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復讐実行の章 ※センシティブな内容となります
42:責任の所在
しおりを挟む「あら?もう気が付いたの?さすが魔法使い、といったところかしら」
誰も居なかったはずの場所から女の声が聞こえ、魔法使いの体はビクリと跳ねた。
「やはり順応性が高いですね。体内に魔力が多いからでしょうか」
次に男の声が聞こえ、そちらに顔を向けると、今まで居なかった男が現れた。
「師匠、夜にはまたマリーズにするのですか?」
男が女に問い掛けるのを聞き、魔法使いは「あ……」と声を出す。
抜けていた記憶の一部がよみがえる。
女の体にされ、見知らぬ男に蹂躙される屈辱。
過ぎた快楽の辛い記憶。
「いや、いやだ……もうあんな辛い事は嫌だ。助けて、助けてくれ」
魔法使いはみっともなく涙と鼻水で顔を汚し、ベッドから転がり落ちるようにして降り、床に額を擦り付けて土下座をした。
何も無いはずの空気が揺れた気がした。
否定の意志を含んでいる空気が。
「大丈夫よ。マリーズは妊娠出産を耐えて、その後5年も監禁されたけど、貴方は後2年ちょっとよ」
フフッと笑った魔女の声が引き金となり、約6ヶ月の妊娠期間の記憶も朧気ながら戻ってきた。
なぜ、あんなモノを胎で育てられたのか。
込み上げてきた吐き気を押さえきれず、魔法使いは朝食べた物を嘔吐した。
慈しんだ気持ちなど、もう微塵も無い。
あれは脳の自己防衛機能が働いた結果の、擬似母性だったのだろう。
「まだまだ人間は奥が深い」
魔女は魔法使いを眺めながら、嗤った。
マリーズは土下座する魔法使いを、静かに眺めていた。
泣いて土下座して逃れられるなら、自分もそうしていただろうと。
そうすれば何とかなるかもしれないと思える思考がある時点で、幸せなのか不幸なのか……。
皆が魔法使いに意識を向けていた時、ベッドの上のコレットが悲鳴に近い声を出した。
「いやあぁぁぁ!何これ!醜い!動いてる!気持ち悪い!」
臨月の自分の腹を見て全否定するコレットに、さすがにマリーズも眉間に皺を寄せる。
魔女の顔は見えないが、弟子もマリーズと似たような表情をしていた。
今まで痛みで意識を失っていたはずなのに、コレットはベッド上でムクリと起き上がった。
這うようにして魔女の方へと移動する。
「ねぇ、戻して。あの女の姿でも我慢するから、これを元の場所に戻して!」
最後には叫び出していた。
「あら、元の場所に戻したのよ。今が正しい状態」
前回も含めてね、と言う魔女の呟きはコレットには届かない。
「正しい状態」が理解出来ないのか、理解したくないのか、コレットは激しく首を横に振った。
「子供なんて産んだら、どれくらいの間ジスランと出来なくなるの?その間に他の女と浮気したら?」
浮気も何も、そもそも正妻はマリーズである。
「ねぇ、こんなのが出るんでしょ?痛いんでしょ?ねぇ、さっきの痛みより酷いの?嫌だよ!ねぇ!助けてよ!」
コレットが自分の大きな腹を両手で抱えて持ち上げる。
「子供を作る行為をしておいて、いざ出来たら義務も責任も果たさないの?」
魔女がコレットの顎を掴んで、自分の方へ向かせる。
「女は出産に耐えられるように出来てるの。まぁ、稀に命を落とす人はいるけれど、それも運命と思って受け入れなさい。自己責任よ」
魔女の台詞は、まさにマリーズがコレットに言いたかった言葉だった。
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