鉱夫剣を持つ 〜ツルハシ振ってたら人類最強の肉体を手に入れていた〜

犬斗

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第十九章

第326話 宣戦布告

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世界会議ログ・フェス当日を迎えた。

 王城内の会議室に世界各国の君主が集合。
 警備はリマ率いる近衛隊と、冒険者ギルドからAランク冒険者やギルドハンターなど信頼できる者たちに依頼。

 世界会議ログ・フェスは公平を期するために、各国出席者は三人までと決められている。
 参加国は現加盟国の八カ国だ。

 ◇◇◇

 ラルシュ王国
 国王 王妃 宰相
 
 イーセ王国
 国王 宰相 騎士団団長

 エマレパ皇国
 皇帝 宰相 皇軍大将軍

 フォルド帝国
 皇帝 宰相 騎士団団長

 クリムゾン王国
 国王 宰相 騎士団団長

 ジェネス王国
 国王 王妃 宰相

 エ・ス・ティエリ大公国
 大公 騎士団団長 大司教

 デ・スタル連合国
 国王 宰相 騎士団団長

 ◇◇◇

 全員が円卓の机につく。
 円卓の直径は六メデルト。
 机の幅は二メデルトで、中心は二メデルトの空洞だ。

 この円卓はラルシュ工業製で、一枚岩の白理石で作られている。
 目の肥えた各国君主たちも驚くほどの高品質だった。

 議長となる俺が挨拶し、ついに会議開始だ。
 とは言うものの、それほど大きな議題はない。
 各国の条約の確認、特産品等の輸出入のコントロールなどを話す。

 あえて言うなら、俺の三体目の竜種討伐が問題になったくらいだ。
 さすがに各国は、俺個人の武力を脅威と感じている様子。
 だが実際に竜種の被害にあっていたヴィクトリア、キルス、帝国皇帝シルヴィアのフォローで事なきを得る。

 その後はラルシュ王国の貿易収支にも話が及んだ。
 ラルシュ王国の国土は狭く人口は少ないが、世界最大企業のラルシュ工業と、世界最大組織の冒険者ギルドを国営として抱えている。
 そのため収入は莫大だ。
 国民のほとんどは、ラルシュ工業か冒険者ギルドの職員なので税金の優遇もある。
 ラルシュ王国への移住希望者が多いと、非難の声が上がる場面もあった。
 しかし、レイとユリアが説明を行い、各国が納得せざるを得ない状況に持っていった。

「す、凄いな。完璧な理論武装で論破したぞ。この二人に口喧嘩を挑むのはやめておこう……」

 俺は誰にも聞こえないように呟き、この二人が味方で良かったと心から思っていた。
 それと同時に、俺はノルンの動向に注意。
 ノルンも俺の動きに気付いており、特に発言せず静観していた。

 会議はそろそろ終盤だ。
 俺はメイド長のエルザに合図し、冷凍室で凍らせたデザートを出してもらった。
 もちろん保冷庫の存在は秘密だ。
 それと合わせてラルシュ産の珈琲も出す。

「これはラルシュ王国でしか食べられない特別なデザートです。水角牛クワイのミルクを凍らせて作ったデザートで、アイスクリームと呼びます。ラルシュ産の珈琲と一緒にどうぞ」

 皆、アイスクリームを口に含むと、驚きの表情を浮かべた。
 俺も初めて食べた時は、正直感動したので皆の気持ちが分かる。
 これほど甘くて美味いデザートは初めてだった。

 これはマリンが考案したメニューで、実は冷凍庫にミルクを入れて凍らせてしまったミスから生まれたデザートだ。
 マリンは「私、天才ですね!」と自画自賛していたが、舌の肥えたヴィクトリアがレシピを教えて欲しいと言ったほどだ。
 本当にマリンは天才なのかもしれない。

 この休憩が終われば最後の議題に入る。
 その後、晩餐会に移行する流れだ。

「ふむ、この凍らせ方は通常では作れぬ。竜種の……リジュールの臓器を使っておるな」

 突然ノルンが発言。
 俺はその言葉を聞いて戦慄した。
 デザートを食べて、その製法として竜種の臓器を使ってるなんて、想像できるだろうか。
 ノルンの知識はどうなっているのか。

旅する宮殿ヴェルーユといい、アル陛下は竜種の臓器を有効に使いなさる」
「ノルン! 失礼であろう!」

 若き国王ウルヒ・メルデスがノルンを一喝。
 だが、ノルンは立ち上がった。

「もうよい……。もうよい。始めよう」
「ろ、老師……。御意」
「――――」

 ウルヒに対し、ノルンが聞いたこともない言葉を話す。
 俺には何を言っているのか一切分からなかった。

 するとウルヒがその場に跪く。
 それを見た大柄の騎士団団長も瞬時に跪いた。

 会場がざわつく。

「アル陛下。一週間ぶりかの。その後はどうじゃ」

 ノルンが胸まで伸びた白い顎髭を右手で擦る。
 正体を現すつもりだろう。

「皆さん、どうか落ち着いてください」

 俺は立ち上がり、両手を横に広げ、皆にそのままでいるように合図した。
 レイですら、何が起こっているのか分からないといった表情を浮かべている。

 跪いていた国王と騎士団団長が、ノルンを守るように立ち上がった。
 その目は不気味なほど白い。

「さて、世界会議ログ・フェスなんて茶番は終いじゃ。儂が宣言しよう。我がデ・スタル連合国が……世界を相手に宣戦布告する。グハハハハ」
「宣戦布告じゃと! 何を言うとる! 宰相風情が冗談を言うでない! 今ならお主の首でなかったことにしてやる! 死んでこの非礼を詫びよ!」

 クリムゾン王国の老王ロートが怒鳴った。
 さすがは老練の国王だ。
 低ランクモンスターなら震え上がるほどの、凄まじい迫力である。

「小僧はよく吠えるものじゃ」
「な! なんじゃと!」

 小僧呼ばわりされたロートが立ち上がる。

「お、落ち着いてください! ノルン! お前もだ!」

 俺は机を飛び越え、円卓の中心に立った。
 ロートとノルンに向かって手を広げる。

「グハハハハ、アルよ。貴様は分かっているじゃろうが、儂に手は出せんぞ」
「分かってる!」
「グハハハハ、聞き分けが良いのう」

 俺はノルンの言うことを聞くしかない。
 世界に生き返る毒をばら撒くと言っていたからだ。

「さて、世界の王たちよ。無能な貴様らの代わりに、我がデ・スタル連合国が世界を牛耳ろう」
「戯言を。今そなたを捕らえても良いのだぞ?」

 帝国皇帝シルヴィアが、美しくハリのある声で制する。

「グハハハハ。それはできないのじゃよ。小娘。アルの様子を見れば分かるじゃろう」

 ユリアですら恐れる本物の女帝シルヴィアを小娘呼ばわりするノルン。

「この犯罪国家風情が何を言う!」

 ジェネス王国の国王が怒鳴る。

「犯罪国家じゃと? グハハハハ、証拠はあるのか? 仮にデ・スタル連合国が犯罪国家だとしても、その国に救われる無能な世界じゃぞ。片腹痛いわ。グハハハハ」

 俺はノルンの意味深な言葉が気になった。
 すると、レイが立ち上がる。

「で、宣戦布告って何をするの?」
「さすが肝が座っておるな、レイとやら。貴様には感謝しておる。良い見本になってくれたからのう。狂戦士毒バーサルクは貴様のおかげで作ることができたのじゃよ」
狂戦士毒バーサルク?」
「そうじゃ。カル・ド・イスク、そしてリジュールの名を聞けば分かるじゃろうて」
「バ、狂戦士バーサーカー!」
「そうじゃ、生き返る毒もこれじゃ」
「ま、まさか? アルが討伐した百頭の生き返ったモンスターって……」
「理解力が高いのう。さすがじゃ。貴様は儂の下僕にしてやってもいいぞ?」

 ノルンがレイを卑しい目で見た。
 だが、これは俺を怒らせるための挑発だ。
 こいつは人に興味なんてない。

「もういい! ノルン! 説明しろ! 貴様につき合ってやる」
「偉そうに。まあ良い」

 ノルンが髭を触る。
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