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第十章

第166話 目覚め

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 目を開けると建物の天井が見えていた。

 こんなところで寝た記憶がないのだが、どうやらベッドで寝ていたようだ。
 ふと横を見るとレイがいる。
 ベッドの隣に置いた椅子に座り、俺の手を握っていた。

「あれ? レイ、どうしたの?」
「アル! アル!」

 レイが泣きながら抱きついてきた。
 そこにはヴィクトリア女王陛下を始め、リマやジルもいた。

「ウォンウォン!」

 エルウッドの声も聞こえる。

「アル! アル!」

 レイは俺に抱きついて離れない。

「ちょ、ちょ、ちょっと! み、皆の前だよ!」
「アル! アル!」

 女王陛下がレイの肩をさする。

「レイ、本当に良かったわね」

 女王陛下の瞳からも涙が溢れていた。
 レイは俺から離れ、陛下の前に立つ。
 二人は目を閉じ、涙を流しながら抱き合った。

「ヴィクトリア、ありがとう」
「レイ。本当に……本当に良かったわね」

 一体何が起こっているのだろう……。
 俺は上体を起こす。
 すると、今度は陛下が俺に抱きついてきた。

「アル、無事で良かったわ」
「へ、陛下!」

 陛下が俺に抱きつくなんて、あってはならないことだ。
 どうしていいのか分からず固まる。

「竜種からこの街を守ってくれて、本当にありがとう」

 陛下の言葉で我に返った。
 そうだ、俺は竜種ヴェルギウスと戦っていたんだ。
 最後に弓を放ったところで、俺の記憶は途切れている。

「あの、ヴェルギウスはどうなったんですか?」

 陛下は一旦離れ、椅子に座る。
 そして御自ら説明してくれた。
 俺が戦っている様子を見ていた騎士がいたそうで、その騎士から一部始終説明を受けたとのこと。

「あなたはヴェルギウスの尻尾の打撃を防御し、火球に耐え、最後は弓でヴェルギウスを攻撃したのよ」
「その記憶はあります。ヴェルギウスの尻尾の打ち下ろしは強烈でした。火球の破壊力は凄まじく、全身が破壊されるかと思いました。実際、俺の腕は骨折してます」
「ええ、そうね。あなたは満身創痍だったわ」

 俺は自分の両腕を見る。
 骨折の治療のための固定器具がつけられていた。

「あなたは弓の攻撃と引き換えに、尻尾の打ち下ろしを受けたのよ。それも無防備で」
「はい、それしか方法がありませんでした」
「分かってるわ! 分かってるの! ……でも、自分を犠牲にするのはやめなさい」
「は、はい。すみませんでした」

 陛下の声に怒りの感情が含まれていた。

「あなたの弓の攻撃は、ヴェルギウスの眼球を撃ち抜いたわ」
「ほ、本当ですか」
「ええ、ヴェルギウスは右目を潰され街を去ったの。目撃した騎士によると、ヴェルギウスは激昂したようだけど、それ以上にダメージがあったようね。ふらつきながら火山へ飛び去ったわ」
「そうでしたか。……あの弓で右目を潰していたのか」
「アル。改めてイーセ王国国王として、あなたに感謝します」
「あ、いや、その……」

 陛下から直接感謝されてしまい俺は困惑した。

「ふふふ、素直に受け取りなさい。あなたは人類で初めて竜種を撃退したのよ」

 レイの声がいつもと同じトーンに戻っていた。
 そして、俺の顔を笑顔で見つめる。
 涙の跡があり目は腫れていた。
 それでもレイの美しい顔は変わらない。

「アル、あなたはヴェルギウスと戦ってから一週間寝ていたわ。ヴィクトリアもあなたが起きるのを待っていてくれたの」
「そんなに! 陛下、大変失礼しました」

 陛下が俺の手を握った。

「何を言うのアル。あなたのおかげで、この街も騎士団も守られたのよ。本当に感謝しているわ。今回私たちはあなたにクエストを依頼してるけど、王国としてまた改めてお礼をするわね。本当にありがとう」

 後ろに立つジルも俺にお辞儀をした。

「我々はこの目でヴェルギウスを目撃し、改めて竜種は国家を危機に陥れる存在と認識しました」
「はい、ネームドなんて比べ物にならないほどの強さでした」
「実際にネームドを討伐しているアルさんが言うと、説得力がありますね」
「ええ、正直あれほど強いとは。モンスターに負けたのは初めてです……」
「何をおっしゃいますか。人類で初めて竜種の撃退ですよ。引き分け以上、いや、勝ちと言っても過言ではありません」

 皆が同じように頷く。
 続いてジルはレイの顔を見た。

「レイ様、女王陛下は明日王都へ戻りますが、私とリマはアルさんたちがクエストを完了させるまで、サルガに残り陣頭指揮を取ります」
「騎士団団長が残ってくれるのは心強いわ。でもリマも? ヴィクトリアの警護は?」
「はい、リマが帰還するまで近衛隊は、ハウ一番隊隊長に兼任していただきます。これはもはや国家の戦いです。レイ様も今後は騎士団のことを考えず、クエストに専念していただきます」
「分かったわ。ありがとう」

 その後も少しだけ今後の騎士団運営について話していた。

「さて、それでは私たちは行きましょう。レイ、私は明日王都に帰るから見送ってね。アルは無理しないように」
「分かったわ、ヴィクトリア」

 陛下、ジル、リマが退室。
 部屋に残るのはレイとエルウッド。
 レイがベッドの横に椅子に座り、俺の手を取る。

「アル、身体は大丈夫?」

 改めて確認すると、腕には固定器具、頭も包帯が巻かれていた。
 だが痛む場所はない。
 身体は問題ないようだ。

「うん、大丈夫だよ」
「本当に良かった……」

 少しの静寂。
 レイの瞳には薄っすら涙が浮かんでいた。

「……アル。私はね、今回のことで分かったことがあるの」
「何が分かったの?」

 レイが真っ直ぐ俺を見つめる。
 何かを決意したような真剣な表情だ。

「あなたがいないと生きていけない。生きる意味もない。もう二度とあなたから離れない。生きるのも死ぬもの一緒よ」
「そ、それは嬉しいけど……俺はレイに生きて欲しい」
「分かってる。でも無理なの。もう絶対にあなたから離れない。絶対に。私はあなたと運命を共にするわ」

 レイが唇を重ねてきた。
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