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第十章

第158話 交渉

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 その場に緊張感が走る。

「シド様、お願いとは何でしょうか?」
「私たちアルのパーティーは、ヴェルギウスの討伐を試みます」
「え! ヴェルギウスの討伐? そ、そんなことができるのですか!」
「やるしかないのです。このままでは、王国は再度ヴェルギウスに襲撃されるでしょう。サルガの壊滅で満足したとは思えません」
「つ、次の街に行くということですか?」
「その可能性は非常に高いですし、再度サルガを襲撃することも考えられます。ですから、根本を断つ必要があります」

 陛下は驚きつつも、毅然とした表情へと変わった。

「シド様、我が国には世界最強のクロトエ騎士団があります」
「ええ、存じ上げております」
「ジル・ダズ率いる騎士団で、竜種討伐はできないのでしょうか?」
「正直に申しましょう。それは現実的ではありません。人数が増えれば増えるほど被害が大きくなるだけですし、統率も難しくなります。竜種やネームドのような特別なモンスターは、少数精鋭が最も効果的です。騎士団にも優秀な人材はおりますが、失礼ながらアルとレイ以上にモンスター討伐ができる人間はいないと愚考します」
「わ、分かりました」

 部屋に静寂が訪れた。
 陛下は少し考えた表情だったが、シドの言うことを全て受け入れたようだ。

 シドは自らお願いがあると陛下に問いかけつつ、そのお願いとやらをはぐらかし、陛下の質問に答えず会話をコントロールしている。
 シドが長年培った話術だろう。
 完全に会話の主導権を握ったシド。

「そして、お願いとはその際の報酬についてです」
「報酬ですか?」
「左様でございます。まず、ヴェルギウス討伐はイーセ王国からの依頼としてください。討伐報酬は金貨十万枚、さらに討伐した際の素材は全てこちらでもらい受けます」

 場がざわついた。
 十万枚という超法外な金額だ。
 いくら大国のイーセ王国とはいえ、そんな金額を払えるのだろうか。

「金貨十万枚とヴェルギウスの素材を全てですか?」
「ええ、そうです。そして、ここからが本題です」
 
 あまりにも話が大きすぎて、俺は驚いて言葉も出ない。

「まずアフラ火山の麓、無国家地帯に私たちパーティーの土地保有を主張します。そこにヴェルギウス討伐のための基地を作ります。ヴェルギウス討伐は何度もチャレンジする必要があるからです。そして、私たちの土地の資源は私たちが所有します。それらについて、世界会議ログ・フェスでイーセ王国にご協力をいただきたいのです」

 あまりに壮大過ぎる話で、不安そうな顔をしている陛下。
 助けを求めるかのようにレイの顔を見た。
 レイは笑顔で陛下の顔を見つめ返す。

「ヴィクトリアの心配は分かるわよ。そうね、まず竜種だけど、私たちが討伐に成功したら、王国はたった金貨十万枚で国家レベルの安全を買ったことになる。騎士団総動員に比べたら、比べ物にならないほどの低予算よ。もし討伐に失敗しても王国に一切の損失はない。そもそも人類は竜種を討伐したことがないのだから、改めて討伐を検討すればいいでしょう。竜種の素材についても、始めから王国内にはなかった物だわ。そう考えるとこの金額は破格でしょ?」
「ええ、理解したわ」
「次にフラル火山の土地ね。ここも無国籍地帯なので王国の損失はない。世界会議ログ・フェスで私たちの所有を承認するだけよ。むしろその土地を開拓する際に、王国で莫大な資金を使う。恐らく討伐報酬の金貨十万枚は全て使うと思うわ。さらにサルガが復興したら交易を行うでしょう。王国経済にとってメリットしかないわね」
「分かったわ」
「最後に資源についてね。……ヴィクトリアには伝えるけど、私たちは新しい技術のために資源が必要なのよ。もし上手く行った際には必ずイーセ王国にも技術の享受がある話なの。今はこれしか伝えられないけど、私を信じて」
「ありがとうレイ。全て理解したわ」

 レイの説明で陛下も納得した様子だ。
 すると、シドが陛下に向かって頭を下げた。

「ヴィクトリア女王陛下。説明が足りなかったご無礼をお許しください」
「何を仰いますか。しっかりと王国のことまで考えてくださり感謝しますわ」

 話がまとまったところで、レイがシドに目を向けた。

「そうだシド。ここまでの調査報酬を支払うわ。直請けクエストだからギルドへ半額納めるけど、こちらでやっておく?」

 直請けクエストは、報酬金額の半額をギルドへ納める必要がある。
 その際、調査機関シグ・ファイブが不正の有無を調査するのだった。

「そうだな。今はサルガのギルドも壊滅しているし、そちらでやってもらえると助かる」
「分かったわ。じゃあ後ほど金貨五枚支払うわね」
「ありがとう」
 
 その後も少し打ち合わせをして、俺たちは退室。
 レイだけは執務室に残った。
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