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第1章 帝都レベランシア編

第6話 世界創造 ⑤

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 あれから、千年が過ぎた。

 といっても、起きて活動していた時間は十年にも満たない。

 世界を作りこみ、細かな調整を終えたあとは、チロと共に永い眠りについていたのである。

 エネルの一パーセントを使って作った強制睡眠装置。最長で千年間、生きたまま睡眠状態を続けられる便利グッズだ(果たしてこれを睡眠と呼んでいいのかどうかは分からないが、とりあえずミイラにならずに覚醒することはできた)。

 で、現在いまである。

 目覚めたのは、三日前。

 下界に降りる準備はもう、万端だった。

「いよいよだね。準備はいい?」

「ああ、身体の準備も心の準備も万端だ」

 チロに答えて、屋敷を出る。

 三歩歩いたところで、だが俺はそれに気づいて足を止めた。

「あれ、おまえちょっとイメージ変わった?」

「今、気づいたの!? 朝起きたときから姿変えてたんだけど……」

 チロの姿が、いつもと違う。いつもの巻グソ形態ではなかった。

「ドラゴンパピー。手のひらサイズの仔ドラゴンだよ。世界観に合ってるでしょ?」

「……まあ、それならたぶん違和感なく受け入れられるだろうな」

「うん、前の姿だと目立っちゃうかもしれないからね。その都度、言い訳したり誤魔化したりするの面倒だし。これからのオイラはこの形態がデフォだから、トーマも慣れてね」

「大丈夫、もう慣れた」

「……早いね。てゆーか、最初から全然興味なかったもんね、オイラの変態に……」

 チロが淋しそうにつぶやく。俺は軽く首を左右に振った。

「いやおまえのその姿にはたいして興味ないけど、おまえが姿を自在に変えられるって事実にはけっこう驚いたよ。人間にもなれんの?」

「なれるよ。でもこのサイズでいた期間が長かったから、これより著しく大きな生物だと身体の動かし方に慣れるまでけっこう時間かかるかも。空飛べなくて不便だし、率先してなりたくはないね」

「自然って意味では、人間の姿が一番自然だと思うけどな。まあけど、姿を世界観に合わせるって発想はなかったわ。俺も、名前くらいはファンタジーっぽいのに変えとくか」

「カタカナな感じに?」

「カタカナな感じに。三文字くらいが呼びやすくていいかな」

「ファミリーネームもつけたほうが自然だと思うよ」

「ああ、そうだな。まあ、移動しながらゆっくり考えるよ」

「最初の一人に会うまでには、でも決めとかないとね」

 言われて、頷く。

 無論、そのときまでには決めるつもりだ。

 最初の人間と出会う、その瞬間までには――。

「その瞬間は、ドキドキだろうな」

「オイラはワクワクだね。下界に降りるだけでも、オイラワクワクだよ」

 下界に降りる。

 自分が造った世界に、自身の足で降り立つ。
 
 なんとも言えない高揚が、鳥肌となって心と体を駆け巡った。

「ようやく第二の人生のスタートだ」

 空を見上げて、誰にともなく言う。

 否、それは明確に自分に向けて放った言葉だった。

「俺は俺の作った世界で、新たな物語をスタートさせる。前世と違って、平和と平等が約束された優しい世界。そいつが諸手を挙げて、主の到着を待っている。最高の気分だ」

 心が躍る最初の一歩。

 まだ見ぬヴェサーニアの大地が、幸福の口を大きく開けて、ただゆったりと佇んでいる。
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