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第十九章

第325話 人類最高の剣士

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 翌日は俺とレイ、ヴィクトリア、キルスとファステルで非公式の会談を行う。
 ラルシュ王国、イーセ王国、エマレパ皇国は特に友好的で、特別な条約も結んでいる。
 お互い君主という立場だが、個人としても仲が良く尊敬し合う間柄だ。
 友と呼んでも差し支えはないだろう。

 元々この会談では世界会議ログ・フェスに向けて、事前に情報の擦り合せを行う予定だったが、今回の世界会議ログ・フェスは大きな議題がない。
 そのため、三カ国の近況報告などの話になった。
 はっきり言うと友人とのお茶会だ。

 お互いの国の状況を伝え合い、会談は終了。
 なお俺は、デ・スタル連合国のノルンに関して一切話さなかった。
 確証が持てないし、ノルンがどう動くか分からないからだ。
 しかも、場合によってはシドの不老不死までバレてしまう。

 退室するため全員が立ち上がったところで、レイが俺の背中に手を当ててきた。

「アル、お土産は?」
「そうだった」

 俺は全員を見渡す。

「ねえ皆。飛空船の倉庫に余裕はある? 帰りにお土産を渡したいんだけど?」
「お土産?」

 ヴィクトリアが反応した。

「うん。ラルシュ王国は珈琲と紅茶の栽培を始めたんだ。ここの温暖な気候は珈琲の栽培に適してるし、ヴェルギウスがいなくなったアフラ火山では、紅茶の栽培が適している。さっき出した紅茶はラルシュ産だよ」
「そうなのね。とても美味しかったわ」

 美味しいと感想をくれたヴィクトリアだが、腕を組んで少し睨んだような素振りを見せた。

「ところでアル。それって輸出するの?」
「今はまだ自国で消費する分しかないけど、将来的にはそのつもりだよ。ラルシュ王国の特産品にするんだ」
「はああ、そうなのね。……また国力が上がるじゃない。本当にいい加減にして欲しいわよ」

 ヴィクトリアが肩をすくめる。
 その様子を見たレイが笑顔を見せた。

「ふふふ。イーセ王国だって、新種の紅茶を作ったじゃない。あれは本当に美味しいわよ」
「そうよ。少しでも特産品を増やさないとラルシュ王国に敵わないもの。今は葡萄酒に力を入れているわ」
「あのねえ、私たちとイーセ王国では歴史が違うわよ。うちの方こそ頑張らないといけないもの。だから、研究機関シグ・セブンの元局長ジョージが熱心に農産物を研究してるわ」
「ジョージ氏って……モンスター学の権威の上、農業にも精通してる方じゃない。はあ、人材が揃いすぎよ。やだやだ」

 引退したジョージだが、名産品を作りたいと相談したところ「儂にお任せください!」と現場に復帰してしまった。
 今は農業大臣に就任してる。
 元々シグ・セブンは農業の研究も行っていたので「ラルシュ王国の特産品を作るのじゃ」と息巻いていた。

「アルよ。私もお土産で香辛料を持ってきたぞ」
「本当に? ありがとう」

 キルスが俺の肩を叩いてきた。
 ラルシュ王国ではエマレパ産の香辛料を輸入しており人気食材だった。
 だが、とんでもなく辛いものもある。
 俺は正直辛い物が苦手だ。
 とはいえ、エマレパ産の香辛料は美味い。

「そうだ、アルよ。後ほど手合わせを願いたい。いいか?」
「もちろんだよ。手は抜かないけど大丈夫?」
「むっ! 言うようになったな。私とて、お前と本気の試合をするために腕を磨いてきたのだ」

 キルスの剣技は円熟期を迎え、今や人類最高剣士と呼び声高い。

「キルス大丈夫? アルは三体の竜種殺しトライトロンよ?」
「レイよ、だからなのだ。人間がアルに敵うのか。それを試すことができるのは私しかいないだろう?」
「そうね。もはやアルは人間として認識されてないものね。鉱夫から冒険者になってすぐにネームドを討伐。竜種まで討伐して今や国を作ったもの。鉱夫からたった三年で国王よ。どう考えてもおかしいわね」

 酷いことを言われているが、もう慣れたし褒め言葉として受け入れている。

「レイよ、お前にも手合わせを願いたい。レイだって、人の領域を超えた存在なのだからな」
「いいわよ。だけど、今の私はアルより強いかもしれないわよ?」
「な、なんだと?」

 ファステルが俺の腕をそっと掴んできた。

「ねえアル。レイの話は本当なの?」
「そうだね。最近は真剣勝負をしたことないけど、今のレイは本当に強いよ。俺も危ないと思う」
「ラルシュ王国って、冒険者ギルドやラルシュ工業より、どんな名産品より、国王と女王が最も恐ろしいわよね」

 その発言を聞いて、キルスとヴィクトリアが笑っていた。
 そしてヴィクトリアがジルを指差す。

「その手合わせはジルも参加しなさい」
「え! 私もですか?」
「当たり前でしょう。あなたはイーセ王国の最高戦力。それに、前団長のレイから授かった騎士団長の剣クロトエ・ル・シャンを持つ者なのよ?」
「か、かしこまりました」

 ジル・ダズの額から大量の汗が出ていた。

「フハハハ。ジル団長、頑張ってくれよ」

 警護隊として部屋にいたリマが、過去の同僚たるジルをからかっていた。

「何言ってるのリマ? あなたも参加よ?」
「アタシもですか?」
「当たり前でしょう。この国で私とアルを除けば、あなたが最高戦力ですもの」
「え! レイ様! む、無理ですって!」

 その様子を見ていたキルスが自慢の顎髭を触る。

「そうなると、我が皇軍のグレイグ大将軍も参加だな」

 キルスの後ろに控えているグレイグ大将軍の顔色は真っ青だった

 ――

 結局、俺、レイ、キルス、リマ、ジル、グレイグで剣を交えた。

 訓練が終わるとグレイグは四つん這いになり、ジルは片膝を突き、リマは手足を投げ出し倒れていた。
 キルスは最後まで立っているが、呼吸は大きく乱れている。

「キルス、ありがとう。色々と参考になったよ」
「はあ、はあ。何を言う。全く敵わなかったぞ」
「いや、キルスは強かったよ」

 実際キルスは強かった。
 俺の強さは始祖であるエルウッドの雷の道ログレッシヴによるところが大きいし、レイは竜種リジュールの狂戦士バーサーカーだ。
 もちろんきっかけがどうであれ、俺たちは肉体の限界を超えた訓練をしたから今の強さがある。
 だが、キルスのように生身の身体ではここまで強くなることはできなかっただろう。

「はあ、はあ。アルよ、どうやったらお前に近付けるのだ。はあ、はあ。私だって限界まで鍛えてきたのだぞ?」

 キルスは間違いなく世界最高の剣士だ。
 それは人間としてだが。

「うーん。じゃあ、キルスも俺と一緒に標高九千メデルトで採掘してみる?」
「こ、この化け物め!」

 キルスが前に右手を出してきた。

「今後も手合わせを願うぞ」
「もちろんだよ。こちらこそお願いしたい」

 俺はキルスと固い握手を交わした。
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