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第三章
第50話 討伐
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小隊は霧大蝮が住み着いている洞窟に到着した。
「アル、これから討伐に入る。気をつけて」
「ああ、分かった」
レイが声をかけてくれた。
俺にとって初めてのモンスター討伐だ。
正直緊張している。
トレバーが指示を出し、討伐隊が陣形を組む。
俺とレイと四人の騎士が、洞窟の入り口から約三十メデルトほど離れて弓を用意。
そして篝火台を用意し、燃石に火をつける。
「アル、練習通りにやれば大丈夫よ」
「ありがとう」
初めての討伐で、初めての弓の実戦だ。
俺は大きく深呼吸し、心を落ち着かせる。
「レイ様、ではこれからネーベルバイパーを誘い出します」
「トレバー! 決して無理するな。無事を祈るぞ」
「ハッ! お気遣い感謝いたします」
トレバーがレイに報告を行い、防毒マスクを装着し洞窟へ入った。
最も危険な任務を小隊長であるトレバーが行う。
トレバーが洞窟に入っている間、誰も言葉を発さない。
ネーベルバイパーの猛毒は一瞬で人の命を奪う。
ここにいる全員がトレバーの無事を祈っている。
どれほどの時間が経っただろう。
篝火台の炎が弱まり、騎士が燃石を追加。
そのタイミングで、トレバーが洞窟から走って出てきた。
無事に出てきたトレバーに全員が安堵。
「全員、構え!」
トレバーの号令で、騎士たちは篝火台の火に矢を入れる。
燃える石の燃石で作られた鏃は、すぐに火がつく。
トレバーも弓を用意。
あれだけ走った後でも、弓を構えると呼吸は落ち着いた様子。
さすがはクロトエ騎士団の小隊長だ。
これで弓担当の七人が揃った。
ネーベルバイパーの鱗は硬い。
そのため、何度も繰り返し火矢を放ち、鱗を焼き、矢を通りやすくする。
そして焦げた鱗へ、さらに火矢を集中して狙う。
この作戦の欠点は、周囲に火が移りやすく、消火隊が必要になることだ。
しかし、現状ではネーベルバイパーの討伐はこの方法のみ。
ネーベルバイパーの討伐は大所帯かつ長期戦で、人員も資金も必要になる大変なものだった。
洞窟から、巨大な物体の這いずる音が聞こえる。
ゆっくりとネーベルバイパーが出てきた。
全体は見えないが、恐らく十メデルト以上あるだろう。
「こ、これが霧大蝮。銀目蛇の何倍あるんだ……」
樹海で遭遇する大型の毒蛇、銀目蛇。
体長二メデルトほどで、俺が見た中では最も大きい蛇だった。
だが、ネーベルバイパーは比較にならないほど大きい。
洞窟から威嚇するように、ゆっくりと頭を出すネーベルバイパー。
二つに割れた長い舌が不気味に動く。
夜行性のため、日中に起こされたことで怒っているようだ。
俺たちの姿を認識した瞬間、頭部から霧状の体液を噴射。
その霧は猛毒だ。
トレバーが号令をかける。
「射よ!」
俺以外の六人の弓から一斉に火矢が飛ぶ。
放たれた六本の矢は硬い鱗に弾かれたが、全ての矢が頭部の中心に当たっていた。
さすがは全員弓が得意な騎士だ。
俺は初めての討伐で緊張してしまい、もたついてしまった。
弓の扱いにも慣れておらず、少し遅れて皆が狙った眉間めがけて矢を放った。
唸る火矢。
明らかに他者とは違う速度。
空気を置き去りにする勢いで、火が消えかかっていた。
矢は眉間に命中。
その瞬間、凄まじい破裂音が発生。
眉間を貫き、後頭部を爆発させたかのように弾き飛ばした。
「やった!」
ネーベルバイパーがその場に崩れ落ちると、地面を揺らし砂埃が舞い上がった。
俺は手応えを感じ、レイの顔に目を向ける。
レイたち六人は次の矢を構えていたが、第二矢が飛ぶことはなかった。
それどころか、皆信じられないものを見たという表情を浮かべている。
広がる静寂。
「う、うおー! 倒したぞ!」
「倒したぞ!」
「やったぞ!」
静寂を破った隊員たちの歓喜の声が、小隊全体に広がる。
しかし、レイだけはなぜか怒った顔で近寄ってきた。
「あ、あなたデタラメにも程があるわ! たった一矢でネーベルバイパーを仕留めるなんて聞いたことがないわよ! 私たちの努力は一体なんだったのよ! 火矢の意味がないじゃない!」
「いや、そんなこと言われても……」
腰に両手を当て怒っているレイ。
「レ、レイ様。私も信じられません……」
トレバーまで怪訝な表情を浮かべている。
検死チームがゆっくりとネーベルバイパーへ近づく。
俺たちは改めて弓を構える。
もし生きていたら、すぐに矢を放つ必要があるからだ。
検死チームは慎重にネーベルバイパーの身体を確認。
ネーベルバイパーは死んでも毒が残っている。
死ねば毒が作られることはないが、死ぬ前までに作られた毒は体内に蓄積されているそうだ。
毒処理チームが慎重に毒を処理。
その間もネーベルバイパーが動くことはなかった。
全ての処理が完了し、ネーベルバイパーの討伐宣言が出された。
再度騎士たちが歓声を上げる。
歓声の中、レイはまだ腑に落ちない様子だ。
「もう、本当にデタラメなんだから!」
「アッハッハ、凄いですぞ! レイ様、こんな討伐は見たことも聞いたこともありません」
「そうでしょうね。ネーベルバイパーを一矢で倒したなんて、過去の事例でもないし、言っても誰も信じないわ」
「でも、私たちは目撃しました!」
「そうね。ひとまず、負傷者も犠牲者も出なかったことを喜びましょう」
皆が喜ぶ中、モンスターを倒したのに怒られた俺だった。
――
現地での処理が完了し、小隊は駐屯地へ帰還。
俺とレイは隊長室に呼ばれた。
「レイ様。どうやら、あのネーベルバイパーは捕獲されていたようです。体中に杭が打たれた傷跡や、太い鎖が巻かれていた痕跡が見つかりました。また、毒を絞り出していたような形跡もありました」
「犯罪組織が捕獲した個体が逃げ出した?」
「そう思われます」
「私の代になって、かなり数の組織を壊滅させたけど、やっぱり犯罪組織自体を消滅させることは無理なようね」
「それでも以前より遥かに治安が良くなっております」
「ありがとう。でも、このカトル地方に、ネーベルバイパーを捕獲できるような組織なんてなかったはずよ」
「また新しい組織でしょうか?」
「その可能性が高いわね。慎重に調査なさい」
「ハッ! かしこまりました!」
続いてレイは両手を腰に当て、大きく溜め息をついた。
「それと報告書の件だけど……。前も言った通り私たちは部外者よ。報告書に私たちの名前は不要。トレバー隊で討伐したことにしなさい。面倒だわ」
「レイ様、お言葉ですが、もうこの討伐の話は止められません。すでに伝説として語られています」
「はああ。そうよね。確かに信じられないものを見たものね。それに討伐に参加した私の責任でもあるか……」
レイは腰に手を当てたまま、目を閉じ少しうつむく。
「カトル地方の守護は九番隊。隊長は……ジル・ダズか。いいわ、正直に報告して。あとは私がジル・ダズに説明する」
「九番隊本隊に寄っていただけるのですか?」
「そうね。ジル・ダズにはきちんと説明しないと、もしかしたらトレバーに迷惑かけるかもしれないから」
「そんな、迷惑だなんて。ただ、ジル隊長は特殊なお方ですから……」
溜め息をつくレイ。
どうやらジル・ダズという隊長が厄介なようだ。
「あの、レイ様。失礼を承知で伺うのですが……」
「何かしら?」
「騎士団へは戻られないのでしょうか? その、今回の件でも……やはり騎士団にはレイ様が必要かと」
「ありがとう。でも、戻る予定はないわ。ヴィクトリア女王陛下も分かってくださっているもの」
「し、失礼いたしました」
「でもそうね。冒険者としてできることがあれば、もちろん協力は惜しまないわよ」
「ありがとうございます!」
残りの処理は全て騎士団の仕事だ。
俺たちはもうやることがないので、そのまま宿へ移動。
ひとまず俺の部屋で、レイが珈琲を淹れてくれた。
「アル、私は別に怒ってないのよ? でもね、あまりにも理不尽な討伐だったから……」
俺はレイから無言で珈琲カップを受け取る。
「ね、ねえ、怒ってる?」
レイが申し訳なさそうな表情を見せていた。
「ご、ごめんなさい」
レイが泣き出しそうな表情で謝ってきた。
俺は我慢できずに吹き出す。
「ア、アハハ。レイ、なんで俺が怒るのさ」
「ちょ、ちょっと! アルが怒ってると思って不安だったんだから!」
「ごめんごめん。でも今回は凄く勉強になったよ。モンスターの追跡から討伐。後処理。集団での行動。そして一つはっきり分かったことがある」
「な、何かしら?」
「レイは騎士団団長がとても似合うってことさ」
「もう!」
「アハハ。でも、本当に良い経験になったよ。俺のために騎士団の討伐を手伝ったんでしょ? ありがとう」
「ふふふ、いいのよ。これで冒険者試験も大丈夫でしょう。アルならAランクも受かるわよ?」
「だから、それは無理だって!」
「ウォウォウォ」
エルウッドまで笑っていた。
人生初のモンスター討伐だったが、レイや騎士団のおかげで無事に討伐。
俺の手には弓の感触が残っており、正直まだ興奮している。
これから冒険者として生きていくのだから、慣れる必要があるだろう。
とはいえ、記念すべき初討伐だ。
その夜はレイとエルウッドと祝杯を上げた。
――
翌日、俺たちはラダーを発つ前に駐屯地へ寄る。
トレバーが出迎えてくれた。
「レイ様、今回は誠にありがとうございました。少ないですが、これは協力金です」
「今回は不要よ」
「そういうわけにはいきません!」
「私たちも討伐を利用させてもらったのよ。このお金は私たちが受け取ったことにして、隊員の討伐成功報酬に上乗せしなさい。あ! 忘れてたわ! アルが壊した弓代に使って……」
「し、しかし」
「いいのよ。ふふふ」
「しょ、承知いたしました。お心遣い感謝いたします」
トレバーが俺の前に立つ。
「アル、今回は本当にありがとう」
「いえ。こちらこそ、貴重な討伐経験をさせてもらいました」
「これでまだEランクというのが信じられないよ」
「アハハ、これからアセンでCランクを受験します」
「ああ、頑張ってな」
「はい、ありがとうございます」
「それにしてもアルが羨ましいよ。私があと十歳若かったら、レイ様の後を追って冒険者になったのに」
「え?」
「騎士団には、私と同じように考える人間は山ほどいるぞ。それほどレイ様は騎士団での影響力が高く、未だに全員がレイ様のために命をかけるのだよ。アッハッハ」
レイが溜め息をつく。
「もう、トレバー。バカなこと言わないの」
「し、失礼いたしました」
「ふふふ、じゃあ私たちは行くわ」
「ハッ! またどこかでお会いできることを願っております」
「ええ、ありがとう。それではトレバー隊に祝福を!」
「レイ様とアルに祝福を!」
俺たちはラダーの騎士団駐屯地を後にした。
◇◇◇
とある酒場にて。
小柄な男が大男に話しかける。
「結局、ネーベルバイパーは討伐されちまったよ」
「レイ・ステラーと満点男と狼牙か」
「厄介なことになっちまったわー」
「しばらく動向を探る。大きな動きはやめておこう」
「そうだな。ボスにも怒られたし、重要案件も外されたし。はー、最悪だ」
◇◇◇
「アル、これから討伐に入る。気をつけて」
「ああ、分かった」
レイが声をかけてくれた。
俺にとって初めてのモンスター討伐だ。
正直緊張している。
トレバーが指示を出し、討伐隊が陣形を組む。
俺とレイと四人の騎士が、洞窟の入り口から約三十メデルトほど離れて弓を用意。
そして篝火台を用意し、燃石に火をつける。
「アル、練習通りにやれば大丈夫よ」
「ありがとう」
初めての討伐で、初めての弓の実戦だ。
俺は大きく深呼吸し、心を落ち着かせる。
「レイ様、ではこれからネーベルバイパーを誘い出します」
「トレバー! 決して無理するな。無事を祈るぞ」
「ハッ! お気遣い感謝いたします」
トレバーがレイに報告を行い、防毒マスクを装着し洞窟へ入った。
最も危険な任務を小隊長であるトレバーが行う。
トレバーが洞窟に入っている間、誰も言葉を発さない。
ネーベルバイパーの猛毒は一瞬で人の命を奪う。
ここにいる全員がトレバーの無事を祈っている。
どれほどの時間が経っただろう。
篝火台の炎が弱まり、騎士が燃石を追加。
そのタイミングで、トレバーが洞窟から走って出てきた。
無事に出てきたトレバーに全員が安堵。
「全員、構え!」
トレバーの号令で、騎士たちは篝火台の火に矢を入れる。
燃える石の燃石で作られた鏃は、すぐに火がつく。
トレバーも弓を用意。
あれだけ走った後でも、弓を構えると呼吸は落ち着いた様子。
さすがはクロトエ騎士団の小隊長だ。
これで弓担当の七人が揃った。
ネーベルバイパーの鱗は硬い。
そのため、何度も繰り返し火矢を放ち、鱗を焼き、矢を通りやすくする。
そして焦げた鱗へ、さらに火矢を集中して狙う。
この作戦の欠点は、周囲に火が移りやすく、消火隊が必要になることだ。
しかし、現状ではネーベルバイパーの討伐はこの方法のみ。
ネーベルバイパーの討伐は大所帯かつ長期戦で、人員も資金も必要になる大変なものだった。
洞窟から、巨大な物体の這いずる音が聞こえる。
ゆっくりとネーベルバイパーが出てきた。
全体は見えないが、恐らく十メデルト以上あるだろう。
「こ、これが霧大蝮。銀目蛇の何倍あるんだ……」
樹海で遭遇する大型の毒蛇、銀目蛇。
体長二メデルトほどで、俺が見た中では最も大きい蛇だった。
だが、ネーベルバイパーは比較にならないほど大きい。
洞窟から威嚇するように、ゆっくりと頭を出すネーベルバイパー。
二つに割れた長い舌が不気味に動く。
夜行性のため、日中に起こされたことで怒っているようだ。
俺たちの姿を認識した瞬間、頭部から霧状の体液を噴射。
その霧は猛毒だ。
トレバーが号令をかける。
「射よ!」
俺以外の六人の弓から一斉に火矢が飛ぶ。
放たれた六本の矢は硬い鱗に弾かれたが、全ての矢が頭部の中心に当たっていた。
さすがは全員弓が得意な騎士だ。
俺は初めての討伐で緊張してしまい、もたついてしまった。
弓の扱いにも慣れておらず、少し遅れて皆が狙った眉間めがけて矢を放った。
唸る火矢。
明らかに他者とは違う速度。
空気を置き去りにする勢いで、火が消えかかっていた。
矢は眉間に命中。
その瞬間、凄まじい破裂音が発生。
眉間を貫き、後頭部を爆発させたかのように弾き飛ばした。
「やった!」
ネーベルバイパーがその場に崩れ落ちると、地面を揺らし砂埃が舞い上がった。
俺は手応えを感じ、レイの顔に目を向ける。
レイたち六人は次の矢を構えていたが、第二矢が飛ぶことはなかった。
それどころか、皆信じられないものを見たという表情を浮かべている。
広がる静寂。
「う、うおー! 倒したぞ!」
「倒したぞ!」
「やったぞ!」
静寂を破った隊員たちの歓喜の声が、小隊全体に広がる。
しかし、レイだけはなぜか怒った顔で近寄ってきた。
「あ、あなたデタラメにも程があるわ! たった一矢でネーベルバイパーを仕留めるなんて聞いたことがないわよ! 私たちの努力は一体なんだったのよ! 火矢の意味がないじゃない!」
「いや、そんなこと言われても……」
腰に両手を当て怒っているレイ。
「レ、レイ様。私も信じられません……」
トレバーまで怪訝な表情を浮かべている。
検死チームがゆっくりとネーベルバイパーへ近づく。
俺たちは改めて弓を構える。
もし生きていたら、すぐに矢を放つ必要があるからだ。
検死チームは慎重にネーベルバイパーの身体を確認。
ネーベルバイパーは死んでも毒が残っている。
死ねば毒が作られることはないが、死ぬ前までに作られた毒は体内に蓄積されているそうだ。
毒処理チームが慎重に毒を処理。
その間もネーベルバイパーが動くことはなかった。
全ての処理が完了し、ネーベルバイパーの討伐宣言が出された。
再度騎士たちが歓声を上げる。
歓声の中、レイはまだ腑に落ちない様子だ。
「もう、本当にデタラメなんだから!」
「アッハッハ、凄いですぞ! レイ様、こんな討伐は見たことも聞いたこともありません」
「そうでしょうね。ネーベルバイパーを一矢で倒したなんて、過去の事例でもないし、言っても誰も信じないわ」
「でも、私たちは目撃しました!」
「そうね。ひとまず、負傷者も犠牲者も出なかったことを喜びましょう」
皆が喜ぶ中、モンスターを倒したのに怒られた俺だった。
――
現地での処理が完了し、小隊は駐屯地へ帰還。
俺とレイは隊長室に呼ばれた。
「レイ様。どうやら、あのネーベルバイパーは捕獲されていたようです。体中に杭が打たれた傷跡や、太い鎖が巻かれていた痕跡が見つかりました。また、毒を絞り出していたような形跡もありました」
「犯罪組織が捕獲した個体が逃げ出した?」
「そう思われます」
「私の代になって、かなり数の組織を壊滅させたけど、やっぱり犯罪組織自体を消滅させることは無理なようね」
「それでも以前より遥かに治安が良くなっております」
「ありがとう。でも、このカトル地方に、ネーベルバイパーを捕獲できるような組織なんてなかったはずよ」
「また新しい組織でしょうか?」
「その可能性が高いわね。慎重に調査なさい」
「ハッ! かしこまりました!」
続いてレイは両手を腰に当て、大きく溜め息をついた。
「それと報告書の件だけど……。前も言った通り私たちは部外者よ。報告書に私たちの名前は不要。トレバー隊で討伐したことにしなさい。面倒だわ」
「レイ様、お言葉ですが、もうこの討伐の話は止められません。すでに伝説として語られています」
「はああ。そうよね。確かに信じられないものを見たものね。それに討伐に参加した私の責任でもあるか……」
レイは腰に手を当てたまま、目を閉じ少しうつむく。
「カトル地方の守護は九番隊。隊長は……ジル・ダズか。いいわ、正直に報告して。あとは私がジル・ダズに説明する」
「九番隊本隊に寄っていただけるのですか?」
「そうね。ジル・ダズにはきちんと説明しないと、もしかしたらトレバーに迷惑かけるかもしれないから」
「そんな、迷惑だなんて。ただ、ジル隊長は特殊なお方ですから……」
溜め息をつくレイ。
どうやらジル・ダズという隊長が厄介なようだ。
「あの、レイ様。失礼を承知で伺うのですが……」
「何かしら?」
「騎士団へは戻られないのでしょうか? その、今回の件でも……やはり騎士団にはレイ様が必要かと」
「ありがとう。でも、戻る予定はないわ。ヴィクトリア女王陛下も分かってくださっているもの」
「し、失礼いたしました」
「でもそうね。冒険者としてできることがあれば、もちろん協力は惜しまないわよ」
「ありがとうございます!」
残りの処理は全て騎士団の仕事だ。
俺たちはもうやることがないので、そのまま宿へ移動。
ひとまず俺の部屋で、レイが珈琲を淹れてくれた。
「アル、私は別に怒ってないのよ? でもね、あまりにも理不尽な討伐だったから……」
俺はレイから無言で珈琲カップを受け取る。
「ね、ねえ、怒ってる?」
レイが申し訳なさそうな表情を見せていた。
「ご、ごめんなさい」
レイが泣き出しそうな表情で謝ってきた。
俺は我慢できずに吹き出す。
「ア、アハハ。レイ、なんで俺が怒るのさ」
「ちょ、ちょっと! アルが怒ってると思って不安だったんだから!」
「ごめんごめん。でも今回は凄く勉強になったよ。モンスターの追跡から討伐。後処理。集団での行動。そして一つはっきり分かったことがある」
「な、何かしら?」
「レイは騎士団団長がとても似合うってことさ」
「もう!」
「アハハ。でも、本当に良い経験になったよ。俺のために騎士団の討伐を手伝ったんでしょ? ありがとう」
「ふふふ、いいのよ。これで冒険者試験も大丈夫でしょう。アルならAランクも受かるわよ?」
「だから、それは無理だって!」
「ウォウォウォ」
エルウッドまで笑っていた。
人生初のモンスター討伐だったが、レイや騎士団のおかげで無事に討伐。
俺の手には弓の感触が残っており、正直まだ興奮している。
これから冒険者として生きていくのだから、慣れる必要があるだろう。
とはいえ、記念すべき初討伐だ。
その夜はレイとエルウッドと祝杯を上げた。
――
翌日、俺たちはラダーを発つ前に駐屯地へ寄る。
トレバーが出迎えてくれた。
「レイ様、今回は誠にありがとうございました。少ないですが、これは協力金です」
「今回は不要よ」
「そういうわけにはいきません!」
「私たちも討伐を利用させてもらったのよ。このお金は私たちが受け取ったことにして、隊員の討伐成功報酬に上乗せしなさい。あ! 忘れてたわ! アルが壊した弓代に使って……」
「し、しかし」
「いいのよ。ふふふ」
「しょ、承知いたしました。お心遣い感謝いたします」
トレバーが俺の前に立つ。
「アル、今回は本当にありがとう」
「いえ。こちらこそ、貴重な討伐経験をさせてもらいました」
「これでまだEランクというのが信じられないよ」
「アハハ、これからアセンでCランクを受験します」
「ああ、頑張ってな」
「はい、ありがとうございます」
「それにしてもアルが羨ましいよ。私があと十歳若かったら、レイ様の後を追って冒険者になったのに」
「え?」
「騎士団には、私と同じように考える人間は山ほどいるぞ。それほどレイ様は騎士団での影響力が高く、未だに全員がレイ様のために命をかけるのだよ。アッハッハ」
レイが溜め息をつく。
「もう、トレバー。バカなこと言わないの」
「し、失礼いたしました」
「ふふふ、じゃあ私たちは行くわ」
「ハッ! またどこかでお会いできることを願っております」
「ええ、ありがとう。それではトレバー隊に祝福を!」
「レイ様とアルに祝福を!」
俺たちはラダーの騎士団駐屯地を後にした。
◇◇◇
とある酒場にて。
小柄な男が大男に話しかける。
「結局、ネーベルバイパーは討伐されちまったよ」
「レイ・ステラーと満点男と狼牙か」
「厄介なことになっちまったわー」
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