鉱夫剣を持つ 〜ツルハシ振ってたら人類最強の肉体を手に入れていた〜

犬斗

文字の大きさ
上 下
162 / 414
第十章

第156話 ヴェルギウスの力

しおりを挟む
「丸い岩? 空から降ってきのか?」
「うむ、そうだ。これもヴェルギウスの仕業だ」
「え! これが?」
「ヴェルギウスの住処が火山ということは説明したな。ヤツは溶岩を体内に溜めることができる。攻撃時にはそれを丸く固めて吐き出す」
「溶岩を吐き出す?」
「そうだ。火球となった超高温の岩を吐き出すのだ。家屋に当たれば火災が発生するし、人間に当たれば一瞬で死ぬ。私もそれで殺されたことがあるからな」

 シドは以前、ヴェルギウスに殺されたことがあると言っていた。

「ヴェルギウスは火球や鉤爪の他にも、強力な尻尾の攻撃も繰り出す。そして奴の身体は、溶岩でも溶けない頑丈な鱗で守られている」

 それを聞いたオルフェリアの表情が、恐怖で青ざめていた。

「そ、そんなモンスターを倒せるのですか!」
「倒すしかないのだ。竜種と和解なぞないからな」

 オルフェリアは黙ってしまった。

「今は何も思いつかない……。だけど、俺はヴェルギウスに負けないよ。そのために調査をしっかり行おう」
「そうだな。アルの言う通りだ」

 その夜、レイと合流し情報の擦り合わせを行った。
 今回の襲撃は深夜に行われたそうだ。
 寝ていた人々は逃げ遅れ、人口二万人のサルガ市民は約一万七千人が死亡。
 冒険者ギルドのサルガ支部も壊滅。
 街に滞在していた冒険者約三千人はほぼ全員死亡していたそうだ。
 ここまでの被害は千年の歴史を持つ王国史にもないとのこと。

「レイ、やっぱりヴェルギウスの襲撃で間違いないよ」
「本当に竜種の襲撃なのね……」

 俺はレイに調査結果を伝えた。
 レイの表情は重く、少しうつむいた状態でシドに目を向ける。

「シドはどうするつもりなの?」
「もちろん予定通り火山へ行く。だが、今すぐではない。補給をしなければならないからな。現状では無理だろう」
「そうね。サルガの復興は時間がかかるわ。それに現団長が来てから相談するけど、この街をどうするかも決めなければならない。しかも女王陛下までこちらに向かってるそうよ。警備のことを考えると頭が痛いわ」
「なに? ヴィクトリア女王陛下が! それは大変だな」
「シドだって大変じゃないの? サルガのギルドは壊滅したでしょ?」
「ふむ、そうだな。ギルドも建て直さなければならないが、まあそれは私の仕事ではない。とはいえ、総本部へ指示は出すし協力はするがな」

 翌日も入念に調査。
 レイは相当忙しく、寝る暇もないほど動き回っていた。
 シドはギルドの総本部へ連絡を取り、ギルド復興を指示。

 そのため、俺とオルフェリアとエルウッドで調査を進めていた。
 ひたすらヴェルギウスの痕跡を探し回り、拾った鱗の数は十枚、火球を二つ発見。

 サルガ到着から九日が経過。
 予定では明日、王都からヴィクトリア女王陛下一行が到着する。
 日が落ちたところで、レイが寝台荷車キャラバンに帰ってきた。
 ここ三日ほど戻って来なかったので、余程忙しかったのだろう。

「アル、お願いがあるの」
「どうしたの?」
「お風呂を準備してもらえるかしら。明日はヴィクトリアが来るから少し身だしなみを整えないと」
「分かった。でも、レイ大丈夫? 寝てないでしょ?」
「ありがとう。緊急事態だもの仕方がないわ。ただ、今日はイゴルが休めって時間をくれたの。明日まで少しゆっくりするわ」

 救援物資は豊富にあり、水も十分確保できていた。
 俺たちキャラバンも水を補給されていおり、二日に一回は風呂に入っている。
 この復興中に最も怖いものは疫病とシドが言っていたからだ。
 風呂嫌いのシドでさえ風呂に入っていた。

「私は疫病でも死なないが、他人に移す可能性はあるからな」

 シドの言葉を思い出しながら、荷台で組み立て風呂を準備。
 風呂が沸いたのでレイに声をかけようとすると、寝台で寝ていた。

「レイ、風呂が沸いたよ」
「え、あ! ご、ごめんさない。寝てしまったようね」
「風呂に入ったらすぐ寝て。後のことは全部やっておくから。俺はレイの身体が心配だよ」
「ふふふ、ありがとう。アルは優しいわね。好きよ」
「あ、いや……」

 レイが軽くキスをしてきた。
 レイが弱音を吐くことはないが、今の姿を見ると精神的に相当疲れているのだろう。
 俺にできることなら何でもやろうと思った。

 風呂から出るとレイはすぐに就寝。
 翌朝、朝食も取らずに騎士団の本部へ向かった。
 折りたたみキッチンで朝食を作っているオルフェリアが、心配そうな表情を浮かべている。

「レイは大丈夫ですかね」
「ほとんど寝ないで様々な案件を指示してるみたいだよ」
「騎士団団長ってもっと華やかな世界だと思っていましたが、レイの姿を見ると本当に大変な職業なんですね」

 すると珍しく寝ていたシドが、寝台のベッドから起きてきた。

「まあ、レイの処理能力は特別だからな。冒険者ギルドで最高と呼ばれる人事機関シグ・フォーユリア・スノフ局長や、格付機関シグ・エイトマリシャ・ハント局長の能力を超える。人類でもトップレベルは間違いない」
「それほどなんですか? ユリア様はギルドの頭脳と呼ばれてますし、マリシャ様は若くして天才集団のシグ・エイトの局長になるほどで、悪魔のペンと呼ばれてますが……」
「そうだな。彼女たちも恐ろしいほど優秀だが、それでもレイが上回っているだろう。若干二十一歳で王国騎士団団長になったのだぞ? その年齢で厄介な元老院や貴族、宮廷の猛者共を圧倒していたのだからな。ハッハッハ」

 レイの優秀さは十分知っている。
 だが、優秀だからといって不死身ではない。
 睡眠は人の生活で最も大切な要素だ。
 不老不死のシドですら、三日に一回は寝なければ辛いというのに。
 未曾有の事件とはいえ、レイが倒れてしまったら竜種どころの話ではない。

 俺にとって、レイとエルウッドは何よりも大切な存在だ。
 レイがいない世界なんて考えられない。

「エルウッド、レイは大丈夫かな」
「クゥゥン」

 エルウッドも心配していた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果

安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。 そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。 煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。 学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。 ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。 ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は…… 基本的には、ほのぼのです。 設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

処理中です...