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未来の過去の章

14:いざ!食堂へ

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 昼休みになり、マリーズは席を立った。
 食堂へ行く為である。
 ジスランとは学年が違うので、頻繁に会う事は出来ない。
 会う確率が高いのは、やはり食堂だろう。
 食堂は下位貴族や平民用、高位貴族用とに分かれている。

 いや、厳密には公言していない。
 しかし値段設定も違うし、設備も違う。
 かつて、かなりの豪商の子女が使ったらしいが、公爵家や王族御用達の商店だったそうだ。
 逆は多少あるようだ。
 社会勉強を兼ねて、一度は食べるように親に言われる生徒は多い。


「ジスランは、絶対に高位貴族の食堂よね」
 マリーズは教室を出た。
 その時に、引き止めるように名前を呼ばれる。
「クストー伯爵令嬢」
 今、マリーズに声を掛ける生徒は一人しかいない。
「なんですかぁ?」
 マリーズが振り返ると、ミレイユが立っていた。
 しかしその表情は、予想と違って暗い。

「もしかしてぇ、マリーと一緒にお昼食べたいとかぁ?」
 顎に人差し指を当て、口の両端に力を入れてちょっと尖らせ、首を傾げる。
「それもそうなのですが……」
 戸惑いながらミレイユが口を開く。
 しかし視線は右へ左へと動き、定まらない。

「もう、なんですぅ?マリーお腹すいてるから行きますよぉ?」
 マリーズがきびすを返そうとすると、ガシッと腕を掴まれた。
 ミレイユらしくない行動に、さすがのマリーズも目を見開く。
「下級食堂へ一緒に行ってくださいまし!」
 今度はマリーズの顔をしっかりと見て、ミレイユが声を出した。


 とりあえず食堂へと向かいながら、ミレイユの話を聞く事にした。
「下級食堂の事は判りますよね?」
 ミレイユの問いに、マリーズは首を傾げる。
「えぇと、下位貴族とかの皆さんが使う方?」
 マリーズの答えに、ミレイユは頷く。

「父に初回はそちらを利用するようにと……」
 ミレイユが下を向いたまま話すので聴き取り辛いが、話の内容は理解出来た。
 どうやら「社会勉強の為に」と言う親のようだ。
 初回と指定があるのは、通称高級食堂と呼ばれるらしい高位貴族用の食堂を利用してからだと、とても不味く感じるから……らしい。

 そもそも家で美味しい食事を毎日食べているので、今更変わらないだろう?と思っても、マリーズは口には出さなかった。
 素直なマリーは、何事も「そうなんだぁ」と受け入れなければいけない。
 そして優しいマリーが言う台詞は決まっている。
「じゃぁ、マリーが一緒に行ってあげよっかぁ?」
 マリーズはミレイユに笑顔で提案した。



「うわぁ!凄いねぇ!人がいっぱい!」
 食堂に足を踏み入れたマリーズは、大袈裟なほど驚いた。
 言葉こそ演技だが、驚いたのは本気だった。
 高級食堂よりも席が詰めて置いてあり、ひしめき合っている印象だ。
 1テーブルの人数も高級食堂は四人だが、こちらは倍の八人だ。
 テーブルの形も、向こうは丸だがこちらは長方形である。

「下級食堂って言うんだ、知らなかった」
 ボソリと呟いたマリーズの声は、横のミレイユにも届かなかったようだ。
 本当に勉強しかしていなかったのだと、マリーズは実感していた。


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