鉱夫剣を持つ 〜ツルハシ振ってたら人類最強の肉体を手に入れていた〜

犬斗

文字の大きさ
171 / 414
第十章

第165話 シドの一番長い日

しおりを挟む
「レイ、食事を用意した。少しは食べろよ」

 レイは無言で、ベッドの隣に置いた椅子に座っている。
 ベッドに横たわるアル君のそばから離れない。

 アル君の心臓の鼓動は完全に止まっている。
 それはすなわち……。

 アタシも声のかけようがない。
 アル君との生活をとても楽しそうに話してくれたレイ。
 私はアル君が羨ましかった。

 アタシがレイと初めて会ったのは、もう十年近くも前だ。
 うだつの上がらない底辺冒険者だったアタシに、チャンスを与えてくれたレイ。
 アタシに生きがいを与えてくれたレイ。
 だからアタシはレイに一生ついていくと決めた。
 レイの家族として、レイと共に生きていくと決めた。

 でもそれはアタシの役目ではなかった。
 レイはアル君と出会い、夢を叶えた。
 そのアル君がレイの前で……死んでいる。

 レイはずっと泣いていた。
 涙が枯れ尽くしても泣いていた。
 すでに深夜だ。

 晴天だった天気は、夕方から雨に変わっている。
 部屋には雨の音だけが鳴り響く。
 空がレイの代わりに涙を流しているようだ。

 冒険者時代も、騎士団時代も、大勢の仲間が死んでいった。
 悲しいことだが、レイはいつでも気丈に振る舞っていた。
 たった一度だけ泣いたレイを見たことはあるが、これほどまでに憔悴したレイは見たことがない。
 人目をはばからず泣くレイ。
 見てられない。
 とても悲しい夜だ。

 すると、ドアが軋む音が部屋に響いた。

「誰だ!」

 アタシは剣の柄を握ると、ずぶ濡れの男が入ってきた。
 レイはアル君から目を話さない。
 全く周りを警戒しないレイを見るのは初めてだ。

「な、なんだ。シ、シド様か?」
「リマか」
「こ、こんな時間にどうしたんです?」
「ジル・ダズ卿からここにいると聞いてな。アルの様子を見にきた」

 部屋に入ってきたのはシド様だった。
 その後ろには、ずぶ濡れのエルウッドもいる。
 シド様が来ても、レイはアル君から目を離さない。

「レイ、オルフェリアの峠は越えたよ。ひとまず大丈夫だ」
「そう。良かったわ」

 レイはアル君を見つめている。
 だが視線はうつろだ。
 悲しげな雨の音だけが部屋に響く。

「アルの様子はどうだ?」
「シド……。ねえシド……。アルが起きないのよ。ずっと寝てるの。シド、アルを起こして? 親友でしょ?」

 レイの顔には、枯れ果てた涙の跡しかない。
 干上がった川のように乾燥し、肌がひび割れている。
 ここ最近の寝不足もあるのだろう。
 顔からは血の気が消え失せている。
 あの美しかった顔が、見るに堪えない顔に変わり果てていた。

 生きる気力すら感じない。
 アタシはレイが心配で仕方がない。
 この絶望した姿を見ると、アル君の……後を追うのではないかと。

「ねえシド。アルはもう起きないの? ねえシド、教えてよ」

 椅子に座り、うつむくレイ。
 膝の上に置いた手を握りしめている。

「アルは……アルは……」

 もう涙すら出ない嗚咽。

「ア、アルは……し……し……」

 声を絞り出す。

「し……し……死んじゃったの?」

 レイから初めて死という言葉が出た。
 これまで認めたくなかったのだろう。
 だがレイも本当は分かっているのだ。
 冒険者として、騎士として、幾人もの死を見てきた。
 シド様の言葉で、現実を受け入れるつもりだ。
 レイから死という言葉が出て、アタシも涙が止まらない。
 シド様はそんなレイを見つめる。

「バカなことを言うな! アルが死ぬわけないだろう!」
「え?」

 シド様の表情には、絶望なんて微塵も感じられない。
 レイの横に立つシド様は、アル君の顔を指差す。

「見ろ、気持ち良く眠っているだけじゃないか! 私はこの寝坊助を起こしに来たのだ!」
「え? え? で、でも」

 混乱するレイの肩に、シド様はそっと手を乗せる。

「すまないレイ。遅くなったのはエルウッドを探していたのだ。エルウッドも相当ダメージを負っていてな。戦いの場から離れたところで倒れていた」
「クウウウン」

 エルウッドがレイにすり寄る。
 レイは自然な動きでエルウッドの頭を撫でた。

「ウォンウォン!」

 エルウッドがアル君に向かって吠えた。

「エルウッド、もう少しだけ頑張ってくれ」
「ウォン!」

 エルウッドの角が光る。

「こ、これは雷の道ログレッシヴ?」

 アタシは一度、王都での事件で見たことがある。
 エルウッドが雷を帯びたような状態になったことを。

「レイ、リマ、離れていろ」

 アタシはレイを立たせ、その小さな両肩を抱きかかえてベッドから離れた。
 エルウッドがベッドに飛び乗り、アル君の顔を舐める。
 シド様がアル君の胸を指差す。
 
「そもそもアルの心臓の鼓動は遅いのだ。だから動いてるかどうかも分からん。本当に困った親友だ。なあ、エルウッド」
「ウォンウォン!」
「エルウッドも世話が焼けると言っているぞ。さあ、アルよ。起きるがよい」

 エルウッドの角が光を帯びて、稲妻のような音を発している。

「ウォン!」

 エルウッドがアル君に声をかけた。
 まるで起きろと言わんばかりだ。
 そして、アル君の心臓の位置を角で触れる。
 すると一瞬だけ激しい雷の音が発生し、アル君の身体が大きく跳ねた。
 その様子を見て、シド様が安堵の表情を浮かべる。

「ああ、今日はなんて長い一日だったのだろう。本当に疲れたぞ。私はオルフェリアの元へ帰る。あとはよろしく頼むぞ」
「シ、シド。アルは? アルは起きるの?」
「当たり前だ。寝ているだけだと言っただろう。だが少しばかり深い眠りだ。数日は起きないかもしれないがな。では頼んだぞ。ハッハッハ」

 シド様が笑いながら部屋を出て行った。

 アタシは見逃さない。
 シド様の頬に伝わる一滴の雫を。
 濡れた髪から滴り落ちたのか。
 それとも。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

追放された最強ヒーラーは、美少女令嬢たちとハーレム生活を送る ~公爵令嬢も義妹も幼馴染も俺のことを大好きらしいので一緒の風呂に入ります~

軽井広@北欧美少女 書籍化!
ファンタジー
白魔道師のクリスは、宮廷魔導師団の副団長として、王国の戦争での勝利に貢献してきた。だが、国王の非道な行いに批判的なクリスは、反逆の疑いをかけられ宮廷を追放されてしまう。 そんなクリスに与えられた国からの新たな命令は、逃亡した美少女公爵令嬢を捕らえ、処刑することだった。彼女は敵国との内通を疑われ、王太子との婚約を破棄されていた。だが、無実を訴える公爵令嬢のことを信じ、彼女を助けることに決めるクリス。 クリスは国のためではなく、自分のため、そして自分を頼る少女のために、自らの力を使うことにした。やがて、同じような境遇の少女たちを助け、クリスは彼女たちと暮らすことになる。 一方、クリスのいなくなった王国軍は、隣国との戦争に負けはじめた……。

【鑑定不能】と捨てられた俺、実は《概念創造》スキルで万物創成!辺境で最強領主に成り上がる。

夏見ナイ
ファンタジー
伯爵家の三男リアムは【鑑定不能】スキル故に「無能」と追放され、辺境に捨てられた。だが、彼が覚醒させたのは神すら解析不能なユニークスキル《概念創造》! 認識した「概念」を現実に創造できる規格外の力で、リアムは快適な拠点、豊かな食料、忠実なゴーレムを生み出す。傷ついたエルフの少女ルナを救い、彼女と共に未開の地を開拓。やがて獣人ミリア、元貴族令嬢セレスなど訳ありの仲間が集い、小さな村は驚異的に発展していく。一方、リアムを捨てた王国や実家は衰退し、彼の力を奪おうと画策するが…? 無能と蔑まれた少年が最強スキルで理想郷を築き、自分を陥れた者たちに鉄槌を下す、爽快成り上がりファンタジー!

S級パーティを追放された無能扱いの魔法戦士は気ままにギルド職員としてスローライフを送る

神谷ミコト
ファンタジー
【祝!4/6HOTランキング2位獲得】 元貴族の魔法剣士カイン=ポーンは、「誰よりも強くなる。」その決意から最上階と言われる100Fを目指していた。 ついにパーティ「イグニスの槍」は全人未達の90階に迫ろうとしていたが、 理不尽なパーティ追放を機に、思いがけずギルドの職員としての生活を送ることに。 今までのS級パーティとして牽引していた経験を活かし、ギルド業務。ダンジョン攻略。新人育成。そして、学園の臨時講師までそつなくこなす。 様々な経験を糧にカインはどう成長するのか。彼にとっての最強とはなんなのか。 カインが無自覚にモテながら冒険者ギルド職員としてスローライフを送るである。 ハーレム要素多め。 ※隔日更新予定です。10話前後での完結予定で構成していましたが、多くの方に見られているため10話以降も製作中です。 よければ、良いね。評価、コメントお願いします。励みになりますorz 他メディアでも掲載中。他サイトにて開始一週間でジャンル別ランキング15位。HOTランキング4位達成。応援ありがとうございます。 たくさんの誤字脱字報告ありがとうございます。すべて適応させていただきます。 物語を楽しむ邪魔をしてしまい申し訳ないですorz 今後とも応援よろしくお願い致します。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

処理中です...