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第三章 【王国史】
3-99 黒剣の支配
しおりを挟む「ギシャァアアアア!!!」
「……それじゃ、第二試合といくか。相手がお待ちかねだ」
ブウムは学習したのか、前のようにやみくもに攻めてくるようなことはしなくなった。
何度か軽い攻撃をし、様子を見始めた。
自分が打ち出した剣が、どのような形で五成されるのか、反撃のタイミングやその軌道。
一つ一つを確かめるように、魔物は剣を打ち付けてくる。
「危ない!!」
思わず、デイムがアルベルトに向かって叫んだ。
今度はブウムは剣を突いてきた。
今までにない攻撃パターンを組み、攻撃が読まれないようなパターンを作り始めた。
こちらも、攻撃のパターンを変えてみた。
エレーナが二人の合間を見計らい、水の力で攻撃を始める。
すると、ブウムはやや押され気味になる。
だが、決定的なダメージは与えられない。
学習速度が速くなっており、こちらからの複合的な攻撃にも早い段階で対応できるようになっていった。
そして攻撃もステイビルとハルナが同時に加わるが、結果は同じだった。
次第にステイビルたちには、焦りが見え始める。
当初の余裕も、相手の進化によってその差はなくなってきている。
「……ククク、どうシた?お前たチノちかラはそンなものか?」
「――!!」
今までは唸りや咆哮だけの音でしかなかった者が、少したどたどしい言葉で話しかけてくるようになったことに驚く。
「ぶ、ブウムか!?」
意識を失っていたブウムが取り戻したと思い、デイムは必死に話しかけた。
「ブウム……あァ、この本体のことだな?こいつの意識は、既に占領した。ゆっくりとオレの身体として馴染んできたんだ」
「……ニナ!?」
魔物の言葉を聞き、ニナの身体から力が抜け床に膝を付く。
その身体を隣にいたイナが、支えてあげた。
「で、お前は一体誰なんだ?」
アルベルトは薄々感付いてはいたが、念のために確認をする。
「アん?それはないだろ?オレの攻撃を随分と舐めたさばき方をしてくれてたよな?」
「……お前、黒剣か?」
「あぁ、そうだよ。ようやくこいつの身体の動かし方も慣れてきたんだ。さぁ、早速さっきの続きをやろうぜ!?」
魔物は剣を片手で振り下ろすと、その先から黒い炎の塊がアルベルトをめがけて飛び出してきた。
「えいっ!」
エレーナは即座にアルベルトの前に透明な氷の壁を作り、その攻撃を防いで見せる。
「案外簡単にできたな、その女たちの技をマネて瘴気を圧縮して攻撃に使ってみたんだが……」
「なに!?」
この戦いの中で、新たな方法として思いついたと黒剣の魔物はいう。
だが、ヴェスティーユたちも使っている方法なのでできないことはないのだろう。
次は掌の上に同じものを作り、飛ばして見せた。
「えい!」
次はハルナのホーミング弾が、ショットガンのように飛び出した粒を一つ一つ撃ち落としていく。
「ほぅ……そんなことも出来るんだ。まだまだ奥が深いねぇ!!」
その隙をついて、アルベルトがブウムに切りかかる。
しかし、その攻撃は本気ではなくいとも簡単に開いてから受け止められてしまう。
黒剣はアルベルトを見習って、その剣を最適な角度で払おうとした。
しかし、アルベルトの刀は流されることなく向かい合ったまま力で押し込まれた。
向かい合う二人の顔が近付き、言葉が通じ易い位置関係となる。
「……お前はなぜ、そんなにまで俺たちに敵意をむき出しにする?お前の目的は何だ?」
アルベルトは、小さな声で魔物に声をかけた。
「フンっ、何でかって?お前のその剣が気に食わないんだよ……!」
魔物は力でアルベルトを押し返し、一旦距離を置いた。
襲撃に備え、剣を正中に構えて身構える。
「気に食わない……とは、どういうことだ?」
言葉通りの意味ではあるが、アルベルトはあえてその裏を探る意味で言葉を問い質した。
応じてくれるとは限らないが、話しに乗ってくれれば解決の糸口がつかめると思っての行動だった。
だが、この話に相手は応じてくれたのだった。
魔物はゆっくりと構えを解いて、何かに思い吹けるような動作を取る。
「なぁお前、俺が”元”人間だったとしたら……信じるか?」
「――?」
アルベルトはその問いには答えず警戒しつつも、剣を降ろし次の言葉を待った。
「俺は……ある世界でコロシアムの剣闘士だった。奴隷の俺が活躍できる唯一の場所だった」
「……」
「奴隷から這い上がり、ようやく人間らしい扱いを受けるようになった。それも、強くなり観客が残虐なことを喜ぶようになったからな」
サナたちも静かに、魔物の言葉へ耳を傾けている。
「ある日、皇帝の前で決勝戦が行われた。この勝者には兵になれる特権が与えられた。相手は兵を取りまとめる男の息子で、そんなに強そうには見えなかった。そう、決勝まで上がれたことが不思議なくらいの男だった。……決勝前に皇帝の前で宣誓を行い、皇帝からの贈り物として酒が振舞われた。そこに、毒が仕掛けられていたのだ」
「な、なんて卑怯な!?」
エレーナは思わず、声をあげる。
「ふ、それに気づかなった俺も悪いがな。試合はその毒のせいで、身体が動かず負けてしまったよ。首をはねられて……な。最後に見た相手の顔は、今でも忘れられんよ」
ステイビルも、言葉を挟まずに黙って聞いている。
「死んだとおもったさ。だが、意識はあった。そう、俺が使っていた剣になっていたよ」
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