功績はすべて王太子のもの。
感謝も敬意も、ただの一度もない。
そして迎えた舞踏会の夜。
「便利だったが、飾りには向かん」
公開婚約破棄。
それならば、とレイナは微笑む。
「では業務も終了でよろしいですね?」
王太子が望んだ通り、
彼女は“確認”をやめた。
保証を外し、責任を返し、
そして最後に――
「ご確認を」と差し出した書類に、
彼は何も読まずに署名した。
国は契約で成り立っている。
確認しない者に、王の資格はない。
働きたくない公爵令嬢と、
責任を理解しなかった王太子。
静かな契約ざまぁ劇、開幕。
---
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
聖女を怒らせたら・・・
朝山みどり
ファンタジー
ある国が聖樹を浄化して貰うために聖女を召喚した。仕事を終わらせれば帰れるならと聖女は浄化の旅に出た。浄化の旅は辛く、聖樹の浄化も大変だったが聖女は頑張った。聖女のそばでは王子も励ました。やがて二人はお互いに心惹かれるようになったが・・・
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる