モノマニア

田原摩耶

文字の大きさ
上 下
48 / 88
イレギュラーは誰なのか

醜聞と熱血漢と

しおりを挟む
 純が運転するバイクで二ケツして、そのまま学校へと戻ってきた俺達を出迎えたのは、どことなく殺気立ったチームのやつらだった。いや、今は親衛隊なのだろうか。……どっちでもいいけど。

「お疲れさん」

 むすっとしたやつや、中には悔しそうな顔をして俺を出迎える連中の先頭。ただ一人いつもと変わらない人よさそうな笑みを浮かべるユッキーはバイクから降りる俺に近付いてくる。「ん」と返せば、小さく耳打ちをされた。

「帰ってきたばかりで悪いんだけど、ちょっといいか?」

 なんとなく、周りのやつらの様子から内容は察することができた。出来たけど、やっぱり身構えてしまう。

「別にいーけど…」

 警戒心を悟られないよう、取り繕いながら頷き返した俺は言うや否や歩き出すユッキーの後を追い掛けた。
 すると、そんな俺の後ろからついてこようとした純に気付いたようだ。振り返ったユッキーは手を振り、純を払う。

「お前は待ってろ、いいな」

 誰もついてくるな。口には出さないが、ユッキーの目にはそう書かれている。純も純で物分りが悪い方ではない。

「…さっさと済ませて下さいよ」

 不貞腐れたように呟く純と他のメンバーをその場に残し、俺達は校舎裏の裏庭へと移動する。
 中庭とは対照的に、日当たりも悪く荒れ放題のそこは人気がない。みんな、ベンチがある中庭の方が好きならしい。それでも、ユッキーは人がいなければいいようだ。

「仙道、またヒズミに突っ掛かられたって本当か?」

 裏庭にて。
 向かい合う形で佇むユッキーは単刀直入に聞いてきた。
 ある程度、何を言われるかは予測していた。
 それでも、やはり、ヒズミの名前を聞くと脈が速まる。

「……なんで」
「人伝に聞いた。…どっかから洩れたんだろうな、そいつらは口止めしておいたけど既にもう学校では仙道の噂がかなりの範囲で広まっている」

 まあだいたい、予想通り。……最悪だけど。
 苦虫を噛み潰したような渋い顔をするユッキー。震えが走る全身を落ち着かせるように深い息を吐けば、「仙道」と肩を掴まれる。
 見上げれば、心配そうなユッキー。俺は、その手をやんわりと退け微笑んだ。

「んー…そうだねぇ、どうせ、遅かれ早かれこんなことになるだろうとは思ってたんだけどねぇ…そっかぁ…このタイミングかぁ…」

 さいあく、と顔の筋肉が強張る。マコちゃんがいないときに、いやいなくて良かったかもしれない。
 そんな噂、マコちゃんに聞かれたくない。聡いマコちゃんのことだから既に気づかれてるとしても、嫌だった。

「今、親衛隊のやつらに噂の発信源を探らせてる。それと、デマだって噂も流させてるけど…」
「多分さぁ、それ、無理だよ。このタイミングでマコちゃんが動いてあいつまで問題起こしたんだから噂の信憑性はかなり高くなってるはずだし」

 そう、ユッキーを諭す自分の声は驚く程冷めていた。
 不安と混乱でごちゃごちゃになった頭は、逆に俺の脳を落ち着かせてくれているのかもしれない。それとも、感情の放棄か――自分では判断つかない。

「俺のことはもーいいから、言いたい奴に言わせておけばいいよ」
「でも」
「いいんだって。どうでも、俺のことなんか」

 どうでもいい。そう、投げやりな口調で呟いたとき、伸びてきたユッキーの手に胸ぐらを掴まれる。そのまま強く引っ張られ、鼻先が近づいた。

「おい。そういうこと、他の奴らの前で言うなよ」

 至近距離。先程までの微笑みはどこに行ったのか、不快そうに目を細めたユッキーは俺を睨み付ける。
 久し振りに見た怒ったユッキーに内心驚いたが、それくらいで怯むような性格はしていない。
 なんでユッキーがそんな顔をするのかわからなくて、俺はじっとユッキーを見つめ返す。 

「なんで」
「総長の悪口を言う奴は誰であろうと許さねー。今度そんなこと言ったら二度と喋れねえようにするから」
「…」
「なんのために俺らがいると思ってんだよ。もっと利用しろよ、気に入らねえやつがいたら『潰せ』って命令しろ。お前のためなら喜んで潰してくるやつらがいるだろうが、仙道の周りには」

「俺らを纏めてるやつが顔に泥塗られた挙句泣き寝入りなんてぜってえ許さねえから」と、吐き捨てるように続けるユッキーの手に力が入り、ちょっと息苦しい。
 本当、変なところで熱血なんだから。暑苦しーねえ。なんて思いながら、俺は「ユッキー」と胸ぐらをつかむその手に触れる。

「昔のキャラに戻ってる」
「誰のせいだと思ってんだよ」

 そこで、ようやくユッキーの手は外れる。だけど、ユッキーから怒りは消えない。

「仙道がわざわざ手を汚す必要はない。お前の手を煩わせるくらいなら俺がやる」

 ここまでユッキーが感情的になるのは珍しい。いや、昔は単細胞を具現化したようなやつだったけど、大分落ち着いている今、こうしてまた怒るユッキーを見るのは初めてかもしれない。なんとなく、俺がいない間に色々あったのだろうということが伺えた。
 触れたユッキーの手は、赤くなっている。

「とにかく、色々言ってくる奴が出てくるだろう。そうしたら、すぐに俺たちに言ってくれ」

 具体的にどう対処するかは口に出さないか、ユッキーから滲み出る薄暗い殺気に大体は予想付いた。
 一頻り気持ちを吐き出し、落ち着きを取り戻したユッキーは俺を真っ直ぐ見据える。

「余計な気だけは起こすなよ」
「……」

 俺はなにも答えなかった。余計な気とはなんのことだろう。
 俺がヒズミに殴り込む?それとも諦めて自害?……分からない。

「おい、まだかよ!」

 そのときだ、遠くから純の怒鳴り声が聞こえてくる。どうやら一向に現れない俺達に焦れたようだ。

「ったく、あいつまじで気ぃ短いな……」

 ユッキーは舌打ちし、バツが悪そうに俺を見た。

「仙道、そろそろ戻るか」
「うん…戻る」

 頷き返せばユッキーは手をこちらに差し出してくる。
 握れ、ということなのだろう。わかったが、体が動かない。
 出された手を取ることが出来ず、そのまま押し黙る俺に寂しそうな顔をしたユッキーは手を引っ込めた。

「ごめんね、ユッキー」

 ユッキーのことを信じていないわけではない。今はただ、簡単にユッキーに甘えてはいけないような気がしてならないのだ。
 ここでユッキーや他のやつらに頼ったらなけなしの自尊心が消え去ってしまいそうで、ユッキーの顔を見るのが辛くて俯いたとき、頭にポンと手を置かれた

「そういうときは『アリガトウゴザイマス』だろ」

 そう、わしわしと俺の髪を掻き乱したユッキーはそのまま俺の前を行くように歩き出した。特攻隊長の背中はひどく頼もしい。
 この場にはいないマコちゃんの後ろ姿と重なり、ちくりと痛む胸を抑えながら俺はユッキーのあとに続いた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

王道学園なのに会長だけなんか違くない?

ばなな
BL
※更新遅め この学園。柵野下学園の生徒会はよくある王道的なも のだった。 …だが会長は違ったーー この作品は王道の俺様会長では無い面倒くさがりな主人公とその周りの話です。 ちなみに会長総受け…になる予定?です。

短編集

田原摩耶
BL
地雷ない人向け

ド平凡な俺が全員美形な四兄弟からなぜか愛され…執着されているらしい

パイ生地製作委員会
BL
それぞれ別ベクトルの執着攻め4人×平凡受け ★一言でも感想・質問嬉しいです:https://marshmallow-qa.com/8wk9xo87onpix02?t=dlOeZc&utm_medium=url_text&utm_source=promotion 更新報告用のX(Twitter)をフォローすると作品更新に早く気づけて便利です X(旧Twitter): https://twitter.com/piedough_bl

学園の天使は今日も嘘を吐く

まっちゃ
BL
「僕って何で生きてるんだろ、、、?」 家族に幼い頃からずっと暴言を言われ続け自己肯定感が低くなってしまい、生きる希望も持たなくなってしまった水無瀬瑠依(みなせるい)。高校生になり、全寮制の学園に入ると生徒会の会計になったが家族に暴言を言われたのがトラウマになっており素の自分を出すのが怖くなってしまい、嘘を吐くようになる ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿です。文がおかしいところが多々あると思いますが温かい目で見てくれると嬉しいです。

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた異国の貴族の子供であるレイナードは、人質としてアドラー家に送り込まれる。彼の目的は、内情を探ること。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイどころか悪役令息続けられないよ!そんなファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 真面目で熱血漢。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。 受→レイナード 斜陽の家から和平の関係でアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

病んでる僕は、

蒼紫
BL
『特に理由もなく、 この世界が嫌になった。 愛されたい でも、縛られたくない 寂しいのも めんどくさいのも 全部嫌なんだ。』 特に取り柄もなく、短気で、我儘で、それでいて臆病で繊細。 そんな少年が王道学園に転校してきた5月7日。 彼が転校してきて何もかもが、少しずつ変わっていく。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 最初のみ三人称 その後は基本一人称です。 お知らせをお読みください。 エブリスタでも投稿してましたがこちらをメインで活動しようと思います。 (エブリスタには改訂前のものしか載せてません)

王道学園なのに、王道じゃない!!

主食は、blです。
BL
今作品の主人公、レイは6歳の時に自身の前世が、陰キャの腐男子だったことを思い出す。 レイは、自身のいる世界が前世、ハマりにハマっていた『転校生は愛され優等生.ᐟ‪‪.ᐟ』の世界だと気付き、腐男子として、美形×転校生のBのLを見て楽しもうと思っていたが…

無自覚副会長総受け?呪文ですかそれ?

あぃちゃん!
BL
生徒会副会長の藤崎 望(フジサキ ノゾム)は王道学園で総受けに?! 雪「ンがわいいっっっ!望たんっっ!ぐ腐腐腐腐腐腐腐腐((ペシッ))痛いっっ!何このデジャブ感?!」 生徒会メンバーや保健医・親衛隊・一匹狼・爽やかくん・王道転校生まで?! とにかく総受けです!!!!!!!!!望たん尊い!!!!!!!!!!!!!!!!!! ___________________________________________ 作者うるさいです!すみません! ○| ̄|_=3ズザァァァァァァァァァァ

処理中です...