上 下
52 / 1,278
第二章  【西の王国】

2-21 勝てない勝負

しおりを挟む




三人の前にソフィーネが姿を表す。
ソフィーネはそのままハルナたちを、ドアの前まで連れて行った。


ここは反抗するよりも、この施設の従者に従った方が良いと考えたからだ。




「お前たちだな。今回の王選に関して、企んでいるとの報告がある。我々と一緒に来てもらおうか」



 エレーナはハイレインの名前を出そうとしたが、先程の件もあるためここは様子をみようと決めた。




「私もご同行しても?」




ソフィーネが確認する。




「だめです、今回はこの三名だけで話をお伺いする。元諜報部に来られても厄介ですからな……」



執事はそう言って、ソフィーナを拒んだ。




言い終わると執事はハルナたちを廊下に出るように指示し、ハルナたちもそれに従った。


そして、地下のとある部屋に三人ん連れて行かれる。


四角部屋の中の四隅と何もない木のテーブルの上にろうそくが、それぞれ置かれている。
そのテーブルの前にはボロボロの木の椅子が三脚並べられている。
昨日のハイレインと謁見した場所とは全く正反対の場所だった。


冷たい部屋の冷たい椅子の上に座らされて、部屋を数名の従者が囲むように立つ。


そしてテーブルの前にこの中で一番位の高いと思われる従者が腰を下ろし、ハルナたちに問いただす準備が整った。





「……さて、お前たちは自分たちがなぜここにいるのか、思い当たる節はあるかな?」




薄暗い部屋の中でわずかに揺れるろうそくの炎に照らされたその表情は、不気味という言葉以上の雰囲気を醸し出している。




「いいえ、全く思い当たることはありません」




最初に答えたのはエレーナだった。




「……そうか。他の二人はどうだ?」




ハルナもオリーブも、エレーナと同じく否定する。




「あくまでもシラを切るか……」




テーブルの男は、軽くため息をついて首を横に降振る。




「ヤレヤレ。あまり無駄な時間をかけたくないのだが……な」


――カチャ


従者の一人が男の後ろの扉にある鍵を内側からかけた。


ハルナたちの緊張感が一気に上がる。
フウカが出ていこうとするも、ハルナは心の中で必死に止めた。


カルローナがラヴィーネに来たとき知ったのだ。
精霊使いの存在に抵抗がある相手には、契約精霊を見せた場合に攻撃の意思があると取られる可能性があることを。
相手からすれば、剣を抜いたことと同じと取られる。
ここで、迂闊な行動に出れば益々この状況が不利になる。
相手はこういう話し合いの場においては、経験の豊富な貴族たち。
失言や感情的な行動を相手に取らせる狡猾さは、お手の物だ。




三人は必死に頭を働かせる。
どうすれば、このマイナスから始まっている状況をプラス……いや切り抜けることが出来るのかを。
かといって、下手に手を出すと相手を優位にされる可能性もある。
そして、三人の発言の整合性をとり、お互いの足を引っ張り合わない様にもしなければならない。


まずは、エレーナが揺さぶりをかける。



「この件に関しては、王国側やハイレイン様にも話が通っているのでしょうか?」




テーブルの男は、この世で最も不愉快といった表情を見せる。
忌々しそうな目つきで、エレーナに返した。


「……お前たちにそんなことを伝える必要もないし、そんな言葉は望んでいない、こちら側としては。お前たちはただ、余計なことを言わずに正直に話せばいいだけなのだ!」



男は苛立ち、声を荒げながらそう告げた。



しかし、これにより三人は感じ取った。
これには何か別の力が働いていることを。


だが、相手が威圧的なため下手に動くと状況が悪くなってしまう。



(どうすれば……)



三人は、頭をフル回転させる。
ハルナは、一つの案を閃いた。



(ねぇフーちゃん……姿を見られずにソフィーネさんかメイヤさんに助けを呼んでこれる?)



(部屋を通り抜けるのはいいけど、姿は消せないよ?)




(そっか……消せないか)




もしかして、フウカもディグドのように姿を消すことが出来るのではないかと思っていたが、無理だったようだ。
試してみようという気持ちもあるが、もし消えなかった場合はさらにこちらが不利になるのは目に見えている。


頼りにしたいディグドも、何の反応もない。
多分他の候補者も同じような状況であること考えた方が良い。
貴族側が先手を打ってきているという状況なのだろう。


動きは監視をしていたが、ちゃんとした証拠もないためルーシーたちも動けなかったのだ。
そういった状況で、ハルナ達がこの情報戦で敵うはずがない。
王国内においても立場は、向こうが上であることも間違いない。



エレーナがそんなことを頭の中で考えていた時、状況が少し変化する。



「……わかった。ただ話したくないのは良く分かる。話した後に、自分たちの処遇がどうなるか気になるところだろう。なので、こうしないか?」


男は立ち上がり、テーブルの上に置いてあったろうそくの燭台の取っ手を持って三人の前まで進む。
そのろうそくの明かりで一人一人の顔を流しながらこう告げた。




「……お前たちの中で、最初に”正しい”ことを言ったやつの処遇は保証しようじゃないか。王選の候補者のどちらかが、話してくれればそのまま王選は継続させてやる。もう一人はもちろん、罪を受けることになるため候補者からは外れるがな。候補者じゃないやつが話せば、王選に残れるやつを決めさせてやる。自分が応援する方を選んでいいぞ!……どうだ?」


仲間割れを狙った作戦であることは、三人がすぐに理解できた。
正しくもないことを選択させる、そのこと自体が不正であり脅迫なのだ。



しかし、ハルナ達にこの選択肢以外の答えを返すだけの根拠がないのも確かだ。




「……どうだ?百数えるうちに答えろ。出なければ、全員ここから出られない様にしてやる」




ハルナ達は顔を見合わせるも、言葉はでない。
全て周りに聞かれているから。




「五十、四十九……」




エレーナはいざとなれば、ここの全員を倒すつもりでいた。
ハルナ達もエレーナの目つきでそのことが伝わってくる。

だが、オリーブの目は、必死に”それはダメだ”と訴える。



「どうした……十一、十、九……」




カウントダウンの声が響いていく。










――カチャ



外からカギを開ける音が聞こえた。
従者は一斉にその方向に目を向けた。




しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!

えながゆうき
ファンタジー
 妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!  剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

処理中です...