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イレギュラーは誰なのか
友達以上恋人以上
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「っ、マコちゃん……?」
まさか来てくれるとは思ってもいなかった俺は慌ててユッキーから手を離し、狼狽えながら名前を呼び返す。
その時、ユッキーの方から舌打ちが聞こえたような気がしないでもないけどきっと俺の聞き間違いだろう。そう思うことにした。
まさか、マコちゃんが追いかけてくるとは思わなかった俺は抱えていた封筒を隠す。すると、ポンっとユッキーに頭を撫でられた。
「お前の友達もきたし、そろそろ俺は戻るよ。…また何かあったら言えよ」
「ユッキー」
小さく耳打ちをされ、釣られるように顔を上げればユッキーはそのまま歩き出した。すれ違い様、その一瞬だけマコちゃんとユッキーが睨み合う。
なんとなく胸がざわついて、仲裁に入ろうとしたがそれも束の間。何事もなかったかのようにしてユッキーはその場を立ち去った。
そして、入れ替わるようにしてマコちゃんが俺の前へとやってくる。ちょっとだけ、緊張してしまうのは封筒があるからだろう。
後退る俺に気付かず、マコちゃんは問い掛けてくる。
「さっき、風紀室に来てただろ。なにか用があったんじゃないのか」
「……あー、や、別にそういう訳じゃないんだけど、マコちゃんに会いたくなったからこそっと…ごめんねー、邪魔しちゃって」
「邪魔なわけないだろ」
「ん…ありがと」
変わらない態度にほっとする。
だけど頭に先ほどヒズミと並んでいる映像がチラついて、気が気でなくなる。このままうだうだ悩むのも性に合わないので思い切ってヒズミのことを尋ねることにした。
「あのさ、マコちゃん。…ちょっと聞きたいことあんだけど」
「聞きたいこと?」
「さっきの…ヒズミと、何話してたの?」
「ヒズミ?…あぁ、なにというか、まあ、大した事じゃない。廊下を走っていたから注意しただけだ」
別にマコちゃんを疑うつもりもないが、あの傍若無人を具現化したようなヒズミと対等に会話出来る人間は限られている。ましてや、注意なんて。それほど、マコちゃんの器が大きいということなのだろう。
内心ホッとしながら、「ふーん」と呟いた。
「俺の方からも質問いいか」
そんな中、そう尋ねてきたのはマコちゃんだった。
まさかそう言われるなんて思わなくて、「え?」とあほな顔をした俺はなんとなく緊張しながら「いいけど…」と口ごもる。
真剣な顔をしたマコちゃんに、なんとなく嫌な予感がした。目があって、マコちゃんはゆっくりと口を開く。
「日桷和馬とは知り合いなのか」
その一言に、ドクンと心臓が大きく弾んだ。落ち着きかけていた脈が乱れ始め、呼吸が荒くなる。声が出ない。
あからさまに動揺する自分を隠すため、なにかを言おうとするが頭は真っ白で何も考えられない。視線を泳がし、言葉を探す。
「し…知り合いっていうか」
そして、ようやく俺は喉奥から声を絞り出した。自分では平静を取り繕ったつもりの声はみっともなく震えていて、それを隠すように俺は矢継ぎ早に言葉を紡ぐ。
「や、別に知らない。知らない、俺、あんなやつ知らない。変なの、そんなこと、分かりきってるじゃん。聞かないでよ、一々、やだなぁマコちゃんってば、俺」
吃るな、目を泳がすな、汗を滲ませるな。異変を察せられるな。そう、脳に言い聞かせるが、マコちゃんの真っ直ぐな眼で見つめられたら全てが無意味だった。
「っ、俺」
脳裏に、全身に、ヒズミとの記憶が蘇る。言葉が途切れた。頭が動かなくなって、全身からどっと汗が吹き出し、震え出す。
「おれ」
いても立ってもいられなくて、自分が何を言ってるのかさえもわからなくて、どうしてマコちゃんがそんなことを聞いてくるのかわからなくて、そんな顔をしているのかわからなくて。
疼く手首をぎゅっと握り締めた時、ふと、伸びてきた手に体を抱き寄せられた。包み込まれる体、流れ込んでくる体温。
「……わかった」
耳元で聞こえてくるのは、大好きな声。
「悪いな、変なこと聞いて」
申し訳なさそうなマコちゃんは優しく俺の背中を撫でてくれる。
子供をあやすような、優しく包み込むような仕草に加速した脈が次第に落ち着いていくのがわかった。
密着した首元。香る優しくて柔らかい匂いが、マコちゃんの存在を強く感じさせ、ヒズミの存在を掻き消してくれる。――心地のいい、体温。
その背中に手を伸ばそうとしたとき、マコちゃんが離れた。
「マコちゃ…」
名残惜しさに手を伸ばせば、マコちゃんは照れ臭そうに笑いながら俺の手を握り締めてくれた。絡まる指先。
顔を上げれば、優しく微笑むマコちゃんは俺の髪を撫でる。
「委員の仕事も終わったし、どうだ。たまには一緒に戻るか」
俺が生徒会に入ってから、お互い多忙な委員活動のお陰で休みが噛み合わず、なかなか共に過ごすことができなくなった。それだけに、マコちゃんからの申し出は嬉しくて。
「うん…マコちゃんがそうゆーなら、いいよ」
そう、離れないようにぎゅっとマコちゃんの手を握り締めれば、マコちゃんは少しだけくすぐったそうにして、俺の目を見て笑う。
「なら、寄り道をしよう」
まさか来てくれるとは思ってもいなかった俺は慌ててユッキーから手を離し、狼狽えながら名前を呼び返す。
その時、ユッキーの方から舌打ちが聞こえたような気がしないでもないけどきっと俺の聞き間違いだろう。そう思うことにした。
まさか、マコちゃんが追いかけてくるとは思わなかった俺は抱えていた封筒を隠す。すると、ポンっとユッキーに頭を撫でられた。
「お前の友達もきたし、そろそろ俺は戻るよ。…また何かあったら言えよ」
「ユッキー」
小さく耳打ちをされ、釣られるように顔を上げればユッキーはそのまま歩き出した。すれ違い様、その一瞬だけマコちゃんとユッキーが睨み合う。
なんとなく胸がざわついて、仲裁に入ろうとしたがそれも束の間。何事もなかったかのようにしてユッキーはその場を立ち去った。
そして、入れ替わるようにしてマコちゃんが俺の前へとやってくる。ちょっとだけ、緊張してしまうのは封筒があるからだろう。
後退る俺に気付かず、マコちゃんは問い掛けてくる。
「さっき、風紀室に来てただろ。なにか用があったんじゃないのか」
「……あー、や、別にそういう訳じゃないんだけど、マコちゃんに会いたくなったからこそっと…ごめんねー、邪魔しちゃって」
「邪魔なわけないだろ」
「ん…ありがと」
変わらない態度にほっとする。
だけど頭に先ほどヒズミと並んでいる映像がチラついて、気が気でなくなる。このままうだうだ悩むのも性に合わないので思い切ってヒズミのことを尋ねることにした。
「あのさ、マコちゃん。…ちょっと聞きたいことあんだけど」
「聞きたいこと?」
「さっきの…ヒズミと、何話してたの?」
「ヒズミ?…あぁ、なにというか、まあ、大した事じゃない。廊下を走っていたから注意しただけだ」
別にマコちゃんを疑うつもりもないが、あの傍若無人を具現化したようなヒズミと対等に会話出来る人間は限られている。ましてや、注意なんて。それほど、マコちゃんの器が大きいということなのだろう。
内心ホッとしながら、「ふーん」と呟いた。
「俺の方からも質問いいか」
そんな中、そう尋ねてきたのはマコちゃんだった。
まさかそう言われるなんて思わなくて、「え?」とあほな顔をした俺はなんとなく緊張しながら「いいけど…」と口ごもる。
真剣な顔をしたマコちゃんに、なんとなく嫌な予感がした。目があって、マコちゃんはゆっくりと口を開く。
「日桷和馬とは知り合いなのか」
その一言に、ドクンと心臓が大きく弾んだ。落ち着きかけていた脈が乱れ始め、呼吸が荒くなる。声が出ない。
あからさまに動揺する自分を隠すため、なにかを言おうとするが頭は真っ白で何も考えられない。視線を泳がし、言葉を探す。
「し…知り合いっていうか」
そして、ようやく俺は喉奥から声を絞り出した。自分では平静を取り繕ったつもりの声はみっともなく震えていて、それを隠すように俺は矢継ぎ早に言葉を紡ぐ。
「や、別に知らない。知らない、俺、あんなやつ知らない。変なの、そんなこと、分かりきってるじゃん。聞かないでよ、一々、やだなぁマコちゃんってば、俺」
吃るな、目を泳がすな、汗を滲ませるな。異変を察せられるな。そう、脳に言い聞かせるが、マコちゃんの真っ直ぐな眼で見つめられたら全てが無意味だった。
「っ、俺」
脳裏に、全身に、ヒズミとの記憶が蘇る。言葉が途切れた。頭が動かなくなって、全身からどっと汗が吹き出し、震え出す。
「おれ」
いても立ってもいられなくて、自分が何を言ってるのかさえもわからなくて、どうしてマコちゃんがそんなことを聞いてくるのかわからなくて、そんな顔をしているのかわからなくて。
疼く手首をぎゅっと握り締めた時、ふと、伸びてきた手に体を抱き寄せられた。包み込まれる体、流れ込んでくる体温。
「……わかった」
耳元で聞こえてくるのは、大好きな声。
「悪いな、変なこと聞いて」
申し訳なさそうなマコちゃんは優しく俺の背中を撫でてくれる。
子供をあやすような、優しく包み込むような仕草に加速した脈が次第に落ち着いていくのがわかった。
密着した首元。香る優しくて柔らかい匂いが、マコちゃんの存在を強く感じさせ、ヒズミの存在を掻き消してくれる。――心地のいい、体温。
その背中に手を伸ばそうとしたとき、マコちゃんが離れた。
「マコちゃ…」
名残惜しさに手を伸ばせば、マコちゃんは照れ臭そうに笑いながら俺の手を握り締めてくれた。絡まる指先。
顔を上げれば、優しく微笑むマコちゃんは俺の髪を撫でる。
「委員の仕事も終わったし、どうだ。たまには一緒に戻るか」
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「うん…マコちゃんがそうゆーなら、いいよ」
そう、離れないようにぎゅっとマコちゃんの手を握り締めれば、マコちゃんは少しだけくすぐったそうにして、俺の目を見て笑う。
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