モノマニア

田原摩耶

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イレギュラーは誰なのか

忘れ物にご注意を

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 寄り道というからもしやデートかと胸をときめかした俺だったが、マコちゃんが向かった先はとある特別教室で。

「……寄り道って」

 ここかよ、と俺は口の中で呟いた。
 背の高い本棚に隙間なく詰め込まれた大量の書物。『図書館ではお静かに!』という張り紙が至るところに貼られたそれの効果か、やけに静かだった。
 ――学園附属の図書館にて。
 なにやら小難しい単語が並ぶ書物を選んでいるマコちゃんは、どうすればいいのかわからず立ち往生している俺を見る。

「京は本とか読まないのか」
「読まないよー。なんか眠くなるし」
「こういうのもか?」

 そう言って近くの本棚から取り出したのは愛らしい絵が描かれた所謂絵本。すごい全部ひらがな。

「マコちゃん、俺のことなんだと思ってんの」
「く、はは……悪い、冗談だから拗ねるな」
「むー…」

 なんとなく腑に落ちなかったが、マコちゃんの笑顔が可愛いのでよしとしよう。
 ……といったものの、やることがない。
 普段いくら暇でも教科書参考書は勿論小難しい単語が並ぶ本は読まないようにしている俺からして、図書館はデートコースとしてはいまいち魅力に欠ける。
 ようへー君といいマコちゃんといい、皆図書館好きだなー。俺といるより本がいいってやつ?うーん、それにしても真剣に本選んでるマコちゃんかっこいいー。でも暇ー。ちょっとだけ、本相手に妬きそうになる自分に苦笑が出た。
 あまりにも退屈で死にそうだったので、俺はマコちゃんに擦り寄ることにした。

「マコちゃんってどんなん読むの?えっちなやつ?」

 言いながらマコちゃんの背後から腕を回せば、手に持っていた本を俺に見せてくる。

「違う、参考書だ」
「うわああー、目がァ目がァ」
「なんでダメージ受けてんだよ」

 笑うマコちゃん。今日はマコちゃんはよく笑う。
 まあ、怒られるよりはそっちのがいいんだけど。

「マコちゃんってホントゆうとうせーだよね。…まじ俺とは正反対じゃん~」
「…」

 本当、こうしてマコちゃんを見ていると思う。
 自分みたいなのがマコちゃんと一緒にいていいのかって、返って邪魔なんじゃないかって。だからといって離れていくような謙虚さは兼ね揃えていないが、もし俺が今マコちゃんに絡んでいなかったらマコちゃんはもっと頭良くなってたりしてたんじゃないのかって思って。そんなこと考えてたら、ちょっとだけ寂しくなる。
 マコちゃんの邪魔にならないよう、伸し掛かるのをやめて大人しく待ってようとした時だ。

「京」

 マコちゃんに腕を掴まれ、足を止める。「んー?」とマコちゃんを振り返った時、持っていた本を俺の顔の横に持ってきたマコちゃん。
 次の瞬間、ふにっと柔らかい感触が唇に触れた。温かいそれが何なのかすぐにわかり、目を丸くしてすぐそばにあったマコちゃんの顔を見つめた時、唇は離れる。

「な、な、なに…マコちゃん…」
「仕返し」

 ――このタイミングで?
 まさかマコちゃんがけしかけてくるなんて思わなくて、どきどきと煩い心臓を抑えるけど脈は乱れるばかりで。
 顔が熱い。

「い、意味わかんないし。マコちゃんのキス魔っ!あんぽんたん!」
「いや、お前に言われたくないぞ」

 タコみたいになる俺にマコちゃんは悪戯っ子みたいに笑って、それで、自分のしたことの重大さに気付いたようだ。じわじわと赤くなっていく。
 慣れないことをするからそうなるんだ。そう笑って、俺は赤くなったマコちゃんの耳に軽く唇を落とした。
 ビクッと跳ね上がり、俺を睨むマコちゃんに、へへーっと笑い返せばマコちゃんは「馬鹿」と呆れたような顔をする。
 うん、多分俺は馬鹿で単純な奴なんだろうなぁ。マコちゃんの笑顔を見ただけで心が満たされる。そんで、そんな自分が嫌いじゃない。

 本を選び終わって、数冊の参考書を手に自動貸出機の前までやってくるマコちゃん。その隣に一冊の本を手にした俺は並んだ。

「なんだ、京も読むのか?」
「うん、マコちゃんの真似~」
「へぇ。借りるからにはちゃんと読めよ」
「うん、また一緒に返しに来ようねぇ」
「そうだな」

 目を伏せ、笑うマコちゃん。本当に読むかどうかわかんないけど、マコちゃんが好きだという読書ってのを自分も知りたいと思ったのは事実で。
 本読んでマコちゃんみたく頭良くなったら一石二鳥じゃね?とか思いながら、俺はマコちゃんの後に本を借りる。

 本を借り終え、もう帰んのかなーどっか寄りたいなーとか思いながらフラフラと図書館の出入り口へと向かった時だった。自分の手に本しか握られていないことに気付き、ぎょっとする。
 日桷達の名簿が入った封筒がない。

「あ、おい、京。なにか忘れてるぞ…ん?」

 どこに落としたっけ、と全身の血が引いていったとき。
 カウンター前。茶封筒を手にしたマコちゃんに俺は青褪めた。
 そして、咄嗟に俺はマコちゃんの手からそれを取り上げる。――ほんの、一瞬の間だったと思う。
 驚いたように目を丸くするマコちゃんに、しまった、と俺は固まった。
 マコちゃんはただ拾ってくれただけなのに、こんな、あからさまに警戒するような真似をするなんて。

「……ごめん、俺」

 後ろめたさから口籠る。
 どうしたらいいのかわからなくて、茶封筒を隠す俺にマコちゃんは少しだけ目を細めたがそれも一瞬、すぐにいつもと変わらない笑みを浮かべた。

「今度は忘れないよう気を付けろよ」

 優しい声。すれ違いざま、ぽんと頭を叩かれる。
 そして、そのまま図書館の出入り口へと足を向かわせるマコちゃんの背中に、なんだか俺は叫びたい気持ちになる。
 ……絶対、変に思われた。もしかしたら傷付けたかもしれない。
 然程他人を傷付けようがどうでも良かったのに、なんでだろうか、少しだけ寂しそうなマコちゃんの後ろ姿に胸が痛んで、その隣へ並ぶことを躊躇ってしまう。

「……京?」

 立ち止まったまま動かない俺に気付いたようだ。
 ふと、こちらを振り返ったマコちゃんに呼び掛けられ、俺はおずおずと駆け寄った。今度は落とさないよう、しっかりと封筒を抱きかかえて。

 結局、俺達はそのまま寮へと戻った。
 それから、何もなかったように一緒の時間を過ごしたが茶封筒の存在が俺の気を乱す。マコちゃんにだけは見られたくないそれは滅多に使うことのないぺっちゃんこの俺の鞄に仕舞うことで決まった。
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