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第二章  【西の王国】

2-20 疑惑

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ディグドから告げられた言葉はすぐには聞き入れられず、頭の様々な箇所を通過してようやく理解という場所にたどり着いた。




「ど……どいうことなのでしょう、ディグド様」


つい先ほどまでこれらについて情報を出し合い、これかどうするかということを話し合っていた。
それがほんの少しの間に、状況を変えられることになる……


ハイレインはこのことに味方をしてくれると思っていたのに、まさか逆に止められることになるとは。
裏切られたような信じられない気持ちが、エレーナの心の中を埋め尽くしていく。


そして、居ても立っても居られなくなりエレーナは部屋を飛び出した。




「ちょっと、ハイレイン様のところに行って話してくる!」




「ちょっと、待って……エレーナ!」



ハルナの呼び止めにも応じず、エレーナはドアを出ていった。

ハルナもそのあとを追って、部屋を出ていった。




そして、一階の廊下の突き当りのハイレインの部屋を目指して力強く進むエレーナ。
ハルナはその後ろを、説得しながら歩いていく。



そして、扉の前へ行こうとした際に従者にその道を塞がれた。



「現在ハイレイン様は、ご職務中でございますので、ご面会は出来かねます。ご用件は私たちがお伺いします」



「直接会ってお話ししたいのですが」



「今現在、どなたともお会いすることはできません。また、改めてお越しください」




二回目の拒否は完全に、威圧的な返答だった。



ここの従者たちは貴族の出身者によって構成されている。
そういった貴族たちは、王都の中に本家がある大きな家の者だ。

いくら国によって町を任されているとはいえ、フリーマス家など貴族たちからすればかなり下にみられている。
しかも、自分たちの上司であるハイレインに対して、気軽に面会を求めることなど決して許されるべきではないと思っている。


貴族たちは精霊使いに対しては良く思っていない。
今の王妃が精霊使いだったことや、王の周囲には何かと精霊使いが多い。
これでは、貴族たちが入る隙がなかなか無いのだった。



貴族たちは何かと、精霊使いを目の敵にしているのだった。



立ちふさがる従者をみて、エレーナはお詫びの言葉を伝え振りむいて元の部屋に戻っていった。
ハルナもお詫びのお辞儀をして、エレーナの後を追った。


従者の嫌な視線は、エレーナたちの背中が見えなくなるまで注がれた。






戻ってきたエレーナを、オリーブが叱る。


「落ち着いてください、いつものエレーナさんらしくないですよ……もう!」


「ご……ごめん」


部屋に戻り、ものすごい勢いでハルナとオリーブに怒られたため、ここは素直に謝っておいた。




「ハイレイン様も何かお考えのあってのことかもしれないでしょ?こういう時に、冷静にならなきゃダメじゃないですか!?」



「はい……」




さらに、しょんぼりとするエレーナ。



「それにハイレイン様とつながりがあっても、気軽にいくと他の候補者から贔屓としてとられたり貴族の従者の方からも目を付けられることになると思いますよ」


後者については、今まさに下の階で感じてきたことだった。



「それでも……この状況、どうしようか?」


「そうですね、ハイレイン様にお聞きできないとなると……あれ?ディグド様は?」



ハルナの一言に応じたオリーブが、妖精がいなくなったことに気付く。



「ディグド様、ディグド様ぁー」




妖精は、オリーブの呼びかけに応じなかった。



――!


ハルナが一つの案をひらめいた。



「ねぇ、フーちゃん。この辺にディグド様隠れてないかなぁ?」




ふわっと姿を現したフウカは、ハルナに応じて周囲を探索する。




「うーん……ここにはいないみたいよ、ハル姉」



「そっかぁ……」



エレーナがヴィーネに聞いて見ても、同じ回答だった。





「どこに行ってしまわれたのかしらねぇ……」







とりあえず、三人はこの先どうするべきか話し合った。



――”何もするな”というハイレインからの伝言

何か危険な状態になっている?しかもこのことをルーシーやクリエに伝えるべきか?
……どうやって?ハイレインとのつながりはあまり公にできない。
ハルナ達がハイレインとつながりがあるとわかれば、同じ立場である王選に選ばれたものとしての信頼関係が揺らいでしまうのではないか?






――ルーシーとクリエに協力すると言った手前、どう対応していくか


これに関しても、”何もするな”の真意が分からない限り伝えようがない。
かといって、ルーシーたちが調べてきた情報は確かなものだと言っていた。
二つの町で調べた内容がほぼ同じだった。

これは”騙されていなければ”信じてもよい情報だろう。






――ハイレインが”敵”だったら?


これが一番怖い。すでにハイレインから貴族に対して何らかの連絡が行っているだろう。
そうすると、今回の王選の開催自体がもう、怪しくなってくる。






様々な意見を重ねたが、結局何も解決できなかった。
伝言の真意がわからないにしても、ルーシーとクリエにどう説明するかという問題。
ハイレインを疑うことの問題。
できれば、昨日の夕食時の話しからしても考えたくないし、ハイレインの行動が演技とも考え辛い。



結局、堂々巡りだった。

しかし、問題が整理できただけでも良かったと三人は納得した。






――ドンドン!


ドアを強めに叩く音がする。


メイヤが、ドアを開けて確認する。



「ここに、エレーナ、ハルナ、オリーブはいるか?」




「はい、おりますが……どういったご用件でしょうか」




訪問者の威圧的な態度を受け流して、メイヤが答える。






「この者たちは、今回の王選で不正を働こうとしていると連絡が入った。抵抗せず、速やかに同行願いたい」




この屋敷の従者が、部屋の中まで聞こえる様に大声で叫ぶ。

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