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第十章

第157話 ヴィクトリア女王陛下

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 昼前になり、予定通り現騎士団団長のジル・ダズと、ヴィクトリア女王陛下がサルガに到着。
 復興に当たる騎士団十番隊、隊長イゴル・コロフ、名誉団長リ・テインのレイが出迎えている。
 俺とオルフェリアも様子だけ見に来ていた。
 シドは興味がないと寝台荷車キャラバンで休んでいる。

 女王陛下が馬車を降りると、最敬礼で出迎える騎士団。
 一糸乱れぬ動きは圧巻だった。

 レイが陛下の元へ近付く。
 騎士団を代表して直接出迎えるのだろう。
 だが陛下は、レイが出迎えの声をかける前に右手を上げ制した。

「レイ! 今は緊急事態! 小言はいらない! 対応はいつもと一緒で!」

 陛下はさらに続けて、レイに向かって勢いよく話しかけた。

「今回は偶然とはいえ、名誉団長リ・テインの責務を果たしてくれて感謝しています。もう一度言うわ。小言はいらない! 応対もいつもと一緒で!」
「もう、分かったわよ。ヴィクトリア。よく来てくれたわね」
「国家の危機だもの。詳細は後ほど報告して」
「分かったわ」

 どうやら騎士団も、レイと陛下が友人関係にあることを知ってるようだ。
 イーセ王国で唯一、陛下と同等に話すことができるレイだった。

 現団長のジル・ダズがレイに敬礼する。

「レイ様、この度は誠にありがとうございます」
「ジル・ダズの代わりが出来たか分からないけど、いくつか団長権限を使わせてもらったわ」
「私以上のお方が何を仰いますか。感謝しております」

 ヴィクトリア女王陛下とジル・ダズは俺も面識があるのだが、もう一人見た顔がいる。
 近衛隊隊長のリマ・ブロシオンだ。

「どうしてリマもいるの?」
「え? アタシは近衛隊隊長だぞ? 陛下の護衛に決まってるだろ?」
「王都はどうしてるのよ?」
「一番隊隊長のハウ様が見てくださっている。それもこれもレイが犯罪組織の進出を防いだからだよ。おかげで今は自由に動ける」
「そうなのね。良かったわ」

 その時、陛下が俺に気付いた素振りを見せた。

「アル! エルウッド! 会えて嬉しいわ!」

 陛下に名前を呼ばれてしまった。
 緊張しながらも最敬礼をする。

「お、お久しぶりです。ヴィクトリア女王陛下」
「ウォン!」

 エルウッドが陛下の元へと歩み寄るので、俺もそれに続く。
 何人かの側近が止めようとするも、レイが制する。

 エルウッドが陛下の足元で尻尾を振っている。
 かがんでエルウッドに抱きつく陛下。

「エルウッド、元気だった?」
「ウォウウォウ!」
「もう本当に可愛いわね」

 陛下がそのまま俺の顔を見上げた。

「エルウッドもアルも王都へ引っ越しなさい。歓迎するわよ」
「それは大変光栄です。ですが、私はレイと冒険者を続けます。レイと一生を共にする所存です」
「あらあら、アルもそういうことが言えるようになったのね。うふふふ、久しぶりに会ったけど、本当にいい男になったわ。はあ、もったいない」

 側近たちがざわめいた。
 女王陛下が冒険者のことを異性として見る発言なんて、あり得ないことだ。
 レイの顔を見ると、表情が引きつっている。

「ヴィ、ヴィクトリア女王陛下、お戯れが過ぎますわよ?」
「もう、レイは冗談が通じないのね。やだやだ」

 今、絶対にレイの眉間の血管が動いた……。

 挨拶が終わり、用意していた陛下の執務室へ移動。
 俺もオルフェリアも招待された。
 簡易的なテーブルと椅子が用意されており全員着席する。

「ちょっと! ヴィクトリア! 臣下の前であんなこと言うなんてどうかしてるわよ!」
「うふふふ、いいじゃないの。ちょっとレイが羨ましくてね。ごめんなさいね」
「全くもう……」
「それよりも改めてお礼を言わせて。名誉団長リ・テインの責務を果たしてくれて本当にありがとう」
「緊急事態だもの」

 ジル・ダズもレイにお辞儀をした。

「レイ様、本当にありがとうございます」
「いいのよ。でもここまでよ。ここからは現団長に任せるわ」
「かしこまりました」

 部屋には陛下、ジル・ダズ、リマがいる。
 こちらはレイ、俺、オルフェリア、エルウッド。
 そしてなぜかシドが来ていた。
 陛下がシドの顔を見る。

「まさかシド様がいらっしゃるとは。驚きました。どうしたのです?」
「いやなに、知っての通り私はギルマスを退職しましてね。アルのパーティーに運び屋として参加しているのですよ、ヴィクトリア女王陛下」
「シド様が冒険者のパーティーに参加? いくらレイとアルのパーティーとはいえ信じられません」
「ハッハッハ。それほどこのパーティーには価値があるということです」

 シドと陛下が普通に話す姿を見て、その場の全員が驚いた。
 レイなんて目を見開いてシドの顔を見ている。

「ヴィクトリアとシドって顔見知りなの?」
「当たり前だろうレイ。私は世界最大組織の元マスターだぞ。君も敬意を払いたまえ」
「ああそう」

 シドの発言を聞き、一瞬で興味を無くしたレイ。

「うふふふ。国家の君主はね、全員シド様と面識があるのよ。ギルドは世界中に土地を保有しているし、実は王国の土地もいくつかギルドが所有者になっている場所があるのよ」

 陛下がフォローしてくださったことで、俺は改めてシドとギルドの凄さに驚いた。
 シドは気にせず全員を見渡す。

「さて、ヴィクトリア陛下やジル・ダズ卿もいらっしゃるので、私からいくつか報告してもよろしいでしょうか?」
「ええ、シド様。お願いしますわ」

 シドは直請けクエストで調査した結果を伝えた。

 竜種ヴェルギウスによる襲撃の根拠となる被害状況、落ちていた鱗、爪痕、火球などシドは包み隠さず報告。
 その報告を聞いた陛下は顔面蒼白だ。

「や、やはり竜種だったのですね。しかもヴェルギウスとは。私もここへ来る途中、王国のモンスター資料を読みました。シド様、ヴェルギウスって竜種でも相当凶暴なのでしょう?」
「ええ、そうです。帝国の歴史資料では千年前にも当時の大都市を壊滅させたと残っているはずです」
「それにしても、なぜ今回突然襲ってきたのでしょうか?」
「それは分かりません。今後はそれらを含めて調査、追跡します。そのことで陛下にお願いがあります」

 シドが珍しく神妙な表情で、陛下を真っ直ぐ見つめた。
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